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さて、前回までで基本的なメロディのポイントは分かってきました。前回は「四七抜き音階」を紹介しましたが、もう少し色んな音階のバリエーションを紹介したいと思います。
1. 四抜き音階
まずは前に紹介した「四七抜き音階」の応用から。
「四七抜き」は、半音差の段差を全く使わないことで曲の情緒、柔らかさをなくし、力強い曲想を生み出す音階でした。日本人にとっては、和風を感じさせる親しみやすい音階のひとつでもあります。しかし、半音関係を完全に排除してしまうというのは、メロディのカラーがかなり限定されてしまいます。半音進行をいつ・どこに組み込むかはセンスの見せどころでもあるわけで、全く使わないのはもったいない。そこで、「ファ」は使わないけど、「シ」は適度に使おうというパターンも存在するのです。
四七抜きに比べると知名度が低く、これといった名称もないのですが、名付けるなら「四抜き音階」でしょう。
四七抜きは、半音関係が全くなくなるため表情が一辺倒になってしまってそこからの個性や曲想を出しにくいという決定的な弱みがありました。しかしそこで「シ」の音を解禁すれば、要所になめらかなメロディを作ることが可能になります。どこにどんな形で「シ」を入れるかで、作曲者が個性を出すことができるようになったのです。
実際の曲例
四抜き音階を活かした名曲はたくさんあります。
枚挙にいとまがないとはこのこと。みんな面白いくらいに「ファ」の音を避けてメロディが進んでいきます。基本的には四七抜きソックリですが、ところどころに「シ」を入れることで曲想に彩りを加えています。
なおこれらはメロディの使用音だけで見ればみな同一の「四抜き」ですが、節回しなどには違いがあります。大きく分ければ「メジャースケールからファが抜けた」ようなタイプと「四七抜きにシが加わった」ようなタイプがあり、シが登場する頻度やシ→ドという西洋的解決をする頻度、さらにはシが不在の間の残りの五音が作るメロディなどによって西洋っぽさ・東洋っぽさのブレンド具合が変わるようなイメージです。ここは本当に奥深いところで、例えば和風を感じるようなメロディがあったとしたら、単に全部の音を集計して音階として記憶するのではなく、より具体的にどのフレーズの時にそれを強く感じるかまで注目すると、得られる情報の質がかなり高いものになります。
四七抜き音階と同じくらいキャッチーなメロディを作るのに向いていて、かつ四七抜き音階よりも表現の幅が広い。「四抜き」は、本当にハイブリッドという言葉が似合う音階です。
戦略的な傾性音の使用
その便利さから使い出すとついクセになってしまいがちな四七抜き・四抜き音階ですが、ファが持つ情緒というのもやはり大切です。2010年代後半以降は、再び7音を全て用いたスタンダードへ回帰してきている風潮を感じます。
ただその内容は90年代以前とは少し違っていて、四七抜き・四抜き時代に発掘された「ミソラ」「レミソミ」「ドシソラ」のような名フレーズを“資産”として活用しつつ、「ファミ」「ミファソ」「ミファレ」のようなファの基本フレーズを対比的に少しだけ混ぜ込むことで、メロディの“押しの強弱”をコントロールしているかのようなメロディがヒット曲に目立ちます。上のプレビュー音源たちの範囲で言うと…
曲 | ファを差している箇所 |
---|---|
アイドル | アイドル |
晴る | 遠くまだ |
紅蓮華 | 美しい / 現れるから |
Lemon | 忘れて/ 私の(光) |
打上花火 | 静かに / このままで |
TIME | 抱きしめて 言いたかった / 戻す |
「アイドル」は本当に分かりやすく、サビでは最高音で決めるところにだけファが登場します。曲全体で見ても、ファが他に登場するのはサビ直前だけです。また「晴る」や「紅蓮華」のようなアップテンポで激しめの曲では、バックの演奏の熱量に対して全編ファ抜きだと暑苦しくなってしまうところを、“差し水”のように中盤でファを投入することで緩急を設けているような感じがしますね。
四六抜き
定番として知られているのは「四七抜き」「四抜き」ですが、他に例えば「四六抜き」のようなフォーメーションも考えられます。
ラというと、ドと「中心音」の権利を争う立場にあるマイナーキーの象徴たる音。コレが抜けることでまず「ドとラでの“中心”の揺れ動き」がなくなり、キッパリとした情感が生まれます。
「四七抜き」同様に強さやパワフルさを感じられる音階ですが、「四七抜き」が東洋やスコットランド・アイルランド系の民族音楽と結びついているのに対して「四六抜き」にはそういうものがないので、曲の印象が限定されることがないのは強みでもあります。
乃木坂46の「帰り道は遠回りしたくなる」ではCメロ以外のパートで、カンザキイオリの「命に嫌われている。」では全編を通して、ファ・ラが使われない「四六抜き」の音階でメロディが作られています。
前者はまさに「力強く前向きな意志」みたいなテーマ性を四六抜きが支えています。これは卒業ソングですが、もしラの音が入っていたらもう少し湿っぽい感じになっていたでしょう。
後者は伴奏が暗くてラの音もよく使っているのにメロディはラを歌わないということで、伴奏と歌とで乖離しているのが特徴です。これもやはり、歌がラを使ってしまったらいよいよ鬱々としそうな歌詞やテーマであるところを、「四六抜き」がギリギリのところで堰き止めて、「強さ」を感じさせる方向にうまく曲想をまとめあげている感じがします。
2. 傾性音を持つ五音音階
ではでは、正反対のパターンはどうでしょうか? つまり、半音進行をさらに強調するとどうなるのか。
二六抜き(琉球音階)
ポピュラー音楽では聴きませんが、民族音楽の中には「レ」と「ラ」を抜くことで半音進行を格段に多くした五音階もあります。
レとラは両隣が全音差ですから、これを抜いてしまえば必然、半音進行の登場率が急上昇しますね。このような音階は、「二六抜き(にろぬき)音階」と呼ばれたりします。
沖縄の音楽
沖縄の民謡はかなりラ・レが抜ける傾向にあって、この二六抜きは「琉球音階」とも呼ばれます。
「ソシソ」や「ソファミファソ」のような節回しが目立ちます。また沖縄ではラだけを抜いた六音音階も伝統的に存在していて、沖縄の伝統音楽の中には「ラ抜き」と「レ・ラ抜き」が混在しているようです。
インドネシアの音楽
二六抜きの音階を使う音楽ジャンルのひとつにインドネシアのガムランがあります。こちらは半音進行の多さが神秘的な雰囲気を演出していますね。そしてこれはガムランに限らず各地の民族音楽に見られることですが、音楽の中心音がイマイチ西洋音楽ほどハッキリしません。どちらかというと、箇所によってはドではなくミを中心としているようにも見受けられます。同じ音階なのに沖縄音楽とずいぶん雰囲気が違って感じられるのは、そうした中心性の違いもあるかもしれません。
3. 12音より外の世界
さて、このように音階のバリエーションはかなりたくさんあります。西洋の音楽理論は基本的に長音階・短音階が中心になりますから、他の音階というと民族的な何かを想起させるようなものが多いです。特にアラブの音楽なんかは「半音の半音」なんて音程も出てきて、かなり多種の音階を使いこなして曲想を表現しています。
こうした雰囲気の音階も聴き覚えがあるかと思います。アラブでは「マカーム」と呼ばれる多種多様な音階があり、それを使い分けて曲想を表現するそうです。普通の長音階や短音階では、こういう雰囲気は出せませんね。
EDMとマカーム
昨今のEDMでは、このマカームとの融合がよくなされています。不気味な響きが生み出せるので、特にトラップ系との相性がバツグン。ピッチベンドを多用するEDMにおいては、「半音の半音」のようなアイデアも受け入れやすいのかもしれません。
アラブに限らずたいていの民族音楽にはその民族の音階があり、また理論として体系立てられているものもあります。そうした民族音楽の個別理論は自由派が扱う範囲外になってしまうので、普通と違った曲調を作りたいときにはそういったところを別個で調べて作ってみると良いでしょう。
まとめ
- 「四抜き」は、ハイブリッドな存在で、キャッチーなメロディを作るのに最適です。
- 逆に「レ・ラ」を抜いて半音関係を増やした音階もあり、民族音楽で使用されています。
- 音階は無限にあります。普通と違った曲想を作りたい時には、違った音階を試してみるといいでしょう。