和声 : 転回形と表記法

コード編 Ⅶ章:古典の世界
さて、長きに渡った古典様式の話もそろそろ終わりに近づいてきています!すでに古典の基本コード様式を身につけ、 「配置」と「役割分担」、そして「美しい連結」についても学んできました。これらの知識だけでも、相当本格的なものです。

最後に解説するのが、「転回形」の用法です。


#1 転回形とは

「転回形」はもはや説明するまでもなく、ルート以外のコードトーンをベースにおいた配置のことですね。IV章で既に紹介済みです。
new!
この章の冒頭で説明したとおり、古典派クラシックはコード使いが限定的で、長調であれば大部分を長和音で構成していくのが基本。そんな中でサウンドにバリエーションを生み出してくれる転回形の存在は、たいへん貴重なわけです。

ただその使用法には当然厳しいルールがありますから、それを確認していくのが今回です。

#2 表記法について

スラッシュコードの表記といえば、スラッシュで区切るか「on」をつける。ですが、「島岡和声」ではココでも独自の表記を取り入れています。それがこちら。
表記1
真ん中のやつを「第一転回形」、右のやつを「第二転回形」と呼ぶ。略して[一転][二転]とも呼びます。慣れるまでは、ちょっと紛らわしいですね。セブンスやナインスは右下。転回形は右上です。
V7の転回形
こうした表記は19世紀末〜20世紀以降のアメリカ・イギリス系の和声学本でたまに見かけるもので、「和声」の著者である島岡氏は、そのいずれかを参考にしたのでしょう。慣れるまでは大変なんですけど、この表記はけっこう便利です。

たとえば従来のIV/VIという表記だと、一瞬頭の中で、「6と4が3度差だから、これはIVの3rdを低音にとったパターンか」という計算が必要になるわけですが、これがIV1と書いてあれば、それが一瞬で直感的に分かるんですから。コレに慣れてしまうと、逆に普段のスラッシュを使った表記がとても冗長に見ちゃうくらいです。

数字付き低音

一方、バロック時代から脈々と続く伝統的な表記法は全く異なっていて、数字付き低音Figured Bassという表記が最も広く使われています。
数字付き低音
真ん中を「六の和音」、右を「四六(しろく)の和音」と呼びます。「6」と「4」という数字がどこから来たかというと、「和音を積む度数」からですね。
表記の由来
フランスのクラシック界で根強くこの表記が使われていますが、決してフランスのローカル表記ということではありません。ドイツや英米の和声本でもこの表記を最もよく目にしますし、ビゼー、サティ、ドビュッシー、ラヴェルなど数々の名作曲家を輩出したパリ国立高等音楽院もこの表記を使用しているとのことで、世界的に最も強い表記といえるのがこの数字付き低音であります。 数字付き低音は、ようは「まずルートありき。そこからどう音を堆積していくかで音響が作り出される」という哲学が根本にあるんですね。 まあ表記はどれも一長一短。今回は島岡和声の表記を使うことにしましょう。ただちょっとフォントを変えてナナメ文字にして、普段の7thや6thと区別はつけやすくします。
おもてなしの精神 おもてなしの精神

二次ドミナントの表記

せっかくですから、もうちょっとだけコードの表記法について補足します。 二次ドミナントの和音群ですが、島岡和声においては、「Vの上に借りてきた調の番号を示す」という形で表記します。
和声の表記法
こんな感じ。II7だったら、それは属調(=V調)から借りてきたVの和音なので、「V度のV度」と呼び、上のように表します。IIIだったら「VI度のV度」です。 私はこの見た目がニンジンに見えることから、個人的に「にんじん記法」と呼んでいます。これは、この書籍以外ではあまり一般的でない表記で、国際的にはスラッシュを用いた表記が最も一般的かと思われます。
国際派
国際派の記法は見やすいですが、「スラッシュコード」に慣れている我々にとってはちょっと紛らわしいですね。ここでは可愛らしい「にんじん記法」を採用したいと思います。

他にも島岡和声では、同主調からの借用和音には「○」のマーク、上方へ音が変位した時には「+」、下方の時は「-」をつけるなど、さらにいくつかのルールが付け加えられています。

表記はたくさんある
ちなみにこうやって各書籍が様々な表記を提案することは和声の世界では珍しいことではなく、それこそ19世紀末まで遡ると、マイナーコードを「†(ダガー)」で表記しようとしていた或る英国人の黒歴史的なモノも見つかったりします。
1868全然広まらなかった。
ようは、国・時代・書籍によって表記は全く異なるので、そんなに過敏になったり、頑張って覚えようとしなくってもOKってことですね。どれかひとつの書籍にガッツリ取り組むときには、その表記法を覚える必要はありますが。

・・・表記法だけでずいぶん紙幅を使ってしまったので、ここで一旦記事を区切ってしまいましょう。

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