目次
前回ではまず「標準配置」というもの、そして和音の連結にあたっての2つの原則を確認しました。
今回は、その「原則」に沿うことよりも優先される「規則」について取り扱います。ますますややこしくなっていきますけど、頑張りましょう!
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1. 限定進行音の規則
原則よりも優先される規則の代表が、限定進行音です。和声の世界には、「この音の次はこの音に行くしかない」という、進行先の限定されている音が存在します。それが「限定進行音」。
限定進行音の代表例は、導音です。
導音は、特別な場合を除いて必ず主音に進行するのが決まりになっています。まあ上の場合はどちらも「最短経路の原則」に従うだけでこの形になるので、特に何ということもないのですが、もう少し後でこの「導音ルール」が問題になってくる場面を紹介します。
2. 属七和音の規則
ひとまず、他の限定進行音を紹介していきましょう。次に頻出なのが、属七和音(ドミナントセブンスコード)の第7音です。
二次ドミナントの時に、「ドミナントセブンスコードが増4度の不安定な関係を含んでいて、それが反行して解決するのは非常に心地よい」ということは説明しました。クラシックでは、当然この美しさを尊重します!
ですから、V7で言うならば、導音は必ず主音へ(シ→ド)、下属音は必ず中音へ(ファ→ミ)進むというのがルールです。これが何よりも優先されるため、上図のような動きをとることになります。
このように、前回紹介した「原則」よりも優先されるルールのことを、ここでは「規則」と呼び分けることで「原則」と区別していきます。
しかし、Iの和音を改めて確認すると、バスを含めたらなんと4声中3声が主音です。
こうならざるを得なかったとはいえ、ちょっと、「これが理想形」とは言いづらいですね。そう、実はコレはあまり真似しないでほしい例なのです。
かといってテナーにアルトを飛び越して5thへ飛んでもらうわけにもいきません。
もちろん、アルトと同じ3rdに行くのはもっとダメ。和音のカラーを決定する3rdが重複するのは、質感が強すぎて良くないという話でした。では一体どうすればよいのでしょうか・・・
特殊な標準配置
そこで思い至ったのが、そもそもV7の方の5th(D)を省略して、代わりにRoot(G)を重複させようというアイデアです!
5thはしょせん補佐役なんだから、省略してもなんとかなるでしょう。コレだけを見ると、構成音が「ソ・ソ・シ・ファ」でバランスが悪いように思えますが、しかし、こうしたことにより、V7→Iの流れは劇的にいい感じになるのです!
なんということでしょう。重複が綺麗に解消されました。聴いた響きとしてももちろん、さっきより偏りがなく美しいです。
やはり世の中「終わりよければ全てよし」ですから、ここはV7の方の配置が多少乱れていることよりも、このIの配置が完璧に仕上がることを優先すべき。それゆえ、V7に関してはこの「5th省略形」での配置を「標準配置」として認めています。このように、連結の都合から特殊な標準配置が規定されるコードは、他にもいくつか存在します。
ですから、こういうセブンスコードとかになって来ると、もう着いた時点で勝負が決まっているということ。うっかり「ソシレファ」と弾いてしまったが最後、もうIへドカンと美しく解決することは不可能になってしまうのです。
このドミナントセブンスの配置と連結の要点は、他調から借りてくる二次ドミナント群においても概ね同様です。
こんな調子で800ページ
「和声」ではこんな風に、新しい和音が出るたび「この形が一番うまくいく!」というのが紹介されていきます。それゆえの「3巻組、約800ページ」という分厚さ。しかも、今回のように「何故そうなるのか」という原理の部分が説明されることはほとんどありません。その検証過程まで載せていたら、キリがないですからね。
そこがまた、この本が「理屈もよくわからないまま暗記させられてイヤだ」というマイナスの感情を読み手に与えてしまう理由でもあります…。
逆に言うと、今回確認したように、コードごとの理想的な配置というのは、何らかの根拠に基づいて決定されています。ですから根本の原則や哲学への理解、響きの差を聞き分ける耳と論理思考力があれば、隅から隅まで暗記しなくてもかなり良いアンサンブルは作れるはずです。やっぱり一番大事なのは聴覚を鍛えることですね。
また、こんな風に細かく音並びを詰めていく作業を、パズルみたいで面白いなあと思えたら理想的です。
3. 属九和音の規則
クラシックでは、V9のコードをそこそこ使います。この「ドミナントセブンスに長9度を乗せたコード」は、和名だと「属九の和音」と言います。セブンスがそうであったように、やはり9thの音も限定進行音で、必ず2度下行します。
属七部分の限定進行も当然適用されますから、もはや自由度一切ゼロ。
行き先ももちろんIで決まっています。
属九和音の配置について補足
ナインスコードまで使えるなんて、クラシックもなかなかやるじゃないか。って思ったかもしれませんが、その配置には厳しい制限があります。
9thの音はRoot・3rdと衝突する危険がありますから。必ず十分な距離を空けなければなりません。
見やすくするために、三声だけを書き記しました。左側が、最低限確保せねばならない距離です。
9thは、Rootよりは9度以上高いところに置く。3rdよりは7度以上高いところに置く。これより近接した配置だとアウトです。右のように3rdと9thをぶつけて、しかも3rdの方が上なんていうのは、絶対あり得ないわけです。要するに、ジャズみたいに濁らせる目的の9thではなく、あくまでも高らかに響かせるための9thなのですね。この辺りにも、目指す音楽の違いが見てとれます。
短調の属九
ただし、短調の属九和音、Cマイナーキーで言うとG7(-9)においては、3rdが上でも構いません。なぜだか分かりますか?
それは、楽譜を見れば分かりますね。短調のVの和音では、3rdを半音上げてメジャー化するのが決まりでした。その結果、9thと3rdの間には事実上「短3度」と等しい距離が確保されていることになります。この距離のおかげで、3rdを上にして直下に9thがいたとしても、さしたる不協和を生まないからです。やはり古典派理論も最終的には音響が全てで、美しく鳴り響くのであればそれが正義です。そしてこういった例外パターンまでかなり網羅されているところが凄いのですが、一方でマスターするのはそれだけ大変ということでもありますね🥺
コード表記の再確認
ちなみにコードネームの補足ですが、短調の属九和音は、見てのとおり♭9のテンションを乗せることになりますよね。でも「和声」の書式ではやっぱり、わざわざ「♭9」と書いたりはしません。
なんたって、短調では「II」とさえ書けば「IIm(-5)」を指すという世界ですからね。「V9」と書けば、それは当然「V7(-9)」を示すことになるのです。
和声の世界では、他にもIIm7の和音だとかIVΔ7の和音だとか、ひとつひとつについて扱いが詳しく説明されています。やはり音楽理論の中でも別格で拘りがすごいのが、和声の世界ですね。ここでは、そこまで詳しくは扱いません。
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