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今回は「新しい言葉を知る」回です。
前回に引き続き、コードとメロディの関連性について論じます。作曲の根本を成すコンセプトですから、ジャンルを問わず最重要です。
前回の内容では、メロディの音がコード基準で見たときに奇数度なのか偶数度なのかが重要という話でした。
2・4・6度は、本質的に濁りを生む度数です。7度も濁りを生みますが、この3つと比べると許容度の高い濁りで、ジャズ系理論では7度までを基本の音に含めます。だからコードに対して1・3・5・7度の位置にいる音はいくら伸ばしたって大丈夫なのですが、2・4・6度はその濁りがもつ効果を理解して使いこなすことが、“垂直的”な作曲では重要になります。
1. 傾性への影響
I章の間からずっと、「傾性は背景のコードによっても変化する」という話をしてきました。それをそろそろ明らかにしていくときです。メロディとコードが重なるとき、メロディがコードの基本的な構成音である1・3・5・7度の音になっていれば、それはもちろん綺麗にコードと馴染みます。逆にそうでない度数の場合は濁りが生まれ、不安定な状態となり、隣接する特定の音に解決することでより安定が得られる状況になります。すなわち、傾性が高まるということですね。
本来は傾性が強い音であっても、それがコードにとって奇数度になっていれば、その間は解決への欲求は低まる。逆に、本来は傾性の小さい音でも、それが偶数度になっていると傾性が高まります。その“高まり具合”は、また2・4・6度それぞれで違いますし、背景のコードがどのコードなのかによっても変わります。
奇数と偶数
ですからこうしてみると、コードの中での度数が「奇数」か「偶数」かでクッキリとポジションが分かれるということになりますね。すごく簡単にいえば、「奇数」の方がメロディづくりの骨、基本になって、「偶数」の方はちょっと応用的ということになります。
2つの傾性
また見方を変えると、これは傾性の源となるものが2つ存在しているということでもあるわけです。英米系のクラシック理論では、実際に「旋律的傾性(Melodic Tendency)」と「和声的傾性(Harmonic Tendency)」という2種類の語でもって区別するものもあります1。
ですからそのように、2つの基軸があると考えてもいいでしょう。自由派でも、そのような区別をした方が便利な場合は、この用語を使っていきたいと思います。
コード内ディグリー
そんなわけで、コードのルートに対してメロディが何度の場所にいるか? というのは、メロディを分析したり構築したりにあたってとても重要なこと。
しかしながら、この「メロディの、コードのルートに対する位置」に相当する用語が、一般的な音楽理論には存在していません。
調の中での相対的な位置であれば、第Ⅰ音、第Ⅱ音…という「スケール・ディグリー」がありました。そこで、それに倣う形で「コードのルートに対するメロディの位置」のことを自由派では「コード内ディグリーIn-Chord Degree」と呼ぶことにします。短くしたい時は、英語のイニシャルをとって「ICD」と呼びます。
こういうことです。オクターブの上下は考慮しませんので、ICDは最大で「7」まで。その上はまたICD1に戻ります。
- コード内ディグリー(ICD)
コードのルートに対するメロディの相対位置。度数で表す
スケール・ディグリーは水平的な作曲をするにあたって重要なファクターであり、コード内ディグリーは垂直的な作曲をするにあたって重要なファクターとなる。この2つをきっちりと分けて考えることで、メロディの構造はとても分かりやすくなるのです。
2. 水平と垂直の二重構造
ですからこの段階で、ちょっと大事なコンセプトを説明せねばなりません。メロディの位置情報には、調の中心音からの距離である「スケール・ディグリー」と、コードのルートからの距離である「コード内ディグリー」の2つがあって、メロディがもつ最終的な「安定感」や「解決感」といった性質は、その2つのコンビネーションによって決まるということです。
この考え方は、コードだけを論じる「コード理論書」にはおそらく載っていないでしょう。でも、メロディメイクまで包括的に扱う最新の理論書では、実際にそこまで言及がなされています。
You, as a songwriter, must be constantly cognizant of these two relationships: (1) melody’s primary relationship to the tonal center, and (2) melody’s secondary relationship to the chords. These two relationships cause many of the complexities and subtleties that we, as listeners, find delectable.
あなたはソングライターとして、次に挙げる2つの関係性について常に意識しなければならない : (1)メロディのトーナルセンターに対する第一の関係、そして(2)メロディのコードに対する第二の関係。この2つの関係性が数々の複雑性や機微を生み出し、それこそがリスナーを楽しませるものなのだ。
Perricone, Jack. Great Songwriting Techniques (p.150). Oxford University Press. Kindle 版.
実際に「2つの関係性」というのがどんな風に現れるのか、実際のコードとメロディで見てみましょう。
アプローチ・ノート
そうすると、I章では「水平」の目線で「シはドへ、ファはミへ解決させるのが最も基本的な形」と説明したわけですが、「垂直」目線で考えた場合には一概にそうとも言えないわけですね。例えばコードがVの時は、シの方がコードの一員であって、3rdというコードにとって極めて重要な役割を担う主要メンバーですから、コードがVである限りはシは全く解決を必要としません。むしろドの方が、コードの響きからすると邪魔者です。
こんな風に、コードという舞台に立つメロディという役者…のようなイメージで、より精密に状況を分析します。このような場合、普段とは立場が逆転して、ド→シと進めば音響的にスッキリと「解決」することになります。
さほど長く伸ばさずに隣接するコードトーンへと解決させた場合には、その音をアプローチ・ノートApproach Noteと呼びます。
Approachは「接近・接触・到達しようとする」という意味の英単語。コードトーンへと向かっていく音なので、アプローチ・ノートと名付けられました。垂直性を大事にして、あまりサウンドを濁らせたくない場面では、偶数度の音はアプローチ・ノートとして用いるのが安心だと言えます。
二重構造
そういうわけで、メロディというのは「水平」「垂直」両方の目線を合算して分析する必要がある。例えば「Cメジャーコード上でのファ→ミ」なら、水平で見ても垂直で見ても強い「解決」をしています。
だからこの動きは、「とびっきりの解決感」があるわけです。コードの機能自体もトニックですしね。逆に、水平的な解決と垂直的な解決が衝突するパターンだってあり得ます。例えば「Gメジャーコード上でのシ→ド」とか。
I章でやったような目線で言えば、導音から主音への流れは定番の動き。でも、垂直的な目線で見ると、「濁りの4度」に進むことになるので、「メロディラインは解決したが響きは濁っている」という状態になります。もちろんそれがダメということではないですよ。むしろ、このコンビネーションを考えることで、さらに微細な解決感の調整が出来ると思ってもらった方が、実践的ですね。
スケール・ディグリーと、コード内ディグリーがもたらす、二重の位置情報。それによって生まれる総合的なサウンドの質感。これは、メロディが生む曲想に関する、かなり核心的な部分です。この「二重の位置情報」が生む音響のパターンがどれくらい身体に染み付いているかというのが、メロディ作りのセンスへと直結していきます。「カーネル」だけで突き進んできたⅠ章と比べると、やはりこのⅡ章は格段に上級レベルです。
II章ではI章とは対照的に、この「垂直」目線を中心にしてメロディを理論化していきます。
まとめ
- 「コードのルートに対するメロディの位置」のことを、自由派では「コード内ディグリー(ICD)」と呼びます。
- 傾性は、コード内ディグリーが何であるかによってさらに影響され、その重なりが最終的な傾性を決定します。
- ICDが奇数なのか偶数なのかでまず大きく性質が分かれるということを覚えておくとよいです。