スラッシュコードとシェル

メロディ編 Ⅳ章:シェルの研究
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ここからメロディ編のⅣ章が始まりますが、前提知識として、以下の内容が必要です。


メロディIV章では、シェルの理論についてより繊細に扱っていきますが、その際にコード編IV章のいちばん初めの記事、「スラッシュコード ❶転回形」の内容を理解しておく必要があります。「スラッシュコード」の概念を知ったうえで、この記事を読みはじめてください。

§1 スラッシュコードとシェル

さてスラッシュコードは、音楽的にかなり奥深いものがあります。例えばI/IIIというコードは、ベース自体はIIIの音で、そこまで安定はしていない。けども全体的な印象としては主和音としての落ち着きを持っているわけです。

しかしシェル分析の際には、スラッシュコードはなかなか手強い相手になります。もしI/IIIの上にメロディを乗せたとき、シェルはIを基準に見るのかIIIを基準に見るのか。メロディ編IV章は、まずそこから着手していきます。

スラッシュコードのシェルを分析する場合、以下のような方式を採ります。

分子に対するシェル/分母に対するシェル」という形式で表記することにします! 1 例えばいちばん左の例なら、ドはIにとってRoot Shell、IIIにとって6th Shellですから、「R/6」ということになります。表記こそ「R」を用いていますが、読むときは「イチロクのシェル」などと読んであげたら、語呂がいいのではないでしょうか。

分子も分母も大事

「どっちかに決めないなんてズルい!」って思いますか? でもそれを言うなら、スラッシュコード自体がズルいのです。スラッシュコード自体がIかIIIか決めかねているわけなので、じゃあシェルも2つ書くしかないという話にすぎない。

実際この表記はサウンドを理解するうえで不可欠です。というのも、I/IIIにおけるドというのは、総体が持っているIのコード感のルートをしっかりと提示する役目を担っていると同時に、ベース音のIIIとは6thという情感豊かな距離を形成しています。だから「単なるI上のド」がとことんストレートなサウンドであったのに比べて、I/IIIのドは格段にカラフルな印象を持っています。シェルの「R/6」という表記は、その事実をきちんと伝えてくれています。

それぞれの情報

「R」だけではこの「彩りの情報」が抜け落ちてしまうし、「6」だけでは、安定感を持って(無傾性で)しっかり音が伸ばせることが分かりにくくなってしまう。やっぱり両方書くしか選択肢はないのです。2

コードネームを簡略化可能

ちなみに、「シェルがスラッシュになる=コードがスラッシュコードである」ということなので、なにも「I/IIIのR/6」と言わなくとも、「IのR/6」と言えばコードがI/IIIであることは暗示的に伝わります。

R/6のベース自動補完

ですので、シェルをテーマに話している時や自分の頭の中でサウンドを整理する時なんかは、「IのR/6」というシンプル・スムーズな言い方をオススメします。「III」という数字が消えることに対しての違和感が最初はあるかもしれませんが、案外いつもと違う表記がいつもと違うインスピレーションをもたらしてくれたりしますよ。

§2 3/Rシェルの注意

I/IIIやV/VIIのように、ベースが3rdを取る形は「第一転回形」といい、「一転(いってん)」と略すのでした。「一転」のコードでメロも3rdを取ったときには、先ほどのとおり「3/R」、“サンイチ”というシェルになります。

しかしこの「3/R」、これまでの話を踏まえると、なかなかのクセ者であることが分かります。まずベースが3rdを取っている時点で、3rdの質感は十分に強調されています。
そのうえで、メロも3rd。そうすると、「ベース(分母)との関係はRoot Shellなので彩りが乏しい」それでいて「コード(分子)に対しては、ふたりとも3rdを押している」という状態で、実はあまりバランスが良くない状態です。

特に「V/VII」はカーネル的に言っても、メロもベースも「シ」の音ですから、「そんなに不安にさせる?」というくらいサウンドが傾きますし、「III7/V」は先述のとおり、3rdが変位シェルですので、やっぱり「そんなに変位音プッシュする?」というくらい強烈な不安定さがあるので、これが活きる場面というのは珍しいです。

Iの3/R Shellを聴いてみる

一方でI/IIIくらいならまだメロディラインの流れ、カーネルを優先した結果3/Rになることも普通にありますね。

こちらはそんな一例。サビ冒頭がIVΔ7I/IIIという進行で、そこに乗る「行こう 向こう」のところが3/Rです。
メロディを見ると、韻を踏みながら同形のメロディを二度リピートしていて、もう変えようがない形で完成されています。一方でベースも、IVからのなめらかな半音下行でIIIに行くというのが曲想と完璧にマッチしています。もし単なるIにしてしまったら、そのあとに来る2-5-1の解決の魅力が死んでしまいます。
「これはもう3/Rで行くしかない」。メロディの重要性が極めて高いポピュラー音楽においては、そういう場面に遭遇する時はどうしてもありますので、こういう場合は自信を持って3/Rで行くのがよいです。

これは純粋に音響的な観点から見ればバランスが悪いですが、しかしメロ・コード・ベースラインのいずれについても表現したいテーマに対する説得力があるため、結果としては十分に魅力的なものとして心に響いてきます。バランスの悪さで1点減点されたとしても、魅力で10点加点されれば勝ち。そういうイメージですね。

クラシック和声理論と3/R Shell

サウンドバランスに厳しいクラシックの和声理論においては、I・IVのコードでの3/R Shell配置は「しない方がよい」とされ、特にVやIII7での3/Rに至っては「禁則」として有名です。

禁則

これは確かに厳しく言うのも一理ありかなというところで、あまり良い響きになりません。もちろん「ココはあえてベースとメロ、両方でシを鳴らして思いっきり不安定にしよう!ココはそういう場面だ!」と思ったら、やっても構わないですけどね。

シェルが2段構成ということで、スラッシュコードのシェル分析は大変になります(カーネルも忘れちゃダメだし)。ただ、それはそれだけスラッシュコードが奥深い音楽表現だということですので、大切にひとつひとつ扱ってあげてください。

まとめ
  • スラッシュコードのシェルを分析する場合には、分子・分母それぞれ別個にシェルを記します。
  • 第一転回形でウワモノも3rdをとる「3/R」の形は、サウンドが偏るため、あまり推奨されません。

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