6th Shellの用法

メロディ編 Ⅳ章:シェルの研究
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今回は、メロディ編のⅣ章の前提知識に加えて、コード編IV章初めの「スラッシュコード」の知識が必要になります。

  • メロディ編 Ⅲ章まで
  • コード編 Ⅳ章「スラッシュコード❶」まで

2nd,4thと来てついに最後のシェルが6thです。シェルマスターを目指して頑張りましょう。

#1 詳細度数を確認する

6thについても、長6度なのか短6度なのかで話は大きく変わりますので、やっぱりまずは度数の確認から。

6th Shellのインターバル

大文字の「M6」が長6度で、小文字の「m6」が短6度です。今回は、IIImVImが仲間はずれってことですね。この2人については後回しにして、他の4つを見ていきましょう。

#2 メジャーコードとM6 Shell

メジャーコードでのM6 Shellについては、コード編の「シックスコード」の話とかなり共通するところがあります。メロディとコードを重ね合わせると、シックスコードの構成音そのものですからね。

6thとメジャー

ですから、シックスコードの話を思い出しながら振り返っていきましょう。上の3つの中で、一番使いやすくて汎用性のあるものはどれだったか、覚えていますか?

IVとM6

それは、IV6のコードでした。他2つと違って「サスペンド感」が全くなく、導入がしやすい。それはメロディについても同じで、IVにおけるM6 Shellは傾性が全く強くなく、普通に伸ばすことができます。IV上のM6は「レ」の音ですから、そもそものカーネルがフワフワしています。そこにIVの浮遊感がよくマッチするのです。


「春よ、来い」は、その代表例ですね。サビ歌い出しの、「春」のところの伸ばしが、M6 Shellです。IV6は、どことなく和風な哀愁が漂うので、日本人にとってはすごく重要な表現材料です。


「となりのトトロ」の音楽のひとつですね。聴き覚えがあるメインフレーズ、その始まりが「ラドレ」となっていて、そこでIVとM6 Shellを構成します。やはり「春よ、来い」と同じ、どこかオリエンタルな風景が表現されていますね。

00年代の日本ロック史のアンセムのひとつ、フジファブリックの代表曲ですが、「夕がた」のところがM6 Shellです。夕方ごろの哀愁がシェルによってバッチリ作り出されています。また「春よ、来い」と同じく、コード内部で解決しないことがまた切なさに拍車をかけています。

もちろんIV×M6を愛するのは日本だけではありません。こちらは洋楽ですが、サビの「Sky perfect form, I love it when she moves like that」のところ。あえてしっかり解決しないのが魅力。こういうアンニュイな雰囲気を出す時には、IVのM6はかなり適任です。

VとM6

コードがVの場合、伸ばすか解決させるかで方向性が変わります。解決させるのが普通のパターンで、行き先としては5thへ順次下降か、もっと下がって3rdまで行くのが一般的。順次上行の場合、不安を煽る7thの音に進むので、かなり強烈な情緒を出したいのであれば、それもアリですね。

Vと6th Shellの解決

傾性の微弱な不活性音の「ミ」ですから、解決させないことも可能です。その場合は、Vが元来持つドミナントの効果を打ち消すような形になります。4th Shellの時と同じ話ですね。ですからモーダルな曲や、あまりVをドミナントらしく盛り上げたくないような場面では効果的です。

IとM6

Iには明るい主和音としての役目がありますから、短調のボスである「ラ」を解決せずに仲良くやっちゃうのはよくありません。あくまでも「サスペンド系」として使い、順次下行してあげるのが基本です。


こちらは、M6からの順次下行が何度も使われている例。P4-3rdのような感情的なサスペンドとは違い、すでに高らかで力強いP5を、さらに全音で上に吊る形になるので、とてもエネルギッシュに感じられます。


もう少し親しみやすい例。「っ赤なンゴをる」のところがM6ですね。やはり下行することでスッキリ着地します。
逆に解決しなければ、短調のボスが居座ることを許可する形になりますから、基本的に陰を帯びて暗くなります。構成音もVImに近くなりますからね。


こちら、VImVI6IIm6IV7VI6というコード進行。Iのコードの時に、メロがM6の位置をとったまま解決しません。そうすると、かなり鬱々とした雰囲気になりましたね。

「曲調が暗ければ暗いほど、ラの傾性が低下して伸ばしやすくなる」という話はⅠ章で既にありましたね。ダークな楽曲では、こんな風にあえてラの音を伸ばしてあげることも効果的です。

#3 IImとM6 Shell

さて、六つの基調和音の中では、マイナーコードとM6の組み合わせが生じるのは、IImの時だけ。次はこの特別なパターンを観察しましょう。

IImとM6 Shell

実はこれ、とても特徴のある組み合わせで、コードの3rdとメロディとの間に増四度の関係が生じています

増四度

これは割と珍しいパターン。そのため、どこか不安定で落ち着かない感じがします。カーネル自体も「導音」ですから、ここは素直に順次進行で解決するというのが基本です。

IIm×M6の解決

上行した場合は、カーネルとしては綺麗に主音に終止します。下行の場合、かなり暗さが際立つ形になりますね。

IIm×M6の独特なサウンド

IIm上のM6 Shellは、どこか演歌的な情緒を持っているユニークな存在です。

IIm6の使い方

こちらは、偶数シェルだけで構成してみたフレーズの例。II章でやったような奇数シェルと比べると格段にサウンドが複雑で、霞がかかったような感じですね。特にやっぱり冒頭のIImのところ。何とも言えず和風な情緒があり、とても魅力的。選択肢として持っていると、強みになります。

実際の楽曲での使用例。サビ冒頭の「手を繋いでいて」のところが、IIm上でM6 Shellを構築しています。和風な情緒と張り詰めたような緊迫感が絶妙に表現されています。この曲は他の箇所でも、偶数シェルの伸ばしや解決がバランスよく散りばめられていて、お手本のような楽曲になっていますよ。

もう一曲。公式な音源がなかったので、カバーバージョンでご紹介します。3:11からのCメロに注目。「がくせいがいのこの店に ふたりでよく来たけれど」のところが、IImとM6のコンビです。
まさに“昭和的”というか、古めかしい情緒あふれるフォークソングで、こういう雰囲気にIImのM6は最高にマッチします。

また2曲とも、順次下行で解決している点も見逃せませんね。この哀愁をそのまま活かすのであれば、上より下の方が憂いがあってずっと良いです。

ジャズとIIm

ちなみにジャズでは、IImの時にM6 Shellを大々的に使うことは非推奨、多くの場合はこれまた「アヴォイド・ノート」に指定されています。それは、「ファとシの不協和で緊張感を生み出すのはドミナントの役目だ」という考えが根強いからですね。

困るやん

ですから、ジャズのようなフォーマルな音楽の場合は、こういった東洋風な度数は避けて、ベタに3rdや7thを中心に構成した方が、そのジャンルにとってふさわしいサウンドに仕上がりやすいでしょう。ただ、ポピュラー音楽においては全然「避けるべき音」なんかではありません。本当に、「アヴォイド・ノート」という言葉に騙されてはいけないのです。

#4 m6 Shell

一方でIIImVImの場合は、短6度が構成されます。

m6 Shell

これは構成音に半音上で乗るパターンですから、かなり不安定。使うときは、5thの音を抑えめにするか抜くかして、過度な濁りを避けるのが普通です。上の音源はそのあたりを加減していますが、それでもまだグラグラしていますね。
もしそのままメロディを解決しないと、IIImはI/III、VImはIV/VIと実質的に同じ状態となってしまいます

類似性

構成音が全く同じですよね。実際には前後関係や演奏の感じからどちらを意図しているのかは判断可能ですが、まあいずれにせよ、とても紛らわしい状態です。

したがって、もしIIImが持つ「暗さ・重さ」やVImが持つ「短調のボス」といった、本来の役目を全うしたいという話であれば、このm6は長く伸ばすことを避けるべきです。伸ばしてしまうと、IIImは俄然トニックっぽく、VImは圧倒的にサブドミナントっぽくなってしまうということですから。当然ジャズ理論でも「アヴォイド・ノート」に指定しています。

こちらが素直に、半拍だけ伸ばして順次下行解決した例です。いい具合の「感情の揺れ」ていどに収まっていて、聴き心地も良いですね。m6 Shellの場合、下方が半音差なので、下行解決の方が圧倒的に滑らかで聴きやすいです。

m6シェルを後続解決で使う

ただし、これはかなり上級者向けの技法になりますけど、あえてこのセオリーを破るパターンも当然あります。やり方自体はそんなに難しくなくて、後続解決を使えばいいのです。

VIm×m6の後続解決

こんな風に、IVM7V7VImIと進んでいきます。m6 Shellの不安定さをしばらく放置して、Iに着地すると同時に解決するというシステムです。不安定ではありますが、意図していることが分かるので、聴いているうちにむしろこの独特さがクセになるという感じ。
「後続解決」は、今回のように一般的に「伸ばせない」とされている音を強引に伸ばす方法として非常に汎用性が高いです。ユニークな曲想を求める時には便利ですよ。

m6シェルをあえて解決しない

かなり前衛的ではありますが、この不安定なVIm上のm6シェルを解決しないまま放置する実例もあります。

こちらは遥か昔、メロディ編Ⅰ章の「傾性について」の回で紹介した曲です。VImのコード上でひたすらファの音を連打する、ファニーな楽曲でした。とにかくもう同じ音をリピートすることで「なんかもうそういうメロディなんだ」と聴き手に強制的に納得させる、特異なメロディですね。

2番サビが終わったあとの間奏の展開にご注目。ギターが「ララッファファ」というフレーズを弾いています。そしてそのファを特に解決するでもなく、ベースもVImを弾き続けていて、結果として「不安を煽りっぱなし」の独特な曲想を生み出しています。
もちろん「コードはIVになっていて、ベースだけ独立してVIの音を弾いている」という解釈も可能ですが、編曲・演奏の具合から考えると、やはり「VImの中にファという異物が混じっている」と捉えた方がしっくり来ます。

こうした表現法は、本当に21世紀だからこそという感じ。様々なテクニックが出し尽くされて、珍しいとされたサウンドも当たり前になってきてしまった。そこでさらに斬新な取り合わせというのを考えたときに、こうやって新しいものが生まれてくるのです。

そんなわけで、6th Shellというのはそれぞれに特徴があり、扱いが複雑です。ですが、こういう難しいシェルを使いこなす技能が、メロディメイカーとしては重要なのです。


さて、この3回で「偶数シェル」の解説は基本的に修了です。いかがでしたか?メロディの世界を構築している論理が、よりクッキリと見えてきたと思います。
Ⅱ章の段階では、1・3・5・7度の「奇数シェル」それぞれの差異を感じられるようになるというのが最重要課題でした。今後はこの偶数シェルそれぞれの質感、そしてそれらを各方向へ解決させた時の曲想の差異を体得していくことが課題になります。

シェルの体得に近道はありません。耳で覚えながら、ひとつずつ覚えていくことですね。

この節のまとめ
  • 6th Shellは、偶数シェルの中でも最も用法が多岐に渡ります。
  • IV上では最も伸ばしやすく、VやIの上では若干の「サスペンド感」が生じ、無視して伸ばすと曲想が短調に近づきます。
  • IIm上では、増四度の関係が生まれることで非常にユニークな情感を作り出します。
  • IIIm,VIm上ではm6が乗ることになり、これは強い傾性音です。順次進行で解決することが基本的に望まれます。
メロディ編 Ⅳ章は現在ここまでです。今後、基調外和音におけるシェルの扱いに関する記事などが追加される見込みです。

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