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2nd,4thと来てついに最後のシェルが6thです。シェルマスターを目指して頑張りましょう。

1. 詳細度数を確認する

6thについても、長6度なのか短6度なのかで話は大きく変わりますので、やっぱりまずは度数の確認から。

6th Shellのインターバル

大文字の「M6」が長6度で、小文字の「m6」が短6度です。今回は、IIImVImが仲間はずれってことですね。この2人については後回しにして、他の4つを見ていきましょう。

2. メジャーコードとM6 Shell

メジャーコードでのM6 Shellについては、コード編の「シックスコード」の話とかなり共通するところがあります。メロディとコードを重ね合わせると、シックスコードの構成音そのものですからね。

6thとメジャー

ですから、シックスコードの話を思い出しながら振り返っていきましょう。

IVとM6

上の3つのコードでいうと、M6 Shellが特に使いやすいのはIVのコードです。IV6が適度な哀愁を持ち込んでくれて非常に便利だったのと全く同じ要領でM6を活用することができます。IV上のM6は「レ」の音ですから、そもそものカーネルがフワフワしています。そこにIVの浮遊感がよくマッチするのです。


「春よ、来い」は、その典型例ですね。サビ歌い出しの、「春」のところの伸ばしが、M6 Shellです。IV6は、どことなく和風な哀愁が漂うので、日本人にとってはすごく重要な表現材料です。

00年代の日本ロック史のアンセムのひとつ、フジファブリックの代表曲ですが、「夕がた」のところがM6 Shellです。夕方らしい哀愁がシェルによってバッチリ作り出されています。また「春よ、来い」と同じく、コード内部で解決しないことがまた切なさに拍車をかけていますね。

もちろんIV×M6を愛するのは日本だけではありません。こちらは洋楽ですが、サビの「Sky perfect form, I love it when she moves like that」のところ。あえてしっかり解決しないのが魅力。こういうアンニュイな雰囲気を出す時には、IVのM6はかなり適任です。

VとM6

コードがVの場合、伸ばすか解決させるかで方向性が変わります。解決させるのが普通のパターンで、行き先としては5thへ順次下降か、もっと下がって3rdまで行くのが一般的。順次上行の場合、不安を煽る7thの音に進むので、かなり強烈な情緒を出したいのであれば、それもアリですね。

Vと6th Shellの解決

傾性の微弱な安定音の「ミ」ですから、解決させないことも可能です。その場合は、Vが元来持つドミナントの効果を打ち消すような形になります。4th Shellの時と同じ話ですね。ですからモーダルな曲や、あまりVをドミナントらしく盛り上げたくないような場面では効果的です。

IとM6

Iには明るい主和音としての役目がありますから、短調のボスである「ラ」を解決せずに仲良くやっちゃうのはよくありません。あくまでも「サスペンド系」として使い、順次下行してあげるのが基本です。


こちらは、M6からの順次下行が何度も使われている例。P4-3rdのような感情的なサスペンドとは違い、すでに高らかで力強いP5を、さらに全音で上に吊る形になるので、とてもエネルギッシュに感じられます。


もう少し親しみやすい例。「っ赤なンゴをる」のところがM6ですね。やはり下行することでスッキリ着地します。

逆に解決しなければ、短調のボスが居座ることを許可する形になりますから、調性が短調サイドへ傾き、陰を帯びて暗くなる効果が期待されます。構成音もVImに近くなりますからね。

VImVI6IIm6IVΔ7VI6

ダークな楽曲では、こんな風にあえてラの音を伸ばしてあげることも効果的です。

3. IImとM6 Shell

さて、六つの基調和音の中では、マイナーコードとM6の組み合わせが生じるのは、IImの時だけ。次はこの特別なパターンを観察しましょう。

IImとM6 Shell

実はこれ、とても特徴のある組み合わせで、コードの3rdとメロディとの間に増4度の関係が生じています

増4度

これは割と珍しいパターン。そのため、どこか不安定で落ち着かない感じがします。カーネル自体も「導音」ですから、ここは素直に順次進行で解決するというのが基本です。

IIm×M6の解決

上行した場合は、カーネルとしては綺麗に主音に終止します。下行の場合、かなり暗さが際立つ形になりますね。

IIm×M6の独特なサウンド

IIm上のM6 Shellは、どこか演歌的な情緒を持っているユニークな存在です。

こちらは、偶数シェルだけで構成してみたフレーズの例。II章でやったような奇数シェルと比べると格段にサウンドが複雑で、霞がかかったような感じですね。特にやっぱり冒頭のIImのところ。何とも言えず和風な情緒があり、とても魅力的。選択肢として持っていると、強みになります。

実際の楽曲での使用例。サビ冒頭の「手を繋いでいて」のところが、IIm上でM6 Shellを構築しています。和風な情緒と張り詰めたような緊迫感が絶妙に表現されています。この曲は他の箇所でも、偶数シェルの伸ばしや解決がバランスよく散りばめられていて、お手本のような楽曲になっていますよ。

もう一曲。公式な音源がなかったので、カバーバージョンでご紹介します。3:11からのCメロに注目。「がくせいがいのこの店に ふたりでよく来たけれど」のところが、IImとM6のコンビです。
まさに“昭和的”というか、古めかしい情緒あふれるフォークソングで、こういう雰囲気にIImのM6は最高にマッチします。

また2曲とも、順次下行で解決している点も見逃せませんね。この哀愁をそのまま活かすのであれば、上より下の方が憂いがあってずっと良いです。

4. m6 Shell

一方でIIImVImの場合は、短6度が構成されます。

これは構成音に半音上で乗るパターンですから、傾性がかなり強まり、解決の欲求を引き起こします。使うときはまず5thの音を抑えめにするか抜くかして過度な濁りを避け、その上で解決させてあげるのが基本形と言えます。

こちらが半拍だけ伸ばして順次下行解決した例です。いい具合の「感情の揺れ」ていどに収まっていて、聴き心地も良いですね。m6 Shellの場合、下方が半音差なので、下行解決の方が圧倒的に滑らかで聴きやすいです。

メロディ優先型で考える

しかしながら実際の作曲においては、IIImの上でドを「伸ばしたい」と感じるとき、あるいは「伸ばしても特に解決の欲求が生じない」という時があります。その場合、メロディを基準にしてもう一度考え直してみましょう。そこによく当てはまるコードは、IIImじゃなくI/IIIの可能性があります

比較

コードをI/IIIと考え直せば、ドの音は落ち着きのある「R/6 Shell」になります。コード理論では、コード進行が優先なので「ドは伸ばせない」などと説明されますが、実際の作曲ではこうやってフレキシブルにメロディ優先思考に切り替えて、コードの方を微調整するという選択も十分あり得るわけです1

こういった「傾性」や「濁り」に敏感になって、自分が求めるサウンドをしっかりアウトプット出来るようにするための過程が今ですね。

m6シェルを後続解決で使う

ただし、解決しないm6シェルを用いた場合も、それをスラッシュコードと見るのではなく、あくまでも刺激物たるm6だと解釈した方が自然だという場合もあります。後続解決を使った場合にはそれが十分起こりえます。

こんな風に、IVΔ7V7VImIと進んでいきます。m6 Shellの不安定さをしばらく放置して、Iに着地すると同時に解決するというシステムです。不安定ではありますが、意図していることが分かるので、聴いているうちにむしろこの独特さがクセになるという感じ2

「後続解決」は、今回のように一般的に「伸ばせない」とされている音を強引に伸ばす方法として非常に汎用性が高いです。ユニークな曲想を求める時には便利ですよ。

m6シェルをあえて解決しない

かなり前衛的ではありますが、この不安定なVIm上のm6シェルを解決しないまま放置する実例もあります。

こちらは不気味な雰囲気で芒洋とVImIVΔ7のようなコードを繰り返す曲ですが、2:35から右側に加わるメロディに注目してください。メインメロディとは別に「first, and children…」と繰り返すサブメロディのような立ち位置の音ですが、これがひたすらファを反復しています。
そこまでのパートでは一応VImに着地する箇所があったのですが、ここでは常にファが鳴ることできちんと解決ができず、結果として異様な雰囲気がより強固に演出されています。これはm6 Shellの不安定さを逆手にとった表現法と言えるでしょう。

そんなわけで、6th Shellというのはそれぞれに特徴があり、扱いが複雑です。ですが、こういう難しいシェルを使いこなす技能もメロディメイカーとしては重要になります。


さて、この3回で「偶数シェル」の解説は基本的に修了です。メロディの世界を構築している論理が、よりクッキリと見えてきたと思います。
Ⅱ章の段階では、1・3・5・7度の「奇数シェル」それぞれの差異を感じられるようになるというのが最重要課題でした。今後はこの偶数シェルそれぞれの質感、そしてそれらを各方向へ解決させた時の曲想の差異を体得していくことが課題になります。

シェルの体得に近道はありません。耳で覚えながら、ひとつずつ覚えていくことですね。

まとめ

  • 6th Shellは、偶数シェルの中でも最も用法が多岐に渡ります。
  • IV上では最も伸ばしやすく、VやIの上では若干の「サスペンド感」が生じ、無視して伸ばすと曲想が短調に近づきます。
  • IIm上では、増4度の関係が生まれることで非常にユニークな情感を作り出します。
  • IIIm,VIm上ではm6が乗ることになり、これは強い傾性音です。順次進行で解決することが基本的に望まれます。
  • 作曲においてIIIm,VIm上でm6を伸ばしたいと感じる場合には、そのコードはスラッシュコードだと解釈し直すと自然になる可能性が高いです。
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