フリジア旋法

メロディ編 Ⅲ章:音階の探究
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今回は「新しい音階を知る」回です。

ここでは3つめの教会旋法を紹介します。非常に独特な曲想で使いどきは限られますが、表現できる曲想の幅はさらに広がります。


さて、まだまだ続きます教会旋法シリーズ、今回扱う「フリジア旋法」は、ドリアやミクソリディアと比べると特殊。使い方、使い勝手が限られてきます…。

#1 フリジア旋法とは

メジャースケールの「ド」「ラ」以外をリーダーにすることで新しいスケールが得られる。「ドリア」はレから、「ミクソリディア」はソからはじまる音階でしたが、今回やる「フリジア」は、ミからはじまる音階です。
フリジア旋法

綴りは「Phrygia」で、言語によっては「フリギア」とも読まれます。こちらはドリア旋法と同じく、ベースは短音階に近い。ですので例のごとく、中心をA音に直してもう一度楽譜にしますね。

フリジア旋法

そうすると、こうなります。短音階の第Ⅱ音に♭がつく音階ってことですね。構造の特徴としては、リーダーとその1つ上の音との関係がなめらかな半音差になっているということです。

ミクソリディアが主音と全音差を作ることで豪快な響きを得たのと、ある意味正反対のことをしているといえますね! B音に♭という点では「Cミクソリディア旋法」と同じなのですが、こちらはモーダル・トニックがA音にある暗い旋法ですから、その内容は全く変わってきます。

まずは曲例をいくつか聴いてみてもらいます。


なんともいえない「落ち着かなさ」があると思います。我々が普段聴いている「ラとシの全音関係」が崩れて半音差になったことにより、引力の働き方が変わります。

通常

普通の音階の場合、「シ」は半音上に「ド」がいますから、そちらの方に流れていきやすいんでした。だから上昇すれば自然に落ち着くし、下降する時は力強さがある。

対してフリジア旋法の場合、下と半音差ですから、当然下へ引きつけられる力が強い

フリジア旋法の場合

そのためどことなく「ラ」の音が、より強力な中心として感じられます。ですから独特の"重さ"があって、どこか"浮かない"感じがするのです。フリジア旋法はよく「哀愁」と形容されますが、ちょっとしっくり来ません。「哀愁」というよりも、もっと重苦しく曇った響きがあります。

比較実験
今回も、普通のマイナーキー楽曲とフリジア旋法楽曲を比べてみましょうね。

こちらがフリジア旋法の場合。コードはシンプルに、{VIm}と{VIIb}を繰り返しています。やっぱりこの重苦しい感じが、フリジア旋法の基本。これをもし普通のマイナースケールにしてしまうと・・・

こんな感じ。{VIIb}は基調外和音になってしまうので避けて、コード進行は{VIm}{IV}{VIm}{IIm}としました。フリジア旋法特有の「へばりつくような重さ」はなくなり、マイナースケール本来の「浮力」が戻ってきた感じがしますね。

#2 フリジア旋法の用法

フリジア旋法は、並大抵の覚悟では使えません。フリジア旋法を正しく聴かせるには、コードをかなり制限する必要があります。

フリジア旋法で使うコード

基本的にはもう、この2コードのみで回すのが基本です。リーダーの{VIm}と、フラットがついたことで基本のコードとなった{VIIb}。これ以外の和音だと、フリジアの音階が持つ響きがきちんと活かされなくなってしまい、やりたいことがよく分からなくなってしまうのです。シに♭がついていますから、下手するとDマイナーキーやFメジャーキーに聴こえてしまいがち。

失敗例
主和音を多めに使うというのはドリア・ミクソリディアでもそうでしたが、フリジアは特にそこが大事です。これまでの旋法でも懸念事項であった「他の調に聴こえてしまう」という現象が、フリジア旋法は特に起こりやすい。

こちら、Aフリジア旋法のつもりでメロディを作りました。A音を「モーダル・トニック」に仕立てあげようと、メロディが頑張ります。 しかしコード進行はAmGmFM7で、これだと最後のFのところで、なんだかトニックに落ち着いたような雰囲気が出ちゃっています。たったこれだけの進行でアッサリと、F音がキー・センターになってしまったのです。恐れていた「モーダル・トニックの敗北」です。 もう本当に、フリジア旋法のメロディラインが作る「モーダル・トニック」が、コード進行の「キー・センター」によってかき消されるのはあっという間です。ちょっと油断したらすぐに負けます。流れやバランスに注意しながら、音を組み立てていく必要があるのです。
こちらはベースが徹底してモーダル・トニックを弾くことで、キー・センターとモーダル・トニックを一致させることに成功した例です。フリジア旋法は、これくらいやらないとダメです。

上のサンプル曲の中には色々なコードをうまく織り交ぜている曲もありますが、やはりフリジアが持つ本来の感じをきちんと聴かせたいのであれば、コードはシンプルなものに留めた方がよいでしょう。

共通コード

まあ一応、これまで同様のコード分類はしておきましょう。

共通コード
この4つが「共通コード」ですね。ただIはセブンスまで乗せると特性音の♭が付きますから、扱いづらいです。またIImとIVは中心を奪おうと虎視眈々なわけですから、やはり危険度は高い。共通コードが全然味方してくれないところに、フリジア旋法の難しさがあるわけですね。
{VIm}{I}{IIm}{VIm}

こちら、共通コードで動かしながらフリジア旋法を乗せてみた例です。キー・センターは一致させられていますが、いまいちフリジア旋法の雰囲気が活きていません。中途半端ですよね。やっぱりVIIなしには成り立たないのがフリジア旋法という印象。

特性コード

シに♭がつくわけですから、特性コードはミクソリディアンと同じになります。

特性コード

VIIが、フリジアの頼みの綱ですね。Vmの方は中心が揺らぎがちなので、そんなには使われないですが、VII以外を使ってフリジア旋法のキャラクターを出したいなら、これを使うしかありませんね。

変性コード

変性コードもミクソリディアンと同じですね。

変性コード

変性コードは使用が推奨されません。このコードも、不安定すぎてとても導入できませんね。

補助コード

ただでさえ不安定なフリジア旋法で臨時記号を使ってまで彩りを出すというのはかなりクレイジーですが、強いていうならやはりミクソリディアンと同じこの2つになるでしょう。

補助コード

一応どちらもシに♭がついているわけですから、フリジア旋法の特性音を押し出すことは出来ます。

{VIm}{VIIb}{VIm}{IIIb}{IIm}{Vm}{VIm}

こちらは補助コードを交えて複雑な進行を作ってみました。なかなかアグレッシブなやり方で、ずいぶん不安定(キー・センターを奪われ気味)ですが、まあ形にはなっています。

{VIm}{VIIb}{VIm}{VIb}{IIm}{Vm}{VIm}

こちらは先ほどの{IIIb}のところを{VIb}に変えたパターンです。こちらもまあ、似たようなところです。

紹介こそしましたが、フリジア旋法の魅力が生きるのはやっぱりVImとVIIだけを使った潔いコード進行でしょう。フリジア旋法というだけでもう十分ユニークなので、それ以上ムリをする必要はありません。

ひたすら{VIm}{VIIb}

せわしなく進行するよりも、これくらいゆったりとしたコード感で作っていくのが良いと思います。

#3 近代でのフリジア旋法の活躍

さて、少し話題を変えていきます。フリジア旋法は近年、昔とは違ったフィールドで活躍を見せていまして、実はトラップ・ダブステップ系のEDMとメチャクチャ相性がいいのです。

先述のとおりフリジア旋法には独特な"重さ"があり、それがEDM特有の強烈なシンセベースと非常によくマッチするんです。ちょっとサンプルを作ってみました(音量注意)。

EDMファンなら、こういう感じのベースラインを聴いたことがあるのでは? ちょっと旋律が聴き取りづらいと思うので、もう少し簡略化します。

楽譜

こういう音階。最後のフレーズなんかちょっとアラビアっぽい雰囲気も感じますね。 これ単体だと判別しにくいですが、比較対象として普通の短音階を持ってくると、もう少し見えてくると思います。

普通の短音階だと、なんだか日本の伝統音楽みたいな響きになってしまっていますね。先述のとおり、上昇方向への引力が強すぎるのです。フリジアの方が、大地にへばりつくような重さがあります。

コード進行を構成しにくいという理由から避けられていたフリジアですが、昨今のベースミュージックでは、コードはもうVIm一発というのが普通。ハーモニーという概念がそもそも無いに等しいですから、こうした変わった音階も取り入れやすいのです。

フリジア旋法を利用したEDM

ラとシ♭を行き来しているだけのもあるので、「旋法」と言えるか微妙ですが、まあシ♭の独特な響きを活かしているということには変わりないですからね、そして、それくらい単純でも成り立つくらい魅力的な響きをフリジアは持っているということなのです。 もちろんEDMだけでなく、同様に暗い重さが好まれるメタル等でもフリジアは活躍します。

通常の音階の中に適度にフリジア的要素をいい感じに盛り込んだ曲ですね。 そんなわけで、独特の重みと曇り感が欲しいときには、このフリジア旋法の出番です。

この節のまとめ
  • 短音階の2番目の音を半音下げたものが、フリジア旋法です。
  • トニック感が薄くなるため、調性を保つのが難しく、使いどころが限られます。使う場合は思いきってシンプルなコード進行で使うのがよいでしょう。
  • 導音と主音の半音関係が失われ、第VII音の下方向への傾性が強まり、重たい雰囲気が生まれます。
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