接続系理論 ➓ 総括

音楽理論 接続系理論

§2 データの分析

さて、いくら「どんなコード進行を使ってもよい」とか「E型の使用頻度も増えてきている」と言われても、端的に言って、そんな話にわかに信じがたいですよね。だって理論書には「DSは例外的」「3度上行は弱い」と書いてあるんですもの。

そして使用例があるにしても、それが100曲に1曲出会うくらいの珍しさなのか、10曲に1曲くらいは登場するものなのか。そういう比率を知ることでもまた心持ちが変わりますよね。

そこで最後に少し、思想ではなくデータからアプローチしてみましょう。

Hooktheory Trends

こちらは、11,000曲のコード進行をデータベース化し、同じコード進行の曲を探したり、あるコードが次にどこへ進むかの分布をまとめてあるサイトです。こういったサイトを活用すると、コード進行の統計的情報の一端を得ることができます。

ドミナントの進行先について

例えばGのコードをクリックすると、これがすなわちVのコードということで、その次の進行先のパーセンテージが表示されます。そこでは定番のトニックへの解決がIVIm合わせて47%を占め、クラシックでは禁則のIVへは21%、そして強烈なIImへの逆行も6%存在しているという結果になっています。

Hooktheory Trends

もうひとりのドミナントであるIIImの進行データも含めてまとめると、DTのモーションは計4140曲DS3053曲に含まれているという結果が得られます。比率にしておよそ4:3ですね。1

ドミナントの進行先の曲数が、含有曲数でみてT:S = 4:3 というデータが出ましたが・・・

クラシック系の人
ほら! やっぱりトニックへ進むのが基本なんですよ。これは古典派音楽理論の正しさを証明しています。
ダンス系の人
いや、「基本」っていうほどの差じゃなくね。DSは例外的つってたけど、そしたら11000曲のうち3000曲が例外じゃん。こんなんもう「例」だから。「例外」じゃなくて「例」だから。
クラシック系の人
ハァーーーーーー君たちは音楽家とは呼べませんね。雑音づくりの専門家です
ダンス系の人
あ? やんのかオイ
理系の人
そもそも母集団に偏りがある時点でこのデータにはバイアスがかかっていますし、キー判定など抽出のアルゴリズムも完全ではないので、この数値には意味がありません。

確かにこれはアメリカが中心のデータですので、ポピュラー音楽全体の傾向を反映しているとは言い難いですが、それでも無視できないだけの様々な情報がここには蓄えられています。
そして数千曲もサンプルがある以上は、これを「例外」として無視していくよりは、こうやってE¹とかA²とか名前をつけて、きちんと正式な仲間として、素晴らしい表現のひとつとして迎え入れようというのが自由派のスタンスなわけです。

好きな曲を分析をしよう

多様性が花開いた現代においては、他人の意見を鵜呑みにしないことが大切です。音楽理論に詳しいと称する人があなたの曲にエラそうに意見してきたとして、もしそれが畑違いの人だったら、何にも気にすることはないのです。そんなのは全然アテにならない。
たとえ理論書に「ほとんどの曲はTで始まります」とか「1-6-2-5が最もよく使われる進行」といった”統計っぽい”情報が書いてあっても、そんなのは何年前の、何のジャンルでの話か判ったものではありません。

けっきょくのところ、最大の指標となるのは貴方が取り組んでいるジャンルの実際の楽曲です。「分析」が大切だと言う話は、序論でもありましたよね。もし自信がなくなった場合には、分析をしてデータを手に入れましょう。この11000曲のデータよりも、あなたの尊敬するアーティストの10曲の方が重要です。

§3 3コード以上の接続に関して

ところで、C型接続の解説の際に、音楽の世界にも「慣性」があることを紹介しました。機能にせよルート変化にせよ、「同じ動きがそのまま続いていくことを予期する心理」を比喩したものです。この慣性の存在もまた、このビッグデータを使って確認することができます。

V?

Vからの進行I : 21% / IV : 21%

IImV?

IIm-Vからの進行I : 40% / IV : 9%

VImV?

VIm-Vからの進行I : 17% / IV : 43%


同じVであっても、それが「2-5」と来たか「6-5」と来たかによって進行先の比率が逆転していることが確認できます。2-5-1は「機能順行」と「B型」を連続するモーション、6-5-4は「機能逆行」と「C型(下行)」を連続するモーションであり、「慣性」が顕著に表れやすい場面なわけですが、ここまで露骨に数字として表れると、改めて驚きがあります。2

ですからもしコード進行の普遍的法則を解き明かしたい!自分で理論を考えるぞ! なんて思う場合には、2コードの接続だけでは不十分であるということは心得ておくべきでしょう。

抽象と捨象

音楽理論において2コードの接続を基本に論じるのは、ただ単にそれが人間の言語的処理能力の限界だからです。たった2コードの接続を論じるにも、30パターンで10個の記事が必要でした。もし3コードの接続となれば、基調和音だけでもパターンは6×5×5で150とおり、記事は50個くらい必要そうです😖 とても読みきれないですよね。

例えば理科の計算のときには「ただし空気抵抗や摩擦は考えないものとする」なんていう前提がよくつきますが、音楽理論がやっているのはそれと全く同じことです。現実の世界は複雑すぎるから、ややこしい部分は切り捨てて、それで理論を運用可能なものにしているわけです。

ここまでで確認したように、コード理論においては「考えないものとする」部分がたくさんあります。

  • 音楽のジャンル
  • リスナーの音楽経験・体験
  • 楽器の音色
  • コードのヴォイシング
  • 慣性など、前後関係による影響

実践において何か理論で説明のつかないモノに出くわしたときには、より難しい理論を探すというよりは、このように切り捨てられた部分をまず観察してみるとよいでしょう。

物事を抽象化する際には、それと引き換えに捨てられる部分というのが必ずあって、その行為を「捨象」といいます。抽象と捨象は、離れられない表裏一体の存在なのです。