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ひとつ前の記事で「シェル傾性」について確認したわけですが、ここからの記事群においては、いくぶん解像度を落とした「パリティ」による二分割方式を中心に話を進めていきます。

パリティに集約

本当はそれぞれのインターバルに特色があるわけですが、そこまで踏まえたハーモナイズ論は流石に冗長になりすぎます。同じ奇数シェルでも個性が異なることはII章でやったし、偶数シェルそれぞれの微妙な違いについてもIV章でガッツリやりました。ですので、そこに関してはもうこちらでクドクド説明しなくても理解できるという前提でいきます。

1. ハーモナイズの思考回路

さて、実践では複雑に動くメロディに対してハーモナイズをするわけですが、まずスタート地点として、この回では単音に対してのハーモナイズから始めます。

単音に対してのハーモナイズ

単音に対しての音のあて方が分かれば、それを応用して実際のメロディラインにも綺麗にコードをあてることができるはずですからね。

フォルダ指向とタグ指向

ただハーモナイズの作業は流動的で、基準がひとつではありません。ルートが決まっている時もあれば、機能が決まっている時もあるし、もっと抽象的に「過激にしたい」とかを基準にする場面もありますよね。V章の言葉で言うなら、ここでもまた「オーダー」が複数考えられるのです。

しかしその際、これまでコード編で学んできたコード理論の体系というのが、この作業にあまり適していないことに気づきます。というのも、コード理論の体系は「二次ドミナント」「パラレルマイナーコード」「転回形」など、コードの理論的な解釈を元に分類してまとめているからです。

同主調からの借用

こちらは基本的なパラレルマイナーコードたちで、私たちはこれを見て「ああ、共通する仲間が集まってるな」と感じるわけですが、実際にはルートも機能もバラバラなのですから、ハーモナイズに関してはこの7人はちっとも仲間じゃないのです。「ここで短調の雰囲気を混ぜ込ませよう」というような限定的なタイミングでしか、彼らをグループとして見ることはない。

ですので、頭の中でコードたちが理論書どおりにくっきり“フォルダ分け”されていると、それって実はハーモナイズをやりにくい思考環境になっているということなんですね。

フォルダ的な脳内

フォルダ指向

イメージでいうと、こういうことです。脳の中での情報整理が“フォルダ型”になっていると、他のコードを探しにいく時、いちいち上のフォルダに戻っていかないといけなくて時間がかかるわけですね。

ハーモナイズをスムーズに行うには、もっと横断的、かつ複合的にコードを絞り込んでいける形でコードを整理しておく必要があります。じゃあそれは何か。そう、タグです。

タグ的な脳内

タグ指向

一見ゴチャゴチャしている気もしますが、実際にはこのイメージの方がハーモナイズの理想環境に近いです。すなわち、階層的にコードを管理するのではなく、ある特徴を持つコードをワンクリックで引き出せる環境です。

“タグ付け”がきちんとなされた状態であれば、そこから“フィルタリング”の機能を使って瞬時に目当ての音を見つけ出すことだって簡単にできます。

フィルタリング

こんなアプリがあったらいいな・・・ではなくって、実際に脳内にコレを搭載するのが目標ということですね。状況に応じて、ルートだけ固定したり、パリティを制限したりといった「絞り込み検索」を、頭の中でススっと出来るようになるのが理想です。

機能で検索

これまでの課程の中ですでに習得しているフィルタリングというと、機能を元にした検索がいちばん確立されていると思います。

機能からハーモナイズ

こうやって、トニック機能と定めたうえで、代理コードや転回形といったバリエーションを考えていくのは定番のやり方ですね。ただ、このようなコードオーダーの方法論だと、コードを代理した結果メロディとぶつかって、メロディの方を変えたという経験もこれまでに一度はあるのではないでしょうか? そんな風にコードに振り回されることがないよう、この記事ではメロを固定した状態からのフィルタリング能力を強化していこうと思います。

2. ダイアトニック検索

今回は代表例として、「ド」のハーモナイズを試みます。ひとくちに「メロ固定のハーモナイズ」といってもその先のオーダリングの仕方はさまざま。今回はリアルの場面で実際によく行うオーダーを踏襲しながら解説していきます。

ハーモナイズのスタート地点はやはり、臨時記号の一切ないダイアトニックコードの世界からです。まずは何の加工もせず、7つのダイアトニックコードをそのままあてていきます。

T0から3

「パリティと接続系」のときにやったことを思い出して、Rtシェルになる状態から3度ずつドロップしていくと、奇数シェルを順に総取りできるのでおすすめ。いざ並べると、奇数パリティの範囲ではドミナント機能のコードが存在しないことが分かります。そして右の3つはいずれも高傾性シェルですから、これらでハーモナイズをすることは「ドを緊張役として使うこと」を意味します。間違っても「これらのコードではハーモナイズできない」ではないですからね!

高傾性シェルの活用

万にひとつ、VIIøの上でドをガッツリ伸ばすのはダメと思っている人がいるかもしれないので、念のため実例を置いておきます。

ジャズ系理論で理論上禁止されているハーフディミニッシュでの揺さぶりも、実際にはこのように有効な技法のひとつ。メロディオーダーの作曲においては、まず可能性を簡単に切り捨てないことが大切です。

スラッシュコードを検索

閑話休題。ここで転回形やsus4などに視野を広げるとさらにバリエーションが生まれて、IIIやVをルートにした状態でドの音を快適に伸ばすという選択肢が生まれてきます。

パリティ転換

元来ドと相性が悪いIII・V・VIIをルートにして、パリティを奇数に限定するなら、この辺りが候補となります。これで満足できなかった場合は、臨時記号を伴うノンダイアトニック世界に進むか、sus4などの方面で工夫をするかになってきます。
臨時記号アリならまたルートの選択肢が増えるし、ルートに満足したものがあれば、それを固定してクオリティやスラッシュコード化するかの決定へ進むことになります。

3. 全ルート検索

せっかくなので、ここはひとまずフラット・シャープを含む全ルートでの可能性を模索します。

フラット系

フラット系

まずフラット系で代表的なコードはこんなところ。III、VIIでは、右側の例のようにスラッシュコード方面から探せばやっぱり奇数パリティのものを発見できます。ここにはコード編の各所で紹介された複数の技法が混ざっていますが、今は混ぜこぜでもよい。こうして解釈という「フォルダ」の垣根を取り払って、サウンドを純粋に見つめる時間なのです。

シャープ系

シャープ系

ルートがシャープをとるコードというと、IV章の「ハーフディミニッシュの応用」「パッシング・ディミニッシュ」で紹介したものたちが候補に上がってきます1

みんな前後のコード進行の選択肢が限られていて、差し込めるタイミングは限られていますね。とはいえまあこうしてみると、コード編IV章までの知識をフル活用すれば、任意の音をルートに取ることができるということが分かります。

中には「パッシングディミニッシュ+変位のキャンセル」のような複合技もあって、これはやっぱり感性だけでは辿り着きづらい領域だと思います。

IIm7V7IΔ7♯Io7

こちらは♯Io7の上にドを乗せた例です2。 独特な濁りが非常に魅力的ですよね。

4. 単ルート検索

とはいえ実践では、12のルートを片っ端から探すということはあまりなく、前後の流れやメロディラインから、まあルートはこの辺だろうと決まることが多いと思います。その場合は、次にルートを固定してのバリエーション検索を走らせることとなります。

今回はせっかくなので、理論知識がないとハーモナイズしにくい、Vをルートにしたパターンで考えてみます。

偶数シェルのままにする

まずはスラッシュコードにせず、ストレートに偶数パリティの不安定さを味わうパターン。ここでは「シ」を入れて和声的傾性を高める路線はさすがに回避して、それ以外のコードクオリティを考えます。

パワーコード、sus4、sus2、クオリティチェンジしてマイナー化。この辺りが候補となりますね。この中では、やはり右端のVm7系列が、3rdがしっかり満たされているため充実したサウンドになります。

IVΔ7III7VIm7Vm11

こんな感じ! この進行の場合、おなじみのVm7I7の流れをひとつにまとめてしまったようなサウンドで、とても魅力的です。

パリティ転換する

偶数パリティの不安定さを解消しドッシリさせたいならば、ウワモノをドの仲間にしてスラッシュコード化、パリティ転換してシェル傾性を軽減するという方向になります。

このうちポップスで一番の定番は、左から3番目のIIm7/Vでしょう。パリティが奇数になるだけでなく、分子目線ではドが7thのガイドトーンになっていて、響きとして非常にリッチ。すごく華やかで、カラフルなサウンドを求めるポップスでは、これがナンバーワンの選択肢になってくるはずです。

多少攻めた選択肢といえるのが右端で、構成音のひとつであるラがベースに対して半音に乗るので、緊張を生んでいます。メロとは関係ないところでケンカが起こってるわけです。

内部で強傾性

ですので、いつものIVmΔ7とは違って、独特の緊張感を持ったサウンドに仕上がっています。ベースのVによって、ドを着せ替えただけでなく、ラの聴こえ方も影響を受けるのです。


ハーモナイズの際の、代表的な“検索”方法はこんなところ。検索さえできれば、あとは前後関係や表現したい曲想から、最適と思われるものを選ぶだけです。

  • ダイアトニック検索
    ひとまず7つのダイアトニックコードをあててみる。最も標準的なサウンド結果が得られるほか、ルートを選ぶ際の出発点にもなる。
  • 全ルート検索
    シャープやフラットを含めた全てのルートを検索する。サウンドの幅が増えるのに加えて、傾性の微調整も可能。
  • 単ルート検索(パリティ維持)
    ルートを固定して、内側のハーモニーを決める。3rdや7thが不確定な状況下では、クオリティチェンジやパワーコードといった選択肢がある。
  • 単ルート検索(パリティ転換)
    ルートを固定したまま、スラッシュコード化することで逆パリティのコードを検索結果に含める。
  • 単機能検索
    ルートや臨時記号の有無を問わず、機能を基準にして似たコードを検索する。

ほか、今回登場しなかった検索法として、以下のようなやり方も考えられます。

  • 単音検索
    「ファを含む」など、特定の音を含んだコードを探す。
  • 転回形検索
    ある特定のコードを定めて、その転回形を考える。
  • シェル傾性検索
    シェル傾性の上限/下限を定めてコードを検索する。音響的に落ち着かせたい、揺さぶりをかけたいといった方向性が決まっているときに便利。
  • 所属キー検索
    「⚪︎⚪︎キーに所属しているコードで」など、キー情報から検索する。転調の際に便利。

そして当然これらを複合した検索というのも考えられますね。

習得から体得へ

ハーモナイズの作業は、言語化するとどうにも冗長で、しかも堅苦しいですね。ただこれはI章の時と同じで、ハーモナイズを「体得」するまでの効果的な過程です。まず一度でもこうやって可視化したモデルでもって眺めることで、雑然としていたものが輪郭を伴って見えてきます。

ヒザはゆったり、腕はL字、ボールは指先で掴む、左手は添えるだけ・・・とひとつひとつのパーツの仕組みを知っておくことで、理想のフォルムに効率的に近づいていけるんですよね。
単ルート検索はこう、パリティ転換はこう、傾性を減らすにはこう・・・とハーモナイズのプロセスを分解した今回の内容は、まさにこの作業と同じです。しばらくの間だけ、頭を使いながら作業をしていれば、いずれ何も考えずともスッと最適なハーモニーが呼び出せるようになります。

まとめ

  • ハーモナイズにおいては、解釈を元にした分類よりも「特定ルート」「特定機能」といった横断的な検索能力が求められます。
  • ハーモナイズの発想プロセスは複数考えられますが、ダイアトニックコードを起点にして、ルート音かパリティ(シェル傾性)を元に絞り込んでいき、最終的にクオリティを確定させるという流れが基本パターンのひとつです。
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