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4. マイナーコードとP4 Shell

さて、メジャーコードはかなり繊細な解説が必要でしたが、マイナーコードは全然難しくありません。短3度と完全4度は半音差ではありませんから、濁りはほとんど気にならないレベル。解決するもよし、しないもよしで好きに使えばオッケーです。

ただし完全4度というのは、「彩り」というよりは「硬さ」のある度数なので、柔らかい曲調や優しい曲調ではあまり歓迎されません。どちらかというとロックやダンスミュージックで歓迎される類のシェルです。それぞれが生み出す曲想をチェックしましょう。

VImとP4の組み合わせ

VIm上のP4は、やはり音が吊り上がって浮いているような、浮遊感を曲にもたらします。どこか落ち着かない感じを表現したい時にはぴったりです。

冒頭で「Don’t let it stop」を連呼するところが、VIm上のP4になっています。この場合、一応最後の「make it to the daylight」のところで順次上行して解決するので、浮いて浮いて浮いて最後に着地するという構造になっているわけですね。いい浮遊感です。

イントロのギターリフが、ひたすらレを連打することで「解決しない偶数シェル」を貫いています。まずIとM2、その後がVImとP4です。やっぱり浮遊感、落ち着かなさがあって、それがダークな雰囲気をうまく作り出していますね。また、IVImで全くフレーズが同じであることもポイント。そのおかげで、「解決しなくても当たり前」という調子が生まれているわけです。

IImとP4の組み合わせ

IImとP4は、前回やった「IVとM2の組み合わせ」に類似するところがあります。

類似性

コードの機能も同じだし、メロディのカーネルも同じ「属音」ですから。ですので、「IVとM2」よりもさらに鋭いサウンドを求めた時に、これが候補に挙がってきます。

前回も紹介しました。サビ頭「いつまでも」の「も」がIV上のM2という話でしたね。しかしその後2周目は、バリエーションを出すためにコードをIVからIImに代えています。その結果、「あなたそのま」のところで「IImとP4」が生じています。この1周目と2周目の微妙なサウンドの差というのは、すごく大事です。単に「コードをマイナーに代えたから暗くなった」だけではなく、メロディのシェルも変化し、より硬くなっているのです。

IIImとP4の組み合わせ

これはさっきのVの話と似ています。コード自体は暗く深いドミナントなのですが、そこでP4の位置をとると、それは「ラ」の音になりますから。すでに短調のボスへ着地してしまっている形になります。

着地ずみ

ですからIIImのコードの魅力を引き出すとは言えず、大々的に使うことは稀です。垂直指向の曲よりも、水平指向の曲でよく見かける印象です。

IIImと水平的な曲


こんな感じ。「ミソラ」という力強いメロディのフレーズをとにかく前面に押し出している形ですね。IIImの切なさを無視してメロのカーネルだけが解決するので、横柄で乱暴な感じ。それだからこそ、このハードなロック調によく似合っているとも言えます。

こちらは、MONKEY MAJIKとお笑い芸人のサンドウィッチマンがコラボしたおもしろ系ファンクチューンです。
冒頭のサビ、「ウマーベラス」を二回唱えるところ、コードはIImIIImと動いていますね。その結果、IIIm上に4thシェルが形成されます。

ウマーベラス

曲想としても、ここでIIImのコード感を奇数シェルで強化してしまうと、ドミナントとしての抑揚が出すぎてしまいます。コード感を打ち消す4th Shellのおかげで、そこまで暗さやドラマを感じさせない平坦で聴きやすい音楽に仕上がっています。

II章の「垂直と水平」の時にも言いましたが、ロックやダンス系音楽においては、丁寧に毎回のコード感を引き立てるより、いくらか無視した方がそのカジュアルさがかっこよく聞こえたりするんですよね。

ここまでで分かったかと思いますが、P4 Shellは基本的に使い道が特殊で、いずれも本来のコード感を乱す働きがあります。ですから、お行儀の良い垂直的なジャンルよりも、奔放で水平的なジャンルにおいて活きるシェルですね。ですから、「意図してP4 Shellを構築する」というよりも、「カーネル重視で水平的な作曲をしていたら、偶然P4が生まれた」というパターンの方が現実的かと思います。

5. +4 Shellの用法

それでは、唯一「増4度」の関係になっていたIVのコードを見ましょう。増4度が強い濁りであることは今さら言うまでもない話。ですから基本的には解決が望まれます。伸ばしっぱなしというのは珍しいです。

増4度

解決の方向としては、当然「上行」の方がスッキリします。半音差で、中心への引力がありますからね。全音下降して解決するパターンは、自然な盛り上がりとは逆を行くことになりますね。

こちらサビ冒頭、「Dancing queen, young & sweet」のところで、IV上で増4度の上行解決をしています。最も模範的な導入法です。

こちらはアラジンでおなじみの曲ですが、「No one to Tell us no, or where to go」の部分が、1回目は下降、2回目は上昇で解決するというドラマチックな作りになっているので、違いが聞きくらべやすいです。

やっぱり上に解決した時の方が気持ちよさが強いですが、1回目は逆に「タメ」としていい味を出していますね。そもそも増4度というのは歌いづらい部類の度数なので、手グセだとなかなか出てきづらいところ。こういう変わった選択肢を持っていると、強いです。

まとめ

  • P4 Shellは、吊り上がり浮上したサウンドをもたらします。
  • やや硬い響きがあるため、ロックやダンス音楽といったジャンルで持ち込みやすいです。
  • メジャーコード上でP4を使うときは、3rdとぶつかるので、編曲やサウンドに配慮が必要です。
  • +4 Shellは強い不協和を生むので、順次進行で解決することが望ましいです。
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