シンコペーション

以前、「表拍」と「裏拍」について説明しました。リズムを刻む「拍」を二分割したとき、その前半と後半をそれぞれ「表拍」「裏拍」と表現するんでしたね。

表裏

それと似ているようでちょっと違う概念が存在しており、それが「強拍」と「弱拍」です。

#1 強拍と弱拍

強拍・弱拍というのは、簡単に言えば各拍子が本質的に持っている潜在的なアクセントを表すことばです。アクセントをどこに置くかは、前回やったように演奏者たちが曲想に合わせて自由に「決めていく」ものですが、それとは別に元来拍子が持っているアクセントがあると考えているのです。

潜在的なアクセント

そうは言っても、そんなに難しい話じゃありません。例えばラジオ体操とかマラソンとかで「1,2,3,4」と声を掛けるとき、やっぱり一番気合いを入れるのが「1」のところですよね。それに次いで「3」だと思います。

だから四拍子なら1拍目が「強拍」、3拍目は「中強拍」、残った2・4拍目は「弱拍」と呼ばれます。

強弱

三拍子だと、「強・弱・弱」という並びのサイクルになりますね。

3拍子の強弱

この「強拍・弱拍」というのは基本的にクラシック時代のコンセプトで、モーツァルトのような古典的音楽の時代には、強拍にきちんとアクセントが来るようなフレーズ作りが見受けられます。


どちらもちゃんと「1」と「3」のところにフレーズのアクセントがありますね。序論で述べたように、古典派というのは江戸時代当時の大衆のためのベタな音楽。強拍にアクセントのあるフレーズは、難しくなくてすごく聴きやすかったのです。

これは日本の音楽でも同じで、童謡のような分かりやすい音楽では強拍にアクセントが来ることが多い。

「紅葉」とか本当に分かりやすくて、「あーきの」で2拍、「ゆーうー」で2拍という風に、2拍ごとのフレーズになっているので、1・3拍目が押し出されることになります。

#2 バックビート

ただこれが現代のポピュラー音楽となると、むしろスネアで2・4拍の弱拍を強調するのがスタンダードです。クラシックや童謡とはノリが正反対なんですね。


上はジャズの、下はロックの典型的なリズムパターンです。

このように弱拍を強調した現代のビートのことを、バックビートBack Beatと言います。以前やった「ダウンビート」とはまたちょっと違う話ですね。

バックビートとダウンビート

ロックは基本的にみんなスネアが2,4拍目に入る「バックビート」ですが、さらにハイハットが表拍を出すか裏拍を出すかはまた別で、それは曲によって違うというのが以前のお話。だから「バックビートでアップビート」もあるし、「バックビートでダウンビート」もあるということですね。ちょっとややこしい。

昔よく言われていたのは、このようなバックビートに慣れていない日本人は、ライブで強拍に合わせて手拍子をしてしまう。洋楽のリズムに合わせる素養がない。そんなことをよく言われたものです。


上が何ら問題ないバックビートの手拍子で、下が強拍に乗ってしまった手拍子ですね。たださすがに、洋楽が入ってきて久しい現代人は、自然とバックビートに乗れるようになっているのではないかと思います。

ワンドロップ

ただロックもジャズも、キックをちゃんと1拍目に鳴らしているという点では、ちゃんと強拍にも重さを置いていると言えるかもしれませんね。

レゲエでは、さらにバックビートの比重を高めるため、1拍目のキックを鳴らさない「ワンドロップ」というリズムパターンが定番になっています。

キックを鳴らすのは3拍目。1拍目にキックを鳴らさないというのは珍しくて、レゲエ以外のジャンルではあまりお目にかかりません。また2・4拍目をギターで強調するのもレゲエの特徴ですね。この南国風というか、妙に軽快なリズムの秘訣がワンドロップにあります。

ちなみに、レゲエと同様に陽気なイメージのあるサンバでは、逆にずっしりと強拍にキックを鳴らします。

念のため歴史的側面を補足すると、レゲエはだいたい1960年代後半にジャマイカで生まれた音楽。対するサンバは1800年代末にブラジルで生まれた音楽。
登場順としてはクラシック→サンバ→ジャズ→ロック→レゲエの順で並ぶことになりますから、ジャズよりも先輩であるサンバにバックビートの文化が無いことは頷けますし、後発であるレゲエが変わったリズムを生み出したのも納得です。

だからリズムというのは本当に大事で、思った以上に曲想へ直結するものなのです。またジャンルによって様式が全く違うという点もポイント。そのジャンルの持つリズムの特徴を押さえないと、「にわか」の真似事になってしまうわけです。

#3 シンコペーション

ここまでで分かったとおり、「強拍からアクセントをずらしたリズム」というのが、ジャズ・ロック・レゲエといった近現代のポピュラー音楽の特徴と言えるわけですが、そのずらし方というのは実に様々。代表的なものを見ていきます。

弱拍のシンコペーション
シンコペーションの図

こちらは、弱拍である4拍目のところでみんなが音を伸ばし、そのまま次小節の1拍目を潰しています。コード進行の変わり目もそのまま後ろにずらしています。

こんな風に、弱拍にアクセントをつけて後ろのアクセントを飲み込んでしまう手法のことを、切分Syncopation/シンコペーションと言います。とても重要な用語です。ただし「シンコペーション」という英語の言い方が広く浸透していて、「切分」という日本語の言い方が使われることは極めて稀です。

裏拍のシンコペーション

「強・弱拍」よりもさらに細かい視点である「表・裏拍」でも同じことが言えます。

裏拍の方が刻みが細かいですから、圧倒的に複雑になりました。このリズムでは、1拍目ウラ、2拍目ウラ、4拍目ウラにアクセントがあります。そして4拍目ウラが伸びた結果、やはり次小説の頭を潰してコードチェンジが遅れています。

これも広義にはシンコペーションと呼ばれます。

何拍目のウラを押すかでまたノリが変わりますし、ドラムだけとかメロディだけを変えるというパターンもあるわけですから、可能性はとても幅広い。クラシックぽくない新鮮なリズムを生み出せるのがシンコペーションの魅力です。

#4 アンティシペーション

先ほどは「音を伸ばして、次の展開を先延ばしにする」という形でしたが、「先延ばし」じゃなくて逆に「前のめり」にするというリズムの変え方も、当然ありえますよね。

アンティシペーション

こういうことです。掛け声の違いで、何をやっているかは分かると思います。さっきは「イチ・二ッ・サン・シーーー」で4拍目が間延びした形ですが、今回は「イチ・二ッ・サン・シ イーーーチ」と、いかにも待ちきれなかったかのように、次の1拍目が早めに飛び出してきます。

当然この技法は、曲に前のめりな感じ、疾走感のある感じをもたらしてくれます。ロックでは非常に重宝され、頻用されるテクニックです。もっと極端にやってみましょうか!

こんな感じだ。ちょっとイチニッがうるさいので、無くしたバージョンも聴きましょう。

かなりの疾走感です! このように「手前へと食い込む」形は、アンティシペーションAnticipation呼ばれます。曲にスピード感を与えるにあたって極めて重要な技法なんですよ。一応念のため、アンティシペーションを一切使わずキッチリ表拍に合わせた演奏もしてみますね。

何もしていない感」がすごいです。ただコードを弾いているだけという感じで、何もかっこよくない。逆にいうと、ただリズムを前のめりにするだけであんなにロック風になるということです。

実際の例

アンティシペーションの実例を聴いてみましょう。

「ハイウェイ・スター」という、まさに疾走感がテーマの曲。最初の方は普通にズンズンしたリズムでやっていますが、途中からアンティシペーションで急かすような展開を作り出しています。

マイ・シャローナのメロ部分は、メロディだけが食っているところと全員が食っているところとが入り混じっています。
パートごとの「表」と「裏」の絡み合いというのが、本当に大切なのです。

最も極端な例。イントロからもうずっと食ったリズムになっていて、頭に揃えるのはサビの始めだけです。念のため確認すると、こういう拍の取り方ですからね。

いきなりギターだけで始まるので、下のようにリズムを勘違いしてしまう人もいると思います。

コレだと途端にダサくなっちゃいますから、こうではないです。こう聴こえてしまった人は、このアンティシペーションのリズムがまだ感覚的に身についていないということかもしれません。

リズムが食う

分かったとおり、アンティシペーションはリズムが手前に食い込みます。そこから、日本ではよくアンティシペーションのことを「リズムが食う」とか「食ったリズム」などと表現します。
例えばバンドでアレンジを話し合うときに、「A・Bは全部小節頭で食って、サビの最初は食わずに頭でいこう」なんて言ったりするわけです。

二者の比較

もうひとつくらい、同じ曲でシンコペーションとアンティシペーションを施した比較をしてみます。


こうして聴き比べると、展開を先延ばしにするシンコペーションは、「焦らし」や「タメ」を感じさせて、これはこれでいいですね。今回みたいなメロウな曲調の場合、この遅れてやってくるピアノが絶妙な存在感を放っています。

それにしても、「シンコペーション」と「アンティシペーション」はなかなか区別が難しいですね。日常的な会話では、あまりこの区別を気にせず、両方まとめて「シンコペーション」と呼んでいる人もいます。ですから、細かいところをキッチリしたい人は分ければいいし、気にしない人は混ぜてしまっても、コミュニケーションで重大な問題を起こすことはないでしょう。

この節のまとめ
  • 「弱拍」ないし「裏拍」にアクセントを持って来ることを「シンコペーション」といい、ポピュラー音楽で日常的に使われている手法です。
  • 正確に言えば、タイミングが「早まる」か「遅れる」という二種類の現象が起きていると考えます。
  • パートごとに「表」と「裏」のどっちを強調するのか。その組み合わせの上に全体のリズムが形成されます。

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1,2,3,4のかけ声のサンプルは、「あみたろの声素材工房」さんで配布されている素材を使用しました。