接続系理論 ➓ 記憶と印象論

音楽理論 接続系理論

さて、もう最後は簡単なまとめをして終わり。コード進行と時代性についての確認です。

#1.記憶と印象

日本のポップス界はかなり保守的で、四大接続(A¹・B¹・C¹・D¹)以外を使うことにあまり積極的でありません。四大接続だけでチャートを作るとこうです。

四大接続

全ての2族とE型がいなくなり、進行が9個減りました。30個中21個ですから、この状態では全パターンのうち70%しか活用していないということですね。J-Popがみんな同じように聴こえてしまう要因のひとつに、接続系の活用の乏しさがあります。

四大接続とそれ以外

とはいえ、四大接続だけに限定してもそれなりのバリエーションはあって、J-Pop系の曲なら十分に事足りているのも事実です。

90年代風

こちらは四大接続のみ、特にB¹とD¹を中心にして作ったコード進行のフレーズです。1-6-4-5-3-6-2-5という、ポップス系理論書ではお手本中のお手本とされる進行。TDS機能でみても、T-S-Dの「時計回り」をしていますから、とても聴きやすい。

もちろん聴き心地が良くてけっこうなのですが、ちょっと安定感がありすぎて面白くないような気もしてしまいます。90年代はコレで良かったでしょうが、現代の我々からすると、コレはもはやダサくすら感じられるかもしれません。だからこそ、現代のポピュラー音楽では30個の接続全てを使いこなせるスキルと感性が重要になってくるのです。

現代風

こちらは一転して、四大接続以外を中心に構成したコード進行です。「聴き馴染み」や「安定感」で劣る反面、そうであるからこそどこかアーティスティックに感じられますね。TDS機能でみても、今度は一貫してS-T-Dの「反時計回り」になっています。

この古めなバンドサウンドだと、この先進的なコード進行は噛み合っていない感じもしますが、しかし、これが電子音楽になると、同じコード進行でも印象が全然変わってきます

現代風

サウンドが現代風になったので、進歩的なコード進行も難なく収まっています。逆に、さっきのオールドファッションなコード進行をあてはめるとどうなるでしょうか?

90年代風

ハッキリ言って、意味が分からないですね。なぜこのサウンドに対してコテコテのJ-Pop進行なのか? 違和感しかありません。もはや、ミスマッチすぎて逆に斬新にすら感じてきます…。

だから序論からずっと言っているとおり、全てのジャンルに通じる型なんてなくって、ましてや古いジャンルの理論を新しいジャンルに適用できるはずがないということなのです。

そして「ジャンル」や「サウンド」といった上位層のコンテクストが、コード進行の印象をも変えうるという点も、もちろん着目してください。
さらに言えば「慣性」だとか、もっと遡れば「声部連結」だとかいった話もありました。コード進行がどう感じられるかは、そうしたファクター全てを総合したうえで決定されるものです。だから音楽は面白い。表面的な理論で全てを片付けようとは、決してしないでくださいね。

記憶が与える影響

四大接続のコード進行は「いかにも懐かしのJ-Pop風だなあ」と感じたと思います。それはもちろん、現実問題としてJ-Popには四大接続がよく使われていて、私たちはそれを記憶しているからです。当たり前ですけど、J-Popを聴いたことのない海外の人が、コレを聴いて「J-Popぽいデスネ」と思うことはない。

それって地味に大切なことで、つまり我々が音に対して感じる印象は、経験と記憶によって影響されるということです。先ほどのダンス風の音源についても、こういった洋楽系の音楽を聴き慣れている人ほど自然に感じられたはずです。

4-6-1-5-4-6-5-2という現代風のコード進行を聴いて、どう思いましたか?

ダンス系の人
俺からしたら何が禁則なの? って感じだな。全然ふつうだし、カッコイイし。

クラシック系の人
私は弟子がこの進行で曲を書いてきたらブッ飛ばしますね。不自然な動きばっかりで、優雅さが全くないじゃないですか。

これが意味するところは何でしょうか? ひとつは、音楽理論は数学なんかではないということです。もちろんある程度数学的・物理的に論じる側面はありますが、最終的に「人間の認知」という“フィルター”を通ることになるわけなのですから。それを抜きにして音楽の本質を語ることはできない。文化、歴史、慣習、流行、経験・・・そういった人間的要因を勘定に入れなければ、音楽理論は本質的に空疎なものになってしまうのです。

フィルター

そしてもうひとつは、他人の意見を鵜呑みにしてはいけないということです。音楽理論に詳しい人があなたの曲にエラそうに意見してきたとして、もしそれがジャンル違いの人だったら、何にも気にすることはないのです。そんなのは全然アテにならない。
では、何を指標にすればいいのか? 言うまでもなく、貴方が取り組んでいるジャンルの実際の楽曲です。「分析」が大切だと言う話は、序論でもしましたよね。もし自信がなくなったら、分析をしてデータを手に入れましょう。たとえモーツァルトにシバかれようとも、自分の音楽を貫けばよいのです。

接続系理論は、「ひな型」を勝手に決めることはしません。代わりに、それぞれの進行がどんな曲想をもたらすかを教えてくれます。それぞれの接続がおおよそどのジャンルで好まれるかも解説しました。そこから先どうするかは、使い手の自由です。

#2.禁則はない

接続系統図

いかがでしたか? まあ、情報量は多すぎたと思います。でも、冒頭に述べたとおり、全部を丸暗記しないと曲作りに進めないなんて話はない。この中から気に入ったコード進行を曲に使ってみるなどして、気に入った順に覚えていけばいいのです。

名前や分類は重要ではありません。接続系理論を通じて一番理解してほしいのは、ただ単に音楽に禁則なんてないってことなのです。3つの「コントロール・ファクター」があって、そこからあらゆる曲想が生まれて来るということ。コントロール・ファクターさえ理解すれば、暗記なんてほとんどしなくたって、何がどんな曲想をもたらすかは解ります。

音楽は自由です。度数や長短が合わさって、様々な彩りをつくる。そのどの色にも魅力があって、それでなきゃ表現できない世界がある。全てのコード進行には存在意義がある。「このコード進行は、理論的に正しいんだろうか?」とか、そんなことに悩む必要はなくって、正しい音楽なんてものはない。接続系理論は、単にそれを示すためのものにすぎません。

じっさい接続系理論はココで終わりではなく、Ⅵ章ではジャズにおける接続系、Ⅶ章では古典派クラシックにおける接続系、Ⅷ章では調性が安定しない環境下での接続系・・・と話が広がっていきますので、今回の分類に殊更こだわる必要もありません。むしろ、自分の個性を出すための「オリジナル接続系」を頭の中に築き上げていってもらえたらと思います。

統計データを見てみる

とはいえ、まだ接続系理論を学んだばかりの今は、実際に「2族」が“どれくらい”珍しい進行なのかという“量感”が無くって、使い分けもイメージしづらいと思います。ほんの少しの参考までに、そのあたりも紹介しましょう。

Hooktheory Trends

こちらは、11,000曲のコード進行をデータベース化し、同じコード進行の曲を探したり、あるコードが次にどこへ進むかの分布をまとめてあるスゴいサイトです。こういったサイトを活用すると、コード進行の統計的比率の情報の一端を得ることができます。

例えばC→Gとクリックしていくと、IVの進行を含む曲が羅列され、しかもその次にどこに進んでいるかがすぐに分かります。そこでは定番のトニックへの解決がIVIm合わせて48%を占め、クラシックでは禁則のIVへの逆行が25%、そして強烈なIImへの逆行も10%存在しているという結果になっています。

Hooktheory Trends

「25%」や「10%」というのは、全くもって無視できない数字ですよね。「2族」の進行たちは本当にもはや「一部の例外」ではなくって、ひとつのれっきとしたパターンとして認められなければおかしいくらいのシェアを占めているのです。1

あるいは、4個セットのコード進行で調べてみても面白い。E²のところで紹介したVImIIVIの進行は、1万曲のデータ中37曲(0.33%)で使われています。紹介した「Sexy Bitch」や「To Be With You」もちゃんとカウントされていますね。

Hooktheory Trends

それに対し、様々な理論コンテンツで定番中の定番と評されるIVImIVVの進行は、127曲(1.1%)という結果でした。
ただしこの中には、「4-5-1-6」や「6-4-5-1」をループする楽曲も相当数カウントされているようですので、本当の「1-6-4-5」の含有率はもっと下がるでしょう。2

王道進行の1.1%に対して、2族の進行0.33%という結果が出たわけですが・・・

クラシック系の人
ほら! 実に3倍以上ですよ。これは古典派音楽理論の正しさを証明しています。

ダンス系の人
いや、「超ド定番」の1/3の比率で「禁則進行」が使われてるなら、それもう禁則じゃないでしょ。この数字ってコードの世代交代が始まってる証じゃん

理系の人
そもそも母集団に偏りがある時点でこのデータにはバイアスがかかっていますし、抽出のアルゴリズムにも問題があるので、この数値には意味がありません。

まあ見方は色々ありますが、実例がたくさんある以上は、これを「禁則」と閉じ込めてしまうより、その効果や活用法を教えるのが音楽理論のあるべき姿であろうと、自由派は考えるわけです。

確かにこれは機械による抽出なのでその抽出法やキーの判定に不完全さはありますし、当然1万曲のジャンルには偏りがあるでしょう。しかしそれでも、無視できないだけのたくさんのデータがここには集められています。

理論と統計

上記のような大量のデータを集積・分析できるようになったのは近年の情報技術の進化の賜物ですよね。音楽理論においてこのような統計情報というのは非常に貴重で重要なものです。本来理論というのは、仮説を立てたあとにはこうした統計に基づいて説を「実証」せねばなりません。実証できてようやくスタートラインに立てる。

旧式理論はこれまで、大きな統計データが無いのをいいことに、「サブドミナントはドミナントへ進むのが基本」「禁則と呼ばれる進行を使う場合もあるが、それはあくまで一部の例外」「1-6-4-5は最もよく使われている進行である」などといった、無責任な提言を繰り返してきました。それどころか、2010年代に発売された書籍であっても、未だに現実と全くかけ離れた理論を主張しているおかしな本はあります。

自由派を学ぶ皆さんには、そうした根拠のない理論に騙されないでほしいなと思います。

お墨付き

中には、こうしたデータではなく、どうしても「何かしら権威的なモノ」にきちんと保証されなければ安心できない、信用できないという可哀想な人もいるでしょう。念押しに、バークリー音楽大学で30年以上講師を務め、学長も務めた、同校のアイコンとも呼べる存在であるBarrie Nettles氏の著書からの言葉を引用しましょう。

Any diatonic chord may progress to any other diatonic chord. The control factor is in the relationship between the roots of the chords and the voice leading between chords.

(どのダイアトニックコードも、他のどんなダイアトニックコードにでも進むことができます。それをコントロールする要素は、コード同士のルートの関係と、ヴォイス・リーディングです。)

Barrie Nettles “The Chord Scale Theory Jazz Harmony” p31

そう、ポップス系音楽理論の源流とも言えるバークリー・メソッドも、自由なコード進行を認めているのです。ルートの動きと声部連結が「コントロール・ファクター」になってくる。まさに、接続系理論が述べていることそのものですね。

もちろん発展的なコードになってくると、「この次にはこれが来た方がいい」という定型が登場しますが、少なくとも基調和音の世界の中では、「自由にコードは繋げられるもの」と考えた方がずっと実践的です。


さて、I章で「度数」や「基調和音」「TDS」など基本概念はかなり固まりましたし、基調和音だけでもすごくディープな世界が広がっているということは、ここまででご覧のとおりです。だからこそ、ジャンルによってはI章の知識で十分なのです。
特にメロディ編の「調性引力論」と、この「接続系理論」は、音楽を形作る極めて重要な「基盤」です。先を急ぐことなく、基礎の定着に力を注いでほしいと思います。

ただ、途中で「III章での技法を学ぶともっとオシャレに出来るよ」なんて紹介がありましたね。ああいうのが気になる人は、少しずつ読み進めて行くことをオススメします。
II章のはじめには、ここまでの理論の理解度を確認する「ゲートウェイ」がありますので、しばらく制作・研究の期間をおいてから進んでもらいたいと思います。

総括
  • 音楽の印象は、時代性や文化性といったコンテクストによって大きく左右されます。したがって、それらを考慮に入れないような音楽理論では、真の意味での実践性・普遍性に欠くところがあります。
  • 我々の積み上げられた聴覚経験から、四大接続には安心感・お行儀のよさを感じ、それ以外の接続には現代らしさ・耳新しさを感じる傾向にあります。
  • 基調和音どうしは、どんな接続も可能であり、それをコントロールして適切に使える技能こそ、作曲のセンスであるといえます。

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