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コード演奏/分析の基本事項

1. コードの演奏

さて、ここまでで基調和音、コードネーム、コードトーンといった抽象概念の土台固めをしてきました。

基調和音

ギター弾きであれば、コードネームを把握していればあとは押さえて弾くだけです。 ただキーボードの演奏や打ち込みで曲を作る人たちは、どんな高さで、どんな風に弾けば良いのかというのがまだ未解説ですね。

音楽理論では、音をどんな高さに配置して演奏するかのことを、配置Voicing/ヴォイシングといいます。今回は、和音を実際に「配置」する際のポイントを見ていきます。

配置は自由

コードの構成音の配置は、どうするのが良いのでしょうか? 結論を言ってしまえば、配置は基本的に自由です。オクターブが違っていても根本的な音の響きは変わらないので、例えばCメジャーのうち「ミ」だけが1オクターブ上にいても、響き上の変化はあまり大きくありません。

そのためコードネームも同じく「C」のまま。その他どんな高さで鳴っていようとも、「ド・ミ・ソ」の音で成り立っているのなら、そのコードは「C」と呼ばれます。
音の配置はギュッと密集していてもいいし、音同士が大きく開離していても構いません。

全てコードネームは、「C」です。ひとつの楽器でコードの構成音を全て鳴らす必要はなく、例えば上の例は、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスの4つの楽器が協力して1つのコードを構成しています。

何個重ねても自由

また、ドミソを何個重ねたとしても「四和音」や「五和音」などと呼ばれることはありません。けっきょく「ド・ミ・ソ」の3音であることに変わりはないのですから、普通に「三和音」として扱われ、コードネームもやはり「C」のままです。

ようするにC

ただ、あまり音を重ねすぎると、総体のサウンドとしてゴチャゴチャするので、注意が必要です。

キャラクターを意識する

ちなみに音を重ねたり、逆にどれかを抜かねばならないという場合には、各コードトーンの役割を思い出してあげるとよいです。

仕組み

Rtはコードの根底の音、基本のサウンドで、3rdは明るい/暗いのようなサウンドキャラクターを司っている。5thは無色透明のサポート。どの音を強調するかで、サウンドの見え方というのは微妙に変わります。

バラバラに鳴らしてもよい

コードというと、ギターなんかでジャラーンと“同時に”複数の音を鳴らすイメージがあるかもしれませんが、実際にはコードトーンを単音ずつに分けて音を鳴らしてもコード感を出すことができます。

こんな感じで、細かく鳴らされたコードトーンたちが集合体となってコード感を作り出すのです。こんな風に、時間差で鳴らされて構成される和音を分散和音Broken Chordといいます。アルペジオArpeggioという言い方も、よく使われます。

2. ベースの演奏法

「配置は自由」と言ったものの、ひとつ意識しておくべき原則があります。それは低音部(ベース)はルートを中心に演奏するのが基本だということです。

ルートは大事

ルート以外を弾くことは“禁則”とかでは全くないのですが、上の方で配置を入れ替えるのに比べると、一番下の音を何にするかというのは、サウンドに対して大きな影響を与えるのです。そのため、意図がない限りはルートを一番下に据えた演奏が基本になります。Rt以外に弾く音の筆頭候補としては5thがあり、例えばAmのコードに対し「ララミラ」と適度に5thを交える演奏は基本のひとつ。それから、CからFへとコードが進行するにあたり「ドレミファ」と音階を登ってなめらかに移行するといった動きも定番です。

ルート弾き

実際の演奏だと、ベースはルートだけを弾き続けることも日常茶飯事です。

こちらは、エレキベースがほとんど動かずにルートを弾き続けている例ですが、これが退屈な編曲とかいうことは全くなくて、これでも全然普通です。このような演奏は「ルート弾き」と呼ばれます。特に初期段階の作曲であれば、ベースはずっとルート弾きでも何の問題もありません。それでもちゃんと良い曲が仕上がります。もしも無秩序に動いてしまうと・・・

音楽全体がかなりゴチャゴチャしてしまいました。特にボーカルが歌っている時などにこうやって動き回っていると、ちょっと邪魔になってしまう可能性も十分にあります。ベースはコードの大黒柱であり、他の楽器よりも重大な役目を担っているという意識を持つことは重要です。

ベースが目立つ場合

一方でベースが激しく動くケースとしては、ロック等でベーシストのフレーズが曲の核となる場合、電子音楽でシンセベースが曲の主軸となる場合などが考えられ、ベースが主役になるような環境であればベースが複雑なラインを形成することは普通になります。

ウォーキングベース

またジャズではベースが異なる音を移動し続ける演奏は非常に一般的で、これは「ウォーキングベース」と呼ばれます。

ジャズだとベースが「縁の下の力持ち」とかではなく平等に目立つプレイヤーという認識があるからか、このように動き回ることも普通にあります。ジャンルによる差が激しいので、ベースの作り方は「耳コピ」などで実例から学ぶのが一番です。

3. スラッシュコード

ではもしルート以外の音を一番下に置くとどうなるでしょうか? 例えばCコードで、ドミソのうちミの音をベースにしてみる。そうするとニュアンスとしては「ミソシ」の和音、つまりEmのサウンドに近似していくことになります。

論理的に考えると、構造がEmに近づいた分だけサウンドもEmに近づくわけです。響きに少し陰りが生じて、玄妙な雰囲気を生み出しています。

上の画像では青と緑の色で比喩していますが、まさにクッキリとした原色で描きたいのか、中間色の淡い感じを出したいのかという対比、それを音楽で行う方法のひとつがベースの位置選択であるという感じです。

クッキリ原色クッキリ質感を出すか
ふんわり中間色曖昧さを演出するか

コードネームも変わる

ベースがルート以外を中心に演奏する状態というのは特別なことなので、その場合のための特別なコードネームが用意されています。下図のようにコードネームの右にスラッシュをつけて、ベース音を明記するのです。

分数型

これを文字どおりスラッシュ・コードSlashed Chordsといいます。日本では分数コードオンコードとも1。 例えば真ん中の「C/E」というコードネームを見たらば、ベーシストは「ミ」の音を最優先にして弾き、その他の音を弾くとすれば「ド」が筆頭候補ということになります。

スラッシュ・コードは幅広い用法を持つ奥深い表現法です。現状はまだ他に優先して説明すべき項目が山ほどあるので、くわしい解説はいったん保留することにします。実戦においては、六つの基調和音が演出する“原色”のようにクッキリしたサウンドだけでは物足りないと思ったときに、チャレンジで使ってみるのがよいかと思います。

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