接続系理論 ❾ 王道進行と文化の差

音楽理論 接続系理論

#1 接続系を総おさらい

さて、前回までで各系統それぞれの接続系が持つ効果を確認しました。

定義 特徴
Active 4度下行 明快で力強い
Basic 4度上行 明快かつ聴きやすい
Close 2度上下 なめらかで聴きやすい
Drop 3度下行 穏やかで安定している
Elevate 3度上行 フワフワして落ち着かない

これらがもつ印象の違いを理解することで、表現したいものにピッタリはまった進行が作れるという話でした。また、それぞれの型において、一般音楽理論で禁則とされる要注意の「2族」が存在しました

該当する進行 要注意の理由
5-2 DSの逆行感
(なし) (B型は全ての接続が使いやすい)
5-4,3-2 DSの逆行感
3-1 暗から明への極端な振れ幅
2-4,3-5,6-1 中途半端さ+展開性の乏しさ

ただこれらは全部、きちんとふさわしい場面、活きる場面があるという話でしたね。これらを「禁則」とする考え方は、今後もドンドン時代遅れなものになっていきます。ジャンルによっては、これらを使いこなせることがむしろカッコイイ。逆に、保守的なJ-Popなんかを作りたいときにはこれらを封印すれば「安心・安全」なわけです。

ちなみに本格ジャズ・本格古典派では、これよりもさらに制限が加わることになるんですよ。ほんとに本格理論というのは制限ばっかりで、ポピュラー音楽を作るのには全く向いていません。そうしたジャズ・古典派の哲学については、Ⅵ章やⅦ章にて紹介することになります。

Nexus Matrix

せっかくなので、接続系統を表にしてみました。

マトリックス

行が進行元、列が進行先です。例えば[I行,IIm列]に「C¹」と書いてあることから、「IIImはC1の接続だ」と分かります。

マトリックスの見方

まあコレとにらめっこしながら作曲をするようなことは、あまりオススメしません。楽しくないですからね。それに、結局は3つのコントロール・ファクターの組み合わせでサウンドが決定されるわけですから、暗記しなくても考えればおおよそ分かることです。ぜひ「音楽理論を考える」のではなく「音楽理論で考える」のだと、そういう心構えでいていただきたい。

Nexus Chart

あまり見やすくはないですが、図にもまとめてみましょう。

接続系統図

赤っぽくなっているやつらが要注意である「2族」というわけです。とはいえピンクのC²やオレンジのE²は、けっきょく大した問題児ではない。強烈さのあるA²と、危険メンヘラなD²にだけ注意すれば十分です。

#2 王道進行

さて、最後は改めて、「王道進行」と呼ばれているコード進行たちを、接続系理論を交えながら紹介していきましょう。王道の進行というのは、複数の型が交じった多彩な進行が多いです。そのため、各系統を個別に説明していたこれまででは、紹介できていませんでした。ここへ来てようやくお出ましといった感じです!

J-Pop界の王道進行

何が「王道」と呼ばれるかは、実はジャンルによって異なります。ただ世間一般に「王道進行」といえば、それはJ-Popで王道を指します。ですからまずはJ-Popの定番から紹介します。

4-5-3-6

J-Popやアイドル音楽、アニメソングで極端に頻用されている、王道中の王道であるコード進行が、「4-5-3-6」です。

4536

もう何度も紹介していますね。B¹・C¹・D¹を1つずつ使ったバランス型という話もしました。
この進行は、TDSの回でも音源とともに紹介しましたね。タメにタメてからトニックに落ち着く、「起承転結」を体現したコード進行という話でした。

正直、ベタすぎて飽食気味のコードではあるのですが、ポップス界ではまだ現役です。もはやメロディに関係なく、コードだけで”聴かせる”ことができるくらいパワーのあるコード進行なので、「てっとりばやくそこそこ良い曲を作りたい」時に便利です。

1-5-6-3-4-1-4-5

先述の「4-5-3-6」が台頭する前のJ-Popで人気ナンバーワンだった進行が、「パッヘルベルのカノンのコード進行」です。

カノンの進行

接続系を確認すると、A¹とC¹を交互に繰り返すような特徴的な動きになっていることが分かります。

これが大元の、パッヘルベルのカノンです。合唱曲やJ-Popでよく使われていますね。特に90年代のJ-Popは、この進行を使って数々のヒット曲が作られました。微妙にコードをアレンジした派生形もたくさん存在します。

せっかくなので2000年代の曲から紹介。サビがカノン進行ですね。前半はカノンと全く同じですが、後半は「4-1-4-5」ではなく「4-3-2-5」とアレンジしています。

8個でワンセットという長さゆえに近年では敬遠されつつありますが、まだまだ現役といった感じです。

6-4-5-1

暗い曲調のJ-Popで王道と言われるのが、「6-4-5-1」の進行です。

6451

B型の時に6-2-5-1のバリエーションとして紹介しました。
音源を聴いて、久石譲の「Summer」が思い浮かんだ人も少なくないのでは。有名なメインパートがこの進行を使っていますね。

J-Pop界では、以上の3つが一般に「王道進行」と呼ばれます。これらを使った曲には、枚挙にいとまがありません。

ジャズの王道進行

一方ジャズで最大の定番といえば、最もクッキリしていて聴きやすい2-5-1の進行、「Two-Five-One」です。

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4度上行のB型の動きには、「強進行」という名前がついているんでしたね。ほか、「1-6-2-5」もよく定番として数えられます。

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いずれにせよ、変化量が大きく聴きやすいB型がジャズでは最も愛されています。

洋楽の王道進行

これが洋楽のポップスやロックとなると、また好みが変わってきます。洋楽の定番コード進行といえば、「1-5-6-4」です。

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こちらもA¹・C¹・D¹をひとつずつでバランスが良い。カラッとした雰囲気が、主にアメリカで好まれているのだと思います。実際の曲だと、こんな感じ。

あまりにも定番すぎて、英語版Wikipediaには1-5-6-4の記事が存在するくらいです。対して日本では、この進行はそこまで定番というほどではありませんね。

#3 文化と嗜好

さて、「王道進行」といって思い浮かぶのはこれくらいのものです。やっぱり、ジャンルによって好まれるものが全然違うんです。特に邦楽と洋楽の嗜好の違いなんていうのは、面白いですね。時代もサウンドも一緒なのに、そこに広がっている音楽文化の違いが影響しているのです。

特に洋楽では、IVIの進行が日本よりも高頻度で使われています。それに対し邦楽では、定番のVIが圧倒的に多いですね。だから、すごくザックリとした比較をすれば、こんな感じ。

邦楽風 洋楽風
6-4-5-1 6-4-1-5
1-5-6-3 1-5-6-4
4-5-1-6 4-1-5-6

もちろん、すごくザックリの傾向ですけどね。ここまでの話を、もう一度コンパクトにまとめておきましょうか。

ジャンル 典型的進行 特徴
古典派 1-4-1, 1-4-5-1 Tで始まりTで終わるお行儀良さ
ジャズ 2-5-1, 1-6-2-5 「強進行」「時計回り」の聴きやすさ愛好
ブルース 1-5-4-1 古典派とは違う様式が定番なのだ
J-Pop 4-5-3-6, 6-4-5-1 ジャズに近いがもう少し穏やか重視
洋楽 1-5-6-4, 6-4-1-5 自由度が高くこれといった定型がない
ダンス 4-6, 6-1, 5-4 これまでと違うからこそカッコイイ

やっぱり日本人てマジメなんでしょうか? クラシックのお行儀良さと、ジャズの聴きやすさの両方を受け継いでいる感じがあります。
そんなわけで、「定番」は常に文化とワンセット。当然さらに細かいジャンルごとの傾向差もある。それはぜひ、自分の好きな曲を分析して探って欲しいなと思います。

この節のまとめ
  • 一般に「王道進行」といえばそれはJ-Popのそれを指しますが、ジャンルによって好まれるものは異なります。
  • ジャズは推進力のある強進行を好み、ダンス音楽は逆に変化の少ないコードを好むなどの違いがあります。
  • こうした嗜好の差を理解することは、各ジャンル「らしさ」を生み出すうえで重要です。

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