目次
1. 基調和音の相対化
改めまして、ポピュラー音楽を構成する基本となるのが「六つの基調和音」です。
これは「キーの音階をもとに“お団子がさね”で作ったコードたち」でしたから、基調和音のメンバーというのはキーごとに異なるんでしたね。
しかしこれは理論を展開するうえではちょっと不都合です。というのも、例えば「基調和音の1番目のコード」を指し示すための簡素な言葉がありません。いちいち「基調和音の1番目のコード…1番目というのはつまりCメジャーキーでいうところのCのコードなんですが」と説明せねばならないのが現状で、とてつもなく冗長です。
キーを基準にした相対的な名前をつけたい。それが今回の主旨です。
2. ローマ数字で書く
そうはいっても、せっかくABCDで短く言いやすいものが、長くなってしまっては不便。そこで選ばれたのが、ローマ数字です。1番目の和音から順番に、ローマ数字で番号を振っていくのです。
こうだ。そしてこのように名付けた新しい名前を、ディグリー・ネームDegree Nameといいます。
上図はCメジャーキーの場合。一番左の和音はコードネームだと「C」ですが、ディグリーネームだと「I」と呼ばれるわけです。数字以外はコードネームと同じ形式を保ちますので、マイナーコードには「m」がつきます。いわば背番号のついたユニフォームがあって、キーによって「あなたが番号IV番です」とかいって着せていくようなイメージになります1。
ディグリーの読み方
読み方については「Two-minor」「Five」など英語で読む人、「に・まいなー」「ご」など日本語で言う人、それから「二度・マイナー」「五度」という風に、「度」という助数詞をつけて読む人がいます。
3. さっそく実践
これからの表記はコードネームではなくディグリーネームを使っていくことになります。そうはいっても、この説明だけでは抽象的でわかりにくい。実際に現実のシチュエーションで、コードネームとディグリーネームをどんな風に使い、変換していくかを紹介します。
ディグリーへ抽象化する
お気に入りのコードに出会った。ウェブで調べたら、キーはG、コードは「Em-C-G-D」らしい。 せっかくだから、他の調でも使えるようにディグリーネームで覚えたい。
そうなったらまず、頭の中にGメジャーキーの基調和音を思い浮かべる必要があります。その方法は、鍵盤や楽譜で確かめながらやるか、五度圏でやるか、2通りの方法があるのですが、まずは前者からいきます。
Gメジャーキーでは、♯は1つです(これは五度圏で確認)。G、つまりソの音から音階を作って、コードを重ねていって基調和音を作る。そしてI IIm IIIm IV V VImと番号を振っていく!
こうです。
それからGのとなりはAm、AmのとなりはBmというふうにコードネームを振っていくと・・・
こうだ! これで調べると、先ほどの「Em-C-G-D」というコードは、ディグリーだとVImIVIVという表記になることが分かります。これで抽象化は完了。もしこれをキーCで使いたければ、逆に具体化しなおせば「Am-F-C-G」と分かります。
五度圏を使って変換
しかしやっぱり、楽譜で考えるというのはけっこう大変な作業です。今度は前回やったように、五度圏を活用しましょう。
コレで一発! やっぱりこっちの方が楽ですね。
ディグリーの位置を確認すると。中心がI、時計回りに進んだ方がV、逆がIV。マイナーの方は、左からIIm,VIm,IIImの順になっています。
このようにして、具体的なコード進行をディグリーへと変換する分析作業を、ローマ数字分析Roman Numeral Analysisといいます2。
ディグリーから具体化
ちょっと一緒に即興演奏をしよう!キーはEメジャーで、コードはIV-V-Iで行こう。
こんな風に言われたら、今度は具体的なコードネームに直さないと演奏できません。五度圏を使って、Eメジャーキーの基調和音を確認します。
ここから楽譜に起こすこともできます。
こうですね。つまり、キーEのIVVIとは、A-B-Eという進行を指していたわけです。
やっぱりこの五度圏は印刷して部屋の壁に貼っておくべきでしょう!🌝
今後読み進めるにあたっては、基本であるCメジャーキーでの基調和音とローマ数字の対応は、頑張って早いうちに覚えてもらいたいと思います。今後の解説でもIImVなどとポンポン登場するので、その時頭の中でDmGと変換できるようにしてほしいのです。他は、実際の作曲の中で登場したキーから順番に少しずつ覚えていけばよいです。