具現化基礎 ❶配置について

コード編 Ⅰ章:新しい言葉

さて、ここまではかなり抽象的な概念を拡張させてきました。「詳細度数」や「コードネーム」などの名前をつけ、基本となる和音を知りました。

しかし、その知識を使って実際に曲を組み立てていくにあたっては、抽象的な知識だけではよく分からない、具体的な問題がいくつも生じてきます。
ここでは、そのような「真っ先にぶつかりそうな疑問点」を想定し解消しておくことで、実際の制作をスムーズにするための回です。ですから、ちょっと「編曲技術」に近い内容とも言えますね。

#1 配置(Voicing)

コードの構成音について、知識としてはいくらか頭に入ってきているのではないかと思います。

基調和音

しかし、コレを実際に演奏するとなると、疑問が生じてくるはずです。
例えばギターの弾き語りで曲を作っている人なんかは、もうコードを押さえて鳴らせば綺麗な和音が鳴りますから、コードの演奏に迷うことはありません。
しかし、キーボードの演奏や打ち込みで曲を作る人たちはどうでしょう? どんな高さで、どんな風に弾けば良いのでしょうか? コードを具現化するにあたっては、そこに関する知識が必要です。

音楽理論では、音をどんな高さに配置して演奏するかのことを、そのまんま配置Voicing/ヴォイシングといいます。ジャズ界隈ではもっぱら「ヴォイシング」という英語の表現を使いますね。
ただの「配置」を「ヴォイシング」と呼ぶなんてちょっとカッコつけている気もしますが、まあ「配置」だと専門用語感が薄いので、日本においても「ヴォイシング」という英語の表現の方が好まれています。

配置は自由

コードの構成音の配置は、どうするのが良いのでしょうか? 結論を言ってしまえば、配置は基本的に自由です
オクターブが違っていても根本的な音の響きは変わらないので、例えばCメジャーのうち「ミ」だけが1オクターブ上にいても、響き上の変化はあまり大きくありません。

Cコード(別配置)

そのためコードネームも同じく「C」のまま。その他どんな高さで鳴っていようとも、「ド・ミ・ソ」の音で成り立っているのなら、そのコードは「C」と呼ばれます。
音の配置はギュッと密集していてもいいし、音同士が大きく開離していても構いません。

配置

全てコードネームは、「C」です。ひとつの楽器でコードの構成音を全て鳴らす必要はなく、例えば上の例は、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスの4つの楽器が協力して1つのコードを構成しています。

最初のうちはそこまで気にしなくてもよいでしょう。色々試してみて、しっくり来るサウンドを見つければよいのです。もちろんそれぞれ響きは違いますので、編曲のレベルが上がってくると、こういう配置も理論的にコントロールし、ほとんど迷わず編曲が出来るようになります。

何個重ねても自由

また、ドミソを何個重ねたとしても「四和音」や「五和音」などと呼ばれることはありません。けっきょく「ド・ミ・ソ」の3音であることに変わりはないのですから、普通に「三和音」として扱われ、コードネームもやはり「C」のままです。

ようするにC

ただ、あまり音を重ねすぎると、総体のサウンドとしてゴチャゴチャするので、現実的には一つの楽器でこんなたくさん音を重ねることはまあありません。

#2 ルートの重要性

「配置は自由」と言ったものの、ひとつだけ、守っておくべき原則があります。それが、「低音部はルートを中心に演奏する」ということ。

不思議なもので、曲の最も低音域を担う部分がルート以外を鳴らしてしまうと、響きがかなり変わって聞こえてしまうのです。

ルートは大事

ルートがコードの根幹をつかさどっている」という認識を確かに持っていてください。これは、編曲技術の基本とも言えます。低音部はあまり動かずに、ルートを支える。

こちらは、エレキベースがきっちりルートを支えている例です。ほとんど全くルートから動いていません。これくらいシンプルでいいのです。特にビギナーであれば、ベースはずっとルートで何の問題もない。それでもちゃんと良い曲は作れます。もしも無秩序に動いてしまうと・・・

音楽全体がかなりゴチャゴチャしてしまいました。もちろんこのような編曲が効果的な場面もありますが、これはちょっと節操がありません。最低限でも、コードが変わった瞬間にはまずルートを弾いて、コード感をしっかり示してあげるのが基本です。

#3 低音部の指定

ですから、コード譜に「C」と書いてあれば、ベーシストは意識的に「ド」の音を中心にしてフレーズを組みます。では、もしもあえてルート以外の音を中心に弾いてもらいたいとき、それをどうやって伝えればいいのでしょうか?

その時には、また別のコードの表記法が用意されています。下図のようにコードネームの右にスラッシュをつけて、弾いてほしい音を明記するのです。

分数型

例えば真ん中の「C/E」というコードネームを見たらば、ベーシストは「ミ」の音を最優先にして弾き、その他の音を弾くとすれば「ド」が筆頭候補ということになります。

スラッシュつきコードの代表例

低音部の指定は、例えばこんな時に使います・・・。

651

VImVIというコード進行。悪くはないのですが、ちょっとアレンジを加えるともっと面白くできる。

651

こう! ベースの位置を変えることで、「ラ→シ→ド」と綺麗に上行していくラインが作れました。こんな風に、綺麗なベースラインを作るのが、スラッシュつきコードの一番よくあるパターンです。

ONコード

ちなみに「低音部の指定」にはもうひとつ日本ローカルの表記があって、それが「on」を使った書き方です。

ConE

上に乗っかってるから「on」ってことですね。このサイトでは「スラッシュ」の方を推奨しています。

「スラッシュつきコード」は詳しくはⅣ章で扱う、なかなか応用的な技法なので、現段階では深追いしません。ちょっと作曲のアイデアがマンネリになってきた時に、自分のセンスを信じて試してみるぶんにはいいかもしれませんね。

#4 コード譜の演奏に際して

今回の知識は「コード譜を元に演奏する」なんて時にも参考になります。自分の好きな曲のコード進行をネットで調べて演奏するなんてときに、この「スラッシュ付きコード」は、特にギター弾き語りの人にとって“壁”として立ちはだかります。そんな時には、基本的にスラッシュの前の方を弾けばよいということが、これまでの話から分かります。稀にそうすると音響が変わってしまうような場合もありますが、ポップスで遭遇する大抵の場面においては、スラッシュの手前の方を演奏するとうまくいきます。

「具現化基礎」の話は、もう1回続きます。

この節のまとめ
  • コードの構成音の、具体的な配置の仕方を「配置(Voicing)」と言います。
  • 音の配置は自由ですが、低音部はルートを中心に演奏するのが基本です。
  • もしベースの人にルートとは違う音を弾いてもらいたい場合は、「/(スラッシュ)」か「on」を使ってそれを表現します。

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