目次
1. メロディとは
さてこの記事ではまず、音楽のうちどこまでが「メロディ」の範囲に含まれるのかという点から改めて確認していきます。
旋律Melody/メロディとは、私たちが音どうしの横の連なりを一つのまとまりとして捉える概念です。
こちらはおなじみ「かえるのうた」の冒頭を、ピアノだけで簡素に演奏したものです。このような場合に理論として、上段の「ドレミファミレド」という横のラインを「メロディ」、下段の「ドミソ」の連打をいわゆる「伴奏」として、切り分けて扱います。
和音がどう繋がっていくかを論じるのは「コード理論」の領域であり、メロディはあくまでも単音の繋がりを論じます。
ベースライン
上では「メロディ or 伴奏」というザックリな二分をしましたが、準備編では曲の構造をドラム・低音部(ベース)・ウワモノ・メロディという四層の区分で紹介しましたね。
「伴奏」というのをより細かく分ければ、ドラム・ベース・ウワモノとなる。
このうち「ベース」も横の連なりを作りますけども、これはもっぱら「ベースライン」と呼ばれ、「メロディライン」とはまた区別されます。このメロディ編では、ベースラインの動きについてはほとんど扱いません。
カウンターメロディ
「ベース」が特別扱いである一方で、「ウワモノ」のパートが、伴奏でありながらもメロディを奏でるということは当然ありえます。
こちらは冒頭のサビで、中央から聴こえてくるボーカルのメロディとは別に、左右ではストリングスのフレーズが演奏されています。何ならメインメロディよりも激しく動いていますよね。
このストリングスは「伴奏」であり、さっきの四層でいうと「ウワモノ」に入りますが、しかし同時に一つのメロディでもあります。このような補助的なメロディはカウンターメロディCounter-melodyなどと呼ばれます。
カウンターメロディは音楽を豪華にしてくれますが、メロディを邪魔するくらい目立ってしまうと逆効果なので、音色・ボリューム・空間配置などにはバランス感覚が必要です。
コードから生まれるメロディ
では先ほどのかえるのうたの伴奏のように、ジャーンとコードを弾いていくだけではメロディが発生しないのかというとそうとも言えず、強く聴こえてくる音が自然と繋がってメロディとして認知されてきます。
こちらは先ほどの「かえるのうた」のようなメロディ/伴奏の区別がなく、ただコードがつらつらと流れていくだけですが、各所の一番高い音を繋ぐと「ドレミファミレド」となっていて、気づくとそれがメロディのように聴こえてくるはずです。
コードの中で一番高い音のことをトップノートTop Noteといいます。トップノートの繋がりは十分メロディとして認識されうるので、つまるところ、「ウワモノ」はみんなメロディとなり得るということですね。
メロディと伴奏の境目
ですから最終的には、「どこからがメロディなのか」という明確な境界線はありません。何にせよ、メロディと認識されるものは全てメロディ理論の扱う範疇です。つまり、メロディ理論は単にメインメロディ作りに役立つだけでなく、伴奏隊を編曲するうえで活きる知識も多く含まれることになりますね。
2. メロディ編の概要
そもそも世間一般の音楽理論コンテンツにはメロディに関する理論内容が少なかったり、初めから「コード理論」とだけ銘打っているものも多いですから、「メロディ理論」といってもその中身の想像がつきにくいかもしれません。そこで、V章というボリュームのある本編がどう進んでいくのかの概要を先に説明しておきたいと思います。
I章 : 語彙と概念の修得
序論でも述べたとおり、音楽理論とは音のデータ化(言語化)であり、目に見えない音楽を情報として扱いやすくする手段です。I章ではまず、メロディの動きを言語化していきます。
例えばこの「かえるのうた」のメロディは「ゆったりと上がって下がる」ラインですが、この動きひとつひとつにも名前をつけていきます。そうすることで、名曲と呼ばれる楽曲やあなたの好きな曲のメロディが持っている特徴を、きちんと言葉にできるようにします。
それから、普段さほど意識しないようなメロディ一音一音が持つ音響的効果というものに詳しく触れます。上のメロディがドから始まりドで終わることの意味、中盤にてファで折り返してミへと進む意味。それがより言語的に理解できるようになります。
II章/IV章 : コードとメロディの関係性
II章はメロディ理論の中核と言える部分で、コードとメロディが織りなす関係性について論じます。
「かえるのうた」の冒頭は、「ドミソ」の和音に対して「ド」の音を乗せる所から始まります。「ドミソ」のコードに対して「ド」をあてる。じゃあレだったら、ミだったらサウンドはどう変わるのか? この組み合わせ論を深めるのがII章で、これを知っておくだけでも楽曲分析の際に見えてくる情報量がケタ違いに増えます。
またIV章も同様に、この内容をさらに詳細に突き詰めることになります。
III章 : 音階の知識を広げる
III章では趣向を変えて、さまざまな音階に詳しくなります。準備編でもあったように、音階しだいでかなり抜本的に異なる雰囲気の音楽を作ることができます。
- 上品なクラシック調の音階
- 異国の民族風の音階
- ブルース/ジャズ風の音階
- 奇怪な雰囲気の音階
どれもこれも、メジャースケール/マイナースケールだけでは作り出せない世界観です。音階を知ることで表現の幅を広げるという趣旨の章になります。
V章 : コード付けの作業を理論化する
V章はかなり専門性が高く、「メロディが先にあって、そこにコードをつける」という作業を徹底的に理論化します。
こちらはV章にて登場する「メロディがドの時に、どんなコードが付けられるか挙げてみよう」という図。全てを理論で掌握したいという人向けの高度な内容になります。
コード編と比べると、メロディ編のI~II章は「内容がカンタンなわりには実践で役立つ」というお得な側面が強いです。一方でIII章以降はなかなか内容も難しいものが登場し、ややマニアックなレベルへ入っていきます。
3. メロディ理論と感性
メロディまでを理論化するというと、ちょっと窮屈なイメージを抱くかもしれません。確かにクラシック系理論では「こう来たらこう進め」とか、ジャズ系理論では「このコードならこの音では伸ばすな」とかいう“ルール”が書かれていたりしますが、そのようなメソッドを自由派はとりません。あくまでも感性やセンスを補佐するための“ツール”として理論を活用します。
例えばスガシカオさんや桜井和寿さんといった一流のメロディメイカーでも、メロディの分析に音楽理論を利用していると語っています。
コードが展開していく中で、ルートの音に対して何度の音が好きか、何度の音を気持ちよく聴かせるかという自分の好みがあるんですね。それがメロディを決定するんです。例えば、メジャーの6度の音が好きだったら、無意識のうちに6度の音が一番気持ちよく聞こえるメロディを組むんですよ。それがメロディの癖になっていく。例えば何度の音でロングトーンを使うか、とか。それもいつも同じだったりする。この話は桜井(和寿)くんに聞いたんだよね。彼はものすごく音楽的にモノを考える人だから。
スガシカオ. 愛と幻想のレスポール (Kindle の位置No.203-209)
ちょっと内容が難しいですけども、「メジャー」とか「6度」とか、準備編で学んだ言葉が使われているのが分かるかと思います。スガさんの場合、自分のメロディのクセに自覚的になり、マンネリから意識的に脱却するために理論を活用しているようです。
そんな風に自分のクセを外しにいくのにも理論は使えるし、逆に自分のクセを個性として貫き通すのに理論を活用するというやり方も考えられますね。
習得ではなく体得
メロディ理論は、メロディの構造を高さ・長さ・位置関係・繋がりといった個々の要素に分解することで見通しをよくします。これは例えばバスケのシュートのフォームを、手のひら・手首・ヒジ・ヒザと個別に解説していく感じに似ています。一個一個の動きはすごくシンプルで簡単に感じますが、しかしいざメロディを作るとなると、現実はそれら全ての合算であり、全てが連動して動く複雑な世界です。そのため「ポイントは頭で分かっているけど、いざ作るとなると理論的に考えられない。全部を気にしていられない」という事態は十分起こりえます。
でもそれで良くて、メロディを分析する「ものさし」が頭の中に備わっていること自体に価値があります。ただそれだけで、音楽を聴いたり分析したりするときの感度が変わり、得る情報の密度が変わるからです。そうして創作と分析を続けているうちに、メロディに対する感性が研ぎ澄まされていきます。
ですのでメロディ理論に関しては、内容を「習得」するのはゴールではなくスタートという感じで、そこからじっくり時間をかけて「体得」するようなイメージになります。スポーツの「合理的な動き」と「センスや発想」が表裏一体で互いを高め合う関係であるのと同じように、メロディも理論と感性は表裏一体です。理論を体得することが、センスを磨くことに直結するのです。
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