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3. コードのまとまり

さあ分類のあとは、コードのまとまりを作っていく作業になります。島岡和声では、コードの進行の基本的な枠組みをカデンツKadenzと呼び、ざっくり3種類に分別しています。

  • K1 : TDT
  • K2 : TPrDDT
  • K3 : TPgT

カデンツの頭文字「K」をとって、それぞれK1・K2・K3と呼ばれます。単語が連なって「センテンス」となるように、和音が連なって「カデンツ」を成すというような説明がなされます1
これはもちろん、先ほどのコード進行ルールに沿ったうえでのものなので、例えばK3の一種と称してIIVVImと進行することなどは出来ません。

また、TといってもIの和音を使うのが基本で、VImで終わる「偽終止」はあくまでもスパイス的存在ですし、大きなまとまりの始まりでは必ずIを使って、曲が長調であることを明示します

このカデンツを意識することはまとまりのある曲を作るために大切と言われていますが、もうココに来るまでにおそらく多くの作曲を経験しているであろう皆さんは、そこまでこのカデンツというものを意識しなくても、良い曲は作れるでしょう。

4. 借用和音

ダイアトニックコードの基礎をマスターしたら、次は他調からの借用です。二次ドミナントは、古典派にとって最重要な技法のひとつ。ダイアトニック世界が制限されているがゆえ、彩りをプラスする二次ドミナント群の存在は貴重なのです。

2次ドミナントたち

特にダブルドミナント(II7)は、長調の明るさをより強化してくれるので、非常に愛用されています。もちろんこうしたコードを借用した後は強進行するのが鉄則で、III7→IImやII7→IVのようなポップス風の進行は、古典派ではありえません。

パラレルマイナー

一方でパラレルマイナーコード、すなわち同主短調からの借用和音は、あまり使われません。すでに言いまくっているとおり、長調はできるだけ明るくしたいわけですからね。パラレルマイナーは一切使わない方が、古典派らしさがクッキリと出ます。

逆にロマン派では、サブドミナントマイナーの切なさは感情表現にぴったりですから普通に使われますし、ドミナントマイナーや♭VIIを活用した曲も見られます。

ショパンの「ノクターン第2番」と、リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」のサブドミナントマイナー。やはりこの情感の激しさは、ロマン派という感じです。

5. セブンスやテンション

その次にはセブンスコードやナインスコードでサウンドを拡張していきますが、これも古典派では使われるものが限られています。特にオーケストラのような大編成では、音を濁らせることへのリスクが非常に大きいというのもありますからね。

またサウンドの流行としても澄明なものが好まれていたので、現代ではおなじみのメジャーセブンスなんかもあまり使われません。というか、使わない方が潔い古典派クラシックの雰囲気が出ます。

ただし、V7やII7のようなドミナントセブンスコードはめちゃくちゃ使いますし、ドミナントセブンス系のコードなら9thまで積むことも珍しくありません。それ以外は、ちょっとした音の流れの中で偶発的に生じるものや、装飾に使う程度に留めるのが古典派風です。

メジャーセブンスをフィーチャーしたクラシック曲といえば、エリック・サティの「ジムノペディ」やラヴェルの「水の戯れ」などがありますが、どちらも近代の曲ですね。

古典派らしさを出すのであれば、ドミナントセブンス以外はシンプルなトライアドに保った方が、古風な雰囲気を出しやすいです。

6. スラッシュコード

またクラシックを特徴づける大きなポイントのひとつは、スラッシュコードの多用です。「転回形」と「ペダルポイント」は、古典派クラシックの重要なキーワードになります。

先ほどのコード進行パターンの話を聴くと、ものすごく自由度が制限されたように感じてしまいますよね。でも、それを補うために転回形を活用するのです。

これはよくあるポップス系のコード進行例です。でも古典派では、まずIIImがないし、IImIもダメです。V6だってまあ使いません。じゃあどうなるか?

本当に微妙な違いですが、特にV7/IIなんかは結構クラシックな雰囲気が出ますね。こういう音づかいの積み重ねが、クラシックをクラシックたらしめています。
ですから先ほど「3度上行は使わない」と言いましたけども、II/IIIのような動きであれば、あり得ます。

7. コード進行のスピード感

また、古典派クラシックはコードの変化が不規則かつ素早いです。ポピュラー音楽では1小節とか2拍とか、一定のスパンでコード進行を変えていくのが基本ですよね。

スパンが不規則だと、演奏側もリスナーも慌ただしくて大変ですからね。でもクラシックの場合、例えばオーケストラなら色々な楽器が合わさってハーモニーを作りますから、各楽器がそれぞれの旋律を奏でていたら、自ずとコードがどんどん変わっていくことも普通に起こりうるわけです。

こんな風に、個々の楽器からするとただ自分のラインを奏でていたら、結果として毎音毎音異なるハーモニーが生まれているという感じ。実際、古典派が理論を確立するより前には、「コードを元にメロディを組み立てる」のではなく「メロディが重なった結果としてコードが生まれる」という音楽観が主流でした。
ですから、コードネームでザクザクと小節を区切っていくポピュラー音楽と比べると、コードの捉え方がすごく流動的なのです。

だから2拍ごとのコード変遷はもちろんのこと、1拍ごとにコードが変わる形も普通に見られるのがクラシックの特徴。これはピアノ曲でも同じで、例えばベートーヴェンのピアノソナタ8番(悲愴)第一楽章の終盤では、ものすごいスピードでコードを変えながら転調していく美しいパートがあります。

これほど速くコードチェンジをしていても、割と自然に耳に入ってくると思います。それは基本が聴きやすく統制されたコード進行で作られていることや、スラッシュコードが滑らかなベースラインを作っていることが大きな要因でしょう。

先ほど例に挙がったショパンのノクターンでも、コードがみるみる変わっていくフレーズが登場します。

こんな風に、メロディは自然なラインを保っているのに、和音も和音でドンドン美しく変化していく。こういう「メロディとハーモニーの一体化」は、「スケールとコードの分離」を積極的に行ったジャズとは正反対の側面と言えそうです。
こうやってスピーディーに動く場所と、反対にペダルポイントでどっしり構える場所とで緩急を作ったりすると、非常にクラシックらしくなるわけです。

8. リズムの特徴

最後にリズムの側面から。クラシックは「表拍・裏拍」「強拍・弱拍」をけっこう区別するジャンルで、たとえば「弱拍なら多少濁った音があってもいいけど、強拍はきちんと綺麗に」とか、見ていくとかなり細かいルールがあります。

メロディのフレーズ作りにおいても、シンコペーションやアンティシペーションといった弱拍にアクセントが来るフレーズの出現頻度は、ポップスと比べるとずいぶん低いです。オーケストラでは指揮者がタクトを振ってリズムを司るというシステムも、表拍重視の旋律作りを自然と促していたのかもしれません。

逆にシンコペーションを多用したフレーズがあると、「裏拍のリズムが特徴的だ」なんてわざわざ評論されちゃうくらいの世界です。モーツァルトの交響曲 第25番なんかはその典型例ですね。

ですのでいかにも落ち着いたクラシック風の曲が作りたいのであれば、いつものメロディメイクを封印して、表拍中心のリズムで編曲してみると、なかなか古風な雰囲気が出せるはずです。


さて。ざっくりとクラシックの特色をまとめてみましたが、これら全て実践するだけでも、なかなか格調高いクラシックの風合いが出ます。

こちらは、ここまでの内容を元にしてクラシック風で作ってみた例です。まだ本格的な「和声学」のテクニックは盛り込まれていないのですが、「様式論」にのっとるだけでもずいぶん格調高さが出ました。
とりわけ「マイナーコードをほとんど使わない」「転回形・ペダルポイントを多用する」といった点が目立って効果をもたらしています。

古典派クラシックは、「ダンスミュージック」や「ハードロック」といった現代のジャンルと比べると、こうした様式の重要性が大きく、いくらサウンドを真似ても、様式なしだと全然クラシック風にはなりません。

また、このユニークなコードスタイルをJ-Popに適度に混ぜたりすると、ほどよい高級感が生まれたりするので、ぜひ活用してほしいところ。

こちらは、くるりというロックバンドの、クラシック調を全面に押し出したアルバムからの一曲です。実はコード進行に古典派の様式がずいぶん盛り込まれていて、それがこの曲想に大きく貢献しています。オーストリアのウィーンで録音したそうですから、まさに古典派の世界ですね。

さて、次に知るのは短調の様式です。これを学ぶと、古典派理論の魅力がさらに見えてきますので、先へ進みましょう。

まとめ

  • 古典派長調では明るさを際立たせるため、特にマイナーコードの用法に制限があります。
  • 古典派では、始まりも終わりも主和音というのが基本で、「半終止」や「偽終止」はパートの途中のちょっとした場面にスパイスとして用いる程度というのが普通です。
  • 基本のコード進行に制限がある代わりに、スラッシュコードや借用和音を活用して彩りを付加していきます。
  • ポピュラー音楽を作るときとは作曲の思考法そのものを変えた方が、クラシックの哲学を理解しやすいです。
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