目次
4. 表拍と裏拍
さらに、1つの拍を2分割したとき、前の方を表拍、後の方を裏拍と呼びます。これもすごく大切な用語ですね。
先ほどの指揮棒のアニメーションで言うと、棒を振り下ろした時が「オモテ」で、振り上げた時が「ウラ」となります。
ここから由来してか、表拍は英語でダウンビートDown Beat、裏拍はアップビートUp Beatという風に呼ばれます。そして例えば「ダウンビートで演奏する」と言ったらそれは一般に「ダウンビートにアクセントを置いて演奏する」という意味になります1。
演奏をダウンビートでするかアップビートでするかは、楽曲のノリに大きく影響します。そして、ビートの基本方針を決めるのは、最も細かく刻まれるハイハットです。もちろん他の楽器もビートの重心に影響はしますが、ハイハットでまず方針を固めるというのが基本的なやり方です。さっそく聴き比べてみましょう!
ダウンビートのハイハット
こちらは表拍でハットをオープンにしたもの。ダウンビートの演奏は、ズシンと来る重さのようなものがあるのが特徴です。
アップビートのハイハット
こちらが逆にハットを裏拍でオープンにしてアクセントをつけたもの。アップビートは対照的に、どことなく跳ね上がるような軽快さがあるのが特徴です。
クローズド・ハイハットでの比較
何もハイハットをオープンにしなくとも、音量を変えるだけでもアクセントは表現できますし、それでもノリはかなり変わります。
上がダウンビート、下がアップビート。やっぱりダウンビートの方には「重さ」があり、アップビートの方には「軽快さ」がありますね。どちらの方が好まれるかは、ジャンルや曲想によって変わります。微妙な違いですが、このノリの差を聴き分け、使い分けられるようになることはすごく大事なスキルです。
それではここからは、実際のプロの作品を、ハイハットのアクセントに注目しながら聴いてみましょう。
「重さ」のダウンビート
「Makes Me Wonder」や「Another One Bites The Dust」はハッキリ分かりにくいですが、よく聴くとちゃんとウェイトに違いがありますよ。いずれもドッシリとした感じ、しっかりと地に足ついてる感じがします。
「軽さ」のアップビート
こちらがアップビート。どことなく、跳ね上がる浮力を感じます。
ロックではダウンビート、ダンスミュージックではアップビートが頻用される傾向にはありますが、一概に言えるものでもありません。そして例えば同じロックのジャンルでも、疾走感を出したい曲ならアップビート、重厚感を出したければダウンビートという風に使い分けたりするのです。
サカナクションはよくロックとダンスの融合と評されますが、それはサウンド面だけでなくこうしたリズム面からのアプローチの差も影響しています。リズムの理論もなかなか、奥が深いと思いませんか?
どちらでもないビート
当然ながら、ハイハットが全く鳴っていなかったり、ランダムに押し出されたり、強さが均等である場合には、どちらが押し出されることもなくなります。特に電子ドラムであれば、一定の強さでハットが鳴り続けるというのも普通にありえます。その場合は当然、ハイハット以外の楽器たちがアクセントの偏りを決定していくことになります。
いずれにせよ、ハイハットのように小さな音の楽器がリズムに大きく加担していると言う認識は重要です。
ポピュラー音楽において、最も使用頻度の多い拍子は間違いなく「四拍子」でしょう。次いで「三拍子」の系統。それ以外の拍子はなかなか前衛的で、非大衆的なリズムになります。
こちらは「七拍子」でフレーズを作ってみた例です。ちょっと特殊な感じがしますよね。四拍子・三拍子系以外の拍子を総称して変拍子Irregular Timeと呼びます。特にプログレッシブ・ロックやジャズなどの技巧的なジャンルで用いられるもので、なかなか応用レベルの技術なので、これについてはII章で取り扱うことになります。
そんなわけで、拍・拍子・小節という3つの概念が分かれば、リズム理論の基本はオッケーです!
ちなみに四拍子・三拍子は略称であり、正式な名前はそれぞれ「4/4拍子」「3/4拍子」といいます。もともとは分数表記のところを、略して分子の方だけを読んでるんですね。平常時は略称で十分通じますので、こうした本格的なところについても、Ⅱ章に進んでから確認していきたいと思います。
まとめ
- リズムがどんなまとまりになってループしているかを指す言葉が「拍子」です。
- 拍子の、リズムの刻み1つを「拍」といいます。
- 1つの拍を二分割した時の、前の方を「表拍」、後ろの方を「裏拍」といいます。
- 「ダウンビート・アップビート」は本来「表拍・裏拍」を指す言葉ですが、そこから派生し「表拍にアクセントを置いた演奏・裏拍にアクセントを置いた演奏」のことを指す場合もあります。