Skip to main content

3. 表拍と裏拍

そんなわけで「拍」がリズム理論上の最小単位となるのですが……ちょっとそれにしては目が粗すぎるという問題があります。

例えばこうやって「1 & 2 & 3 & 4 &…」とカウントしたとき、この「&」のところを指し示したいときになんと言えばいいのか? 1.5拍目とでも言うのか? 一応それでも通じるは通じるのですが…ここにもきちんと言葉は用意されていて、拍を2分割したときの前の方を表拍、後の方を裏拍と呼びます。

先ほどのカウントで言うと、「1,2,3,4」と言っている方の打点が表拍で、「&」の方が裏拍に該当します。

1拍をさらに2分割したとき、最初の方が表、後の方が裏となる

さらに細かく指定したい場合は、「2拍目のウラ」「4拍目のオモテ」などと指し示すこともできます。

○分の裏

それから、この表拍・裏拍から発展して、リズムのグリッドの前部と後部を全般的に「○分(ぶ)のオモテ・ウラ」と呼ぶ慣習があります。

グリッドの表と裏の図:1/8グリッドをさらに分割して16分割したとき、奇数番目は表、偶数番目は裏と呼ばれる。

裏拍は1/8グリッドで見たときの裏側の方なので「8のウラ」という別名を持つことになり、1/16グリッドなら「16のウラ」などと言います1

4. BPM

日常で「ビート」というとそれはドラムのフレーズを指したり、ヒップホップの世界ではバックトラック全体を指してそう呼んだりしますね。でも本来的な意味としては、ビートという英単語はこの「拍」という言葉と対応しています。心臓の鼓動をHeartbeatと言うように、リズムのカウントひとつひとつがビートです。

そしてそこから生まれた用語が、BPM(Beats Per Minute)です。“Beats Per Minute”は「1分間に拍を何回刻むか」という意味ですね。拍を刻む回数が多い=テンポが速いということですから、つまるところBPMはテンポの速い遅いを表すモノサシとして使われる、いわば単位のようなものです。

BPM=60

では実際にBPMの数値がいくつだったら、テンポはどれくらいの速さになるでしょうか?「1分」単位が基準になっていますから、最も分かりやすいのはBPM=60でしょう。1分間に60回カウントするのだから、1秒に1カウント。それがBPM=60の速さになります。

相当スロウですね。まあ時計の針のチクタクというのは音楽の感覚で言えばだいぶノンビリしていますから、それに合わせてカウントしたらこうなるのは当然の結果です。ゆったりなバラードでもここまで遅い曲はなかなか珍しいかと思います。

BPM=120

そこで、ポピュラー音楽の標準的テンポと言えるのが、これを倍にしたBPM=120です。1秒に2カウントする速さということですね。

ポップス、ロック、ダンス音楽などでよく聴くテンポ感になりました。中庸な速さで、かつ「2拍で1秒」という分かりやすさもあってか、多くのDAWでこのBPM=120がデフォルトのテンポとなっています。

BPM=180

これをさらに1.5倍すると、BPM=180となり、これはかなりのアップテンポに感じます。

実際に曲のスピード感がどう感じられるかはドラムのフレーズをどう叩くかによってもまた変わってくるのですが、まずこのBPMが曲のテンポの基本指標です。BPMの数値と時間の関係が分かっていると、曲の秒数を計算することができるようになるので、例えばCM曲やアニメのオープニング曲など時間が決まっている音楽制作でうまく計画を立てて時間調節をすることも可能になります。

東京事変の「能動的三分間」は3分のタイマーがカウントダウンするのを表示しながら3分ぴったりで演奏するパフォーマンスでお馴染みですが、この曲がBPM=120で作られているのは重要なポイントです。BPM=120なら1秒で2カウント、2秒で1小節と綺麗な数字になるので、90小節の曲にすればピッタリ3分の長さにできる…という計算のもと作曲がなされているわけです。

テンポの二重性

というわけでリズム理論はその根幹中の根幹である「拍」という概念を私たち人間の“まとまり感覚”に依存しています。それゆえ、BPMの解釈には個人差が生じることがあります。

トラップの場合

それが最も顕著に現れるのは、2010年代に急速に普及したトラップミュージックのリズムパターンです。

上の例は典型的なトラップのリズムパターンなのですが……お聞きのとおり、カウントの仕方が2とおり考えられることがわかります。速くカウントすればBPM=140、遅くカウントすればBPM=70、どちらが正しいのでしょうか?……これについてはどちらが正解などと考えること自体不毛で、むしろ「テンポに二重性があるのだ」と考える方が建設的でしょう。極端にゆっくりしたキックとスネアはBPM=70をかたどっていて、一方で超高速なハイハットはBPM=140を思わせる。この二重構造によって、トラップは「重厚感」と「疾走感」を同時に持つ、独特の魅力を生み出しているわけです。

カントリーの場合

実はトラップ以外にも、テンポの二重性を特徴に持つジャンルはあります。そのひとつがカントリーミュージックです。

このカントリーの典型的なリズムも、速くカウントすればBPM=200、遅くカウントすればBPM=100と、両方の捉え方が可能です。 カントリーミュージックに陽気さと穏やかさの両方の雰囲気がどことなく同居している要因のひとつとして、このテンポの二重性があると見てもよいでしょう。

レゲエの場合

他にはレゲエもまた、BPMに二重性を持つジャンルのひとつです。

こちらの場合、BPM=150として速く捉えることもできれば、BPM=75として遅く捉えることもできます。 そのため、リズムパターンの説明の仕方も人によって異なってしまって……たとえば上のサンプルではギターがンチャンチャ鳴っていますが、これが「2,4拍目に鳴っている」と言う人もいれば、「1,2,3,4の隙間に鳴っている」と言う人もいます。

BPMの解釈をひとつに定められないというのは、人によってはリズム理論の“欠陥”と映るかもしれません。でも実際にはむしろこれは、理論によってテンポの多重構造を見抜くことができたと、ポジティブに捉えるべきできごとです。上で挙げた3つのサンプルはいずれも、速いフレーズと遅いフレーズを重ね合わせることで魅力的なリズムアンサンブルが生まれていますね。こういうところにポピュラー音楽の面白さが潜んでいるわけなのです。

そんなわけで、拍・拍子・小節という3つの概念が分かれば、リズム理論の基本はオッケーです!

まとめ

  • リズムがどんなまとまりになってループしているかを指す言葉が「拍子」です。
  • 拍子の、リズムの刻み1つを「拍」といい、拍子における拍のひとまりを「小節」といいます。
  • 「BPM」は、1分間に拍が何回刻まれるかを示す数値で、曲のテンポの指標となります。
Continue

1 2