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4. マイナーキーでのディグリー

では、マイナーキーにおいてはどのようなディグリー振りをするのでしょうか? 一般的な音楽理論では、例えばAマイナーキーならAmコードがリーダーなわけですから、Amに背番号I番を着せるべきと考えます。

Jazz style※II番は基調和音から外れるのでここでは割愛

Cメジャーキーの時には「VIm」と呼ばれていたAmさんが、リーダーらしく「Im」という名前で呼ばれることになるほか、III・VI・VIIには諸事情で♭がつきます。

ですから従来の理論では2種類のナンバリングシステムを習得し、キーの長短に応じてそれを使い分ける方針になっています。

ただこの方針には問題があります。まず単に2種類のシステムを覚えるのが面倒であること、そして何より、キーの長短が判別できない場合の対処法が定まっていません。

AmCFC

こちらは典型的なケース。さてこの曲、メジャーキーでしょうか、それともマイナーキーでしょうか?

……きっと答えは人によって分かれてくるはずです。

コードがAmから始まってるし、メロディもラの音を繰り返し強調してる。雰囲気としても、薄暗い地下のクラブのダークな光景がうかぶ。明らかにマイナーキーだ。
ちがうね。コードはCで終わってるし、進行全体を見てもメジャーコードの比率が高い。CはAmの2倍の頻度で現れる。雰囲気としても、バリバリに明るいDJフェスの様相じゃないか。明らかにメジャーキーだ。

水掛け論です。それもそのはず、メジャー/マイナーキーシステムが確立された18世紀にこんな音楽はありませんから、この音楽はいわば”想定外”の存在。現実的に言って、こうした曲の長短を客観的に判別する方法は存在しません。

キャプテン、背番号6

しかし困ってしまうのは、そういうキーの長短が曖昧な曲は今もうちまたに溢れかえっているということです。序盤の記事で説明したように、今は調性の“モニズム”の時代。こういう長調とも短調とも言えない曲こそ分析して己の血肉にすべきです。

そこでこの問題を解消するため、自由派ではマイナーキーでもディグリーの振り方はメジャーキーと同じままにし、事実上同一視するという方針で進んでいきます。

上のように、マイナーキー側が譲歩して、メジャーキーの表記に全乗っかりします。そして、「VImが中心とみなされるとき、その音楽はマイナーキーである」というような説明になります。よくよく考えたら、キャプテンの背番号が1番じゃなきゃいけないと決まっているものでもありません。
例えばDmというコードは、CメジャーキーでもAマイナーキーでも、どちらだとしても「IIm」と呼ばれるという仕組みです。これなら、長調短調がハッキリしない曲に遭遇しても問題なく番号を振ることができます。

例えば先述のAmCFCという進行なら、CメジャーキーかAマイナーキーのどちらかだというところまでは分かります。そこまで分かったら、メジャーキー基準の数字振りをするので、数字は6-1-4-1で定まります。

VImIIVI

メジャーキーなのかマイナーキーなのかは結局あいまいなままですが、それで問題ありません。メジャー/マイナーキーは古典派クラシックが作り出したシステムであって、それ以外の音楽には必ずしも当てはまらない考え方だからです。

なお、従来の理論に則った「Im、IIm(-5)・・・」というディグリー振りについてはII章やVII章で再会することになるので、その時までは触れずにおきます。なるべくスリムに、最小限のことを学んでいくのがI章の方針です。


なかなか話として長くなってしまいましたが、要点をまとめると話はシンプルです。現代の音楽のコード進行の基礎を担っているのは、メジャーコード3つ、マイナーコード3つの合わさった6つの「基調和音」たち。そしてそれらにI〜VIの番号(ディグリーネーム)を振り、今後はその番号を用いてコードを呼んでいく。

まとめ

  • キーに関係なくコード進行を論じるために、キー相対的なコードの名付けが必要になります。
  • そこで、コードのキー内の相対位置を数字で表したものがディグリーネームです。
  • 自由派では、“レラティヴ”な2つのキーに対して、単一のディグリー振りを行います。
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