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1. 跳ねるリズム

リズムの世界には、「跳ねる」リズムと呼ばれるものがあります。まずは下の2つの音源を聴いてみてください。

上が普通のリズム、下が跳ねているリズム。この「跳ねるリズム」、聴き覚えはあるかと思います。「跳ねている」という表現がしっくりくるような、軽快なリズムです。
この2つのリズムは、拍子やテンポが違うんでしょうか? でもカウントしてみれば分かるとおり、どちらも同じテンポの4拍子です。

ね。では一体、何が違っているんでしょうか?

違うのは、拍の分割の仕方、つまりはサブディビジョンです。ビートとサブディビジョンの記事で述べたように、通常のリズムにおいては、拍子や拍は常に2等分を繰り返して、4,8,16…という風に時間が等しく割られていきます。

シャッフルなし

それに対して、「跳ねるリズム」は1拍を3つに分割します! そして、基本の比率を2:1に振り分けつつ、たまに1:1:1で等分して、1拍に3回音を鳴らします。

シャッフル

「タカタカ」という1:1の比率による規則正しい分割ではなく、「タッカタッカ」という2:1の比率、偏りのある分け方をするのです。それはまるでキップをしているような感覚に近く、そのためか「跳ねるリズム」と称されます。正式には、このようなリズムのことをシャッフルShuffleと言います。逆にシャッフルしていないリズムを指すときにはスクエアSquare、もしくはストレート、イーブンといった言葉を使います。

スキップをしているようなノリということでシャッフルのビートはウキウキ感やドキドキ感の演出に長けており、それゆえノリのよい曲でよく使われます。

シャッフルビートの楽曲例

こうやってたくさん聴いているうちに、シャッフルの持つリズム感が身体に入ってきたのではないでしょうか?
ピアノの和音をチャコチャコ弾くか、ギターをズンズン鳴らす曲が多いですね。

速いテンポとシャッフル

上例のような、穏やかにスキップするくらいのテンポであれば、明るく楽しい感じになりますが、そのままテンポを上げていくと、かなりヒートアップした感じのロックソングにピッタリなリズムになります。

のどかなBPM130のシャッフルビート
ホットなBPM200のシャッフルビート

どこかで聴いたことのあるリズムだと思います! ロックの代表的なビートのひとつですね。

I章で「モータウンビート」という名前で紹介したリズムで、基本的にモータウンビートはシャッフルしています。このいかにもロックらしいノリの背景には、シャッフルの力があったんですね。

ジャズとシャッフル

そのノリの良さからロックやポップスで愛用されているシャッフルビートですが、ジャズでも同じように跳ねたリズムはおなじみです。

ただしジャズではあまり「シャッフル」という言い方をせず、もっぱら「スウィング」といい、同じ“跳ねるリズム”であっても、スウィングという言葉には何がしかジャズ的なニュアンス、特段の意味合いが込められている場合があります。特にジャズ界隈の中でスウィングといえば、例えば比率が2:1でない跳ね方だとか、あるいは“跳ね”ではなくて小節頭の打点をあえて遅らせることによって生まれる独特のリズム感だとか、グリッドから逸れることによって得られる心地よいリズムを包括的に指しているようなところがあり、明確に定義されていません1

スウィングの楽曲例

時代にもよりますが、特に1920-1940年代あたりのスタンダードなジャズにおいては、こんな風にスウィングするのがおなじみです。

2. ハーフタイムシャッフル

とてもノリのよいシャッフルですが、通常の2分割より3分割の方が細かいため、テンポを上げたときにかなりせわしなくなるという悩みがあります。

ノリノリのロックならアリですが、そうでなければずいぶん忙しいです。そこで、前回やった「ハーフタイムフィール」の考えをここに取り入れて、キック・スネアの打つペースを半減させてみます。

そうすると、当然ながらかなりゆったりした感じになったと思います。ハイハットだけは元々の刻みを維持しているものの、キック・スネアのリズムに対する影響力が大きいため、テンポは事実上半減していると言えます(そのため、上の音源では1234のカウント速度も半減させました)。

ハーフタイムテンポは事実上半減

ドラムだけでもう一度聞いてみましょう。

普通のシャッフルは8ビートが基盤ですが、こうなると16ビートということになりますね。このように、キック・スネアのテンポ感を半減させて16ビートのようになったシャッフルのことを「ハーフタイム・シャッフル」と言います。TOTOというバンドの、ジェフ・ポーカロというドラマーが確立した技法と言われています。

こちらがそのジェフ・ポーカロ本人で、この動画では実際にハーフタイム・シャッフルのビートを演奏して解説してくれています。

ハーフタイム・シャッフルの楽曲例

コレに関しては、ちょっと普通のビートとの聴き分けが難しいですね。「タッカタッカ」と口ずさんでみると、リズムの跳ね感が分かるかもしれません。

3. 比率とバリエーション

さて、「偶数分割」か「三分割」かの二者択一のような書き方をしましたが、実際にはその中間くらいというパターンも普通にあります。場所によって跳ねたり跳ねなかったりするとか、あるいは曲のうちドラムだけがシャッフルする、など複合的なものもたくさんあって、その多様性がシャッフルの魅力であり奥深さでもあります。

こちらは箇所によってシャッフル度合いを細かく変えたドラムです。“気まぐれ”な演奏になったことで、やや人間味が強く出ています。あまり露骨なシャッフル感を出したくはないがリズミカルにしたいというような場合に、跳ね具合の調節やパート配分をするとよいでしょう。

実際の曲例

ドラムがおおむねシャッフルしているのですが、普通にドコドコ叩く場面があったり、曲全体はまったりしていたりと、跳ねアリと跳ねナシが交ざりあう曲です。

こちらはパートによって跳ねたり跳ねてなかったり、また同じパートでもフレーズの一部分だけ跳ねたりだとか、いろいろと微細な揺れがあって、それが独特のノリを作っています。
上のサンプル内でいうと、「Put it up!」のところはシャッフルしてないですが、ドロップ直前の「メキトゥザメキトゥザ」のところははっきりシャッフルしてますよね。

テンポとの関係

ことジャズのスウィングの跳ね方についてはアメリカで学術的な研究対象にもガッツリなっていて、ある研究では実際のドラマーの演奏においてテンポが遅いほど跳ね具合が強く、ハイテンポになると跳ねが弱まり等分割に近づいていく傾向にあるというデータが示されています2


こちらはその傾向を再現したもので、BPM=120の方は2:1よりもキツく跳ね、ところにより3:1くらいの比率になっています。対してBPM=270の方は2:1よりも緩く、5:3くらいの比率になっています。特に速いテンポの方は聴いても何対何の比率になっているかなんて聴き分けるのは難しいですね。でも実際の演奏の録音データから分析することによって、こうしたスウィングの心地よいリズム感の鍵を握るような情報が明らかになってきています。

さてこのような傾向が現れる理由としては、推測ですが、テンポが早ければ早いほど跳ねた音とその後続の音との間隔の狭さが自然に演奏するには厳しいくらい短くなってくるのでしょう。

間隔の狭まり:2拍目のウラが後ろにズレて3拍目の頭と接近する。そこの距離の近さが、同じ右手で演奏するにはキツイ。この2打の狭さがキツくなってくる

この狭まった2打の時間差は、BPM=120の時なら約167ミリ秒ですが、BPM=270のときには約74ミリ秒まで縮まります。しかし高速でシンバルを打ち続ける右手の体感としてそこの連打があまりに短いのは不自然に感じられて、結果として跳ね具合を弱める。逆にテンポが遅いときには、ピッタリ2:1だとまだ後ろとの間隔が空きすぎている気がして、少しだけ後ろ倒しにする…といった身体感覚があるのではないでしょうか。

打ち込みでスウィング感を再現する際にはこうしたグリッドに収まらないリズムの揺れがたいへん重要になってくるもので、ここにリズムの奥深さがあります。

まとめ

  • リズムを1:1(タカタカ)ではなく2:1(タッカタッカ)に分割することを「シャッフル」「スウィング」といいます。シャッフルすることを「跳ねる」ともいいます。
  • 「スウィング」はもっぱらジャズで用いられる言葉で、ジャズプレイヤーのさまざまなリズムの揺れを表現した言葉であり、定義がハッキリと定まってはいません。
  • シャッフルには、「完全な2:1にしない」「一部の楽器だけ跳ねる」などバリエーションがあります。
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