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残りの2つ
さてさて話を戻しまして、ここまででドリア・ミクソリディア・フリジアの3つを紹介しました。これで残すところは「リディア旋法」「ロクリア旋法」なのですが・・・、どちらも響きがかなり特殊です。ポピュラー音楽の世界での活用法が、他3つと比べてだいぶ限られてくるので、この記事内でまとめて紹介します。
1. ロクリア旋法
ロクリア旋法は、マイナー系の旋法。フリジアンと似た重苦しさがあるので、ちょっと並べて比較します。
ご覧のとおり、マイナースケールが一段階暗くなるとフリジアン、そこからさらにもうひとつ暗くなるとロクリア旋法ということになります。「完全5度」が「減5度」に変わりました。そのためロクリア旋法は、モーダル・トニックから「お団子がさね」で和音を作ると、マイナーフラットファイブのコードになってしまいます。
だから他の旋法と違って、「とにかく主和音を鳴らしていればそこがキー・トニックになる!」という“黄金の方程式”が成り立ちません。主和音を鳴らしていても、調性感がしっかりと確立されません。この点において、ロクリア旋法は圧倒的に特異で難しい存在なのです。
そのためロクリア旋法で一曲を成立させるには、コード進行というクラシカルなシステムを使用せず、フレーズの重ね合いや反復で曲を形作っていくことになるでしょう。
このようにひたすらモーダル・トニックを中心にしたフレーズを重ねていけば、狙いどおりの位置をリスナーに中心だと感じさせることができます。フリジアンよりもさらに重苦しい、宗教めいたようなサウンドが生まれます。少し日本古来の音階に似たところがあって、日本人にとってはやや親しみやすいかもしれません。
旋律を作る際のポイントは、マイナースケールと共通していてフレーズに絡めやすい、3・4・7番目の音を上手く使ってあげることです。
この3つの音を主和音とうまく絡めれば、モーダル・トニックがトーナル・センターであると、リスナーに感じさせることができます。
こちらはEDMでのロクリア旋法の使用例。難しい減5度の音を、「ブルーノート」的なワルい感じ、ダークな感じにうまく繋げていますね。
2. リディア旋法
リディアンスケールは、メジャー系の明るい音階です。まずは、メジャースケールとの違いを決定づける「特性音」の確認をしましょう。
メジャースケールの第iv音をシャープさせたものががリディアンスケールとなります。これは強傾性音の消失という点ではドリアンスケールと似ています。クラシックさがなくなり、ちょっと浮ついた感じが生まれる。
リディア旋法でトーナル・センターを狙い通りに確立するのはなかなか難しく、フリジアが「VImとVIIをひたすら回す」のが基本戦略であったように、リディアでは「IとIIをひたすら回す」のが基本戦略となります。
ただ、それを徹底してもまだIVVっぽさが現れてしまったりするほどです。
私たちがIVVを繰り返すような音楽にすっかり慣れ親しんでしまっているせいですね。
こういうポピュラー音楽に慣れきった私たちの耳にリディアをリディアらしく聴かせるには、メロディでだいぶサポートして上げないといけません。
ですから「一曲通してリディア旋法」というのは歌モノでは珍しく、あるとすればジャズ・フュージョン・プログレッシブロックといった「ポピュラー音楽の中では技巧派寄り」のジャンルの方で見られるかなという印象です。少なくとも、これまで紹介したドリア・ミクソリディア・フリジアとは大きな開きがあります。
こちらはAメロをしっかりリディア旋法で走りきっている貴重なケースです。コードはIIIの繰り返しで、コードもメロディも主音をガッチリ強調することで、どうにかセンターの座を死守しています。
部分的リディアンスケール
ただ、一時的・部分的にリディアンスケールを使うことなら十分に可能で、特にジャズでそのような手法は用いられますので、それだけは紹介しておこうと思います。
例えばジャズで定番のIImVIの進行で、まずは普通にCメジャースケールのソロを弾きます。
強傾性音であるファをたくさん引いたせいで、不安定ですね。やっぱりファの傾性というのは、たまにジャマな時がある。しかしこの曲の場合、「四抜き」とか「四七抜き」にするのもパワフルすぎて違うかな…というところ。こういう時にリディアが活躍します。
コードがIの時だけファをファ♯にして、リディアンスケールに交換して演奏すると…
シャープされたことによって傾性を失い、フワフワとファンタジックな雰囲気が醸し出されました。これがリディアンの持ち味であり魅力です。こうやってトゥー・ファイヴ・ワンのような明快なコード進行上で部分的に使ってあげるだけならば、トーナル・センターが崩れることもありません。
こうやってIΔ7上で部分的にという条件下であれば、リディアンスケールはとてもカジュアルに使うことができます。しかしやっぱり歌曲のメロとかに使うには明らかに浮き足立っていて、使い方の難しい旋法となります。
さて、これで教会旋法はひととおり説明し終えました。ただ、ドリア・ミクソリディア・フリジアには、まだ紹介できていない別の使い方がそれぞれあります。ですからここからは、ここ数回の総括ということで3つのモードの特徴を復習しながら、同時にその「残りの部分」を紹介いたします。