和声 : 標準連結と原則

コード編 Ⅶ章:古典の世界

#1 二声の動き

配置にこだわるのが和声の美学なので、二声の動き方にまでも名前がついています。

進行種
  • 並行Parallel : 二声が同じ方向へ動く (上&上 もしくは 下&下)
  • 斜行Oblique : 二声のうち片方は同じ音のまま、もう片方だけが動く
  • 反行Contrary : 二声がお互い逆方向へ動く (上&下 もしくは 下&上)

また、上譜の斜行の片方のように、「同じ音のまま動かない」ことを「保留」といいます。

これは度数には関係なく、単に動いている方向によって名前が決まります。この中だと「反行」がもっとも響きとして豊かであり、逆に「並行」は、豊かさの点でいえば乏しいとされています。

アンサンブルへの哲学

動きに優劣なんかあるかよ!って思いますか? この「反行の美しさ」については大事なところなので、もう少し詳しく述べます。

こちらはトップとベースの関係を反行のみにして作った音源。ピアノロールで見ると、こんな形になっています。

反行のみ

広がる時には一斉に広がり、閉じる時には一斉に閉じるので、このようにカツオのようなフォルムになります。古典派時代の人たちは、これを聴いてこう感じました。

  • 上昇するラインと下降するラインで2つのストーリーがあって、それが美しく重なりあうのが非常に芸術的である(音楽の情報量が多い)
  • 上下の音幅がぐわっと広がったり閉じたりするため、ダイナミクス(強弱の幅)に優れている

それでは逆に、並行だけを使ったパターンも聴いてみましょう。ソプラノのメロディは同じで、他を変えて作り直します。

並行のみ

上がるときは一斉に上がり、下がるときは一斉に下がるので、波に揺られるコンブのようなフォルムになります。すると先ほどとは逆で、次のようなことが言えます。

  • 全員がソプラノに追従する形になり、ストーリーの多彩さに乏しい
  • 上下の音幅がさほど変わらないため、ダイナミクスが乏しい

ちょっと一方的な物言いな気もしますが、少なくとも古典派の時代では「カツオ・スタイル」の方がトレンドだったという話です。実際においては、両者の違いを理解して使いこなすことが重要です。

こちらは「反行」の持つドラマ性や美しさを感じられるラフマニノフの名作です。フルで聴いてください。

冒頭のヴァイオリンが、いわばメインテーマとなるメロディラインです。高いところから始まり、少しずつ降りていく憂鬱なメロディですよね。

そのあと中間部へ入り、1:47から男声のコーラスが加わりますが、ここはヴァイオリンにぴったり寄り添って「並行」で動きます。ここはまだメロディの引き立て役なので、あえて独立して動くことはせず、後に展開のカードを残している感じです。

そして2:56から再びメインメロディに帰って来たとき、今度メロディを担当するのは男性の歌唱です。そこでは少しずつ下がっていくラインのヴォーカルに対し、ヴァイオリンはドンドン上がっていくラインを奏でます。その結果、かなり大規模な「反行」のラインが形成されています。

その後も、ヴァイオリンがピークを迎えて下行するところでちょうどヴォーカルは跳躍上行するので、そこも「反行」です。そして最後、ヴァイオリンは下行して主音へ、ヴォーカルは上行して主音へ。ユニゾンへ収束して終わります。完璧ですね。

沈んでいく感情と昂ぶる感情が混在する状態ですから、これを2人の登場人物のすれ違いと捉えるもよし、1人の人物が抱えるアンビバレンスと捉えるもよし、いずれにせよ、すごくドラマチックですよね。
「音楽の情報量」とか「ストーリーの多彩さ」といった言葉の意味が、なんとなく分かったでしょうか?

中盤でコーラスが並行を活用していたように、決して「並行=悪」とか「並行=幼稚」ということでは全くありません。ただ「並行」の動きについては、状況によって「禁則」とされるモノがいくつかあるので、気をつけながら使っていくことになります。それについては後々紹介しますね。

ひとつ覚えておいて欲しいのは、和声というのはこうやって音のラインを極めて重要視しているということ。ピアノロールを見て魚みたいだとか海藻みたいだとか、思う機会はあまり無いと思うのですが、こういった「横のライン」や「上下の幅」について真剣に考えるのが和声なんですね。

#2 標準連結

そんなわけで、いかに音を美しく繋いでいくかが、和声学の中心部分です。

まずは禁則よりも先に、和音同士をどう連結するのかについての「原則」から見ていきましょう。原則に従って音を繋げれば、多少禁則があっても、それなりにサマになりますよ。

先に断っておくと、これから紹介するのはあくまでも「標準連結」と呼ばれる、最も典型的で基本的な音の繋ぎ方です。それは書籍にも、そのように注釈されていて、決してそれしか繋ぎ方が無いということではありません

つまり、まずは実践しやすい分かりやすい形で練習することで、ひとまず良い動きや響きを目と手と耳とで体得する。それが目的です。和声学の書籍というのは、基本的にどれも「スキルアップのための教科書」です。その技術と経験を応用することで、自分の曲にとって理想的な響きを追究できるようになる。そういう成長の過程を想定しているわけです。

#3 最短経路の原則

まず、和音の理想的な繋げ方の方法論をギュッとまとめてしまえば、「なるべく近くになめらかに」という言葉がいちばん端的でわかりやすいでしょう。
例えばIIVのように、連結するコードに共通音がある場合、それは同じ声部が引き続き担当します。そして残りの音は、なるべく配分(密集/開離)をそのままに保つよう、すぐ近くの音へ移動します。

近くへ

こんな風に、優先すべき原則がひとつあるだけで、自動的に全ての動きが決定されることが分かります。和声の哲学に基づけば、理想的な繋ぎ方というのはおおよそ絞られていて、実は選択肢はそう多くないのです。

一応、ダメな例も用意しましょうか。

へたっぴ

左は、ソプラノがF音に上がってしまって、つられてアルトはC音へ。この、「さっきまでソプラノが歌っていた音を今度はアルトが歌う」というのが、いびつなわけですね。
そして、さらにつられてテナーがA音へ上がると、確かに標準配置にはなりましたが、全員揃って四度上行してますから、これは例の「コンブ・スタイル」です。響きに乏しくって良くないのです。

右は、なんといってもテナーが動きすぎ。そして、さっきまで密集していたのがいきなり開離というのは、音の響きが変わりすぎるので原則的には行いません

これはまだ禁則ではない

ただし、これらは「原則に従っていない」だけで、後々解説する「禁則」に触れているわけではありません。ですからこういった動きは、「メロディラインの関係で、どうしてもコレで行きたい」というような事情があれば、使う可能性もあります。

名前をつける

この原則について、「和声」内では特に名前がつけられておらず、洋書をいくつかあたってみてもやっぱり名前がありません。
人間やっぱり名前がないとその存在そのものを忘れてしまいますよね。そこで、シェーンベルクの「Theory of Harmony」を引っ張り出してくると、そこにはブルックナーがコレを“law of the shortest way”と呼んだとの記述があります。このサイトではこれを採用し、この法則を最短経路の法則と呼ぶことにします。

#4 外声反行の原則

もしIVVのように共通音がない場合には、外声が反行するように進むのが基本原則となります。これはもちろん、「反行が最も美しい」という基本哲学から生まれた原則です。

反行する

バスがFからGへ上昇するので、ソプラノは逆に下降するのが良い。そして残ったアルト・テナーも「最短経路の原則」に従って動かします。これも、悪い例を紹介しておきますね。

へたっぴ

左は、反行の原則に従わずに、なんとなーくソプラノを上行させてしまった失敗例。そのまま残りを「最短経路の原則」に則って繋げた結果、「全員が2度上行」という結果になっています。

右は、なんだかありそうな間違い。反行の原則には従っているのですが、テナーが妙な動きをした結果ソプラノとテナーの両方がB音を弾いてしまっています。「重複はなるだけ避ける、万が一重複するのであれば、Rootか5thで」という話だったので、3rdが重複・・・しかもよりによって「導音」が重複している今回はかなりのバッドケースです。
このような場合、本来テナーは2度下降し、バスと同じG音に行くべきです。テナーとバスが同じ音で被ってしまうのは、決して悪いことではありません。

「こんなに動きを指定されてしまったら、作りたい曲が書けない!」と思うでしょうか?
安心してください。先述のとおり、コレは一番和声の哲学がわかりやすい「標準形」にすぎません。ここで美しい響きについて習熟したあとは、その技術と自分の表現したいものをうまく噛み合わせていくことができるようになります。

先ずはこの2原則から

そんなわけで、まず最初にこの原則を頭に入れておいて頂きたいのです。これくらいなら、まあ自然にやれそうな気がしませんか? この2つを意識するだけでも、音のラインはずいぶん美しくなりますから、ぜひ実践してみてください。

しかしながら、やっぱりややこしくなるのはここからです。ここに様々な「禁則」や「制限」が加わることにより、VVIなど幾つかのコード進行はさらに気を使ってあげる必要が出てくるのです! その「禁則」や「制限」を知るのが、次回の内容になります。

ひとまず「和声学」の目指そうとしている世界が、なんとなくイメージできたでしょうか?
配置と連結。この話を知ったそれだけでも、けっこうアンサンブル作りの参考になると思います。

ここまでのまとめ

  • 古典クラシックの美しさの根源には音の配置と連結へのこだわりがあります。
  • 音がオクターブ内に収まった配置を「密集(close)」、それより広いものを「開離(open)」と言います。
  • 二声の連結方法は、その進み方で「並行」「斜行」「反行」に分類され、反行が最も美しいとされています。
  • 「最短経路の原則」と「外声反行の原則」を和音連結の基本概念として認識してください。
  • 基本をマスターした後には、これらの原則を適切に崩し、自分の表現したい内容と共存させていくことになります。

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