目次
4. テンションの選択例
原理原則がわかっていれば、どんなコードであっても適切な判断を下すことができます。ここではただ“アヴェイラブル”なテンションを列挙することよりも、判断の仕方を解説する形でテンションへの理解を深めようと思います。
パラレルマイナー
例えばパラレルマイナーコードのエース、IVmΔ7の場合はどうでしょうか? アヴォイドを除いた候補を炙り出すと…
11thはノンダイアトニックですが、「パラレルマイナーからの借用」という文脈を考えれば、シにフラットがついても何ら不自然ではありません。4つのテンションを全て聴いてみましょう。
- IVIVmΔ7I
こちらはIVIVmΔ7Iの進行にテンションを色々乗せ替えて、聴き映えがどう変わるかの比較実験です。
- 1回目は9th付加で、ナインス特有の「鋭さ・高らかさ」が良きスパイスとして加わっています。
- 2回目は13th付加。シックスコードと同類のノスタルジックな薄暗さが加わり、サブドミナントマイナーの哀愁とかけ合わさって相性バッチリ! おすすめです。
- 3回目は+11th付加。これはカーネルでみると“導音”ですから、トニックへの解決を自然に導いてくれている感があり、非常に上品です。クラシック風にも感じますね。
- 4回目は11th付加で、より強いパラレルマイナー感を演出しています。劇的な変化を与えていますが、ちょっぴり急かもしれません。メロディによるサポートが欲しいところです。
こんな風に、シェルとカーネルの両面からテンションを評価することで、その音楽的性質を理解することができます。
原則を破ってみる
さて、ダメだと言われるとチャレンジしてみたくなるのが人間の性です。攻めたパターンもひとつ紹介します。
こちらはレ♭、-13thの音を乗せた場合です。「半音被せ」の濁りを避けるため、5thを抜くという回避策をとりました。どうでしょうか? 毒気はありますが、妖艶で美しいハーモニーになっていると思います。
このように、「原則的に無し」と説明されるような音であっても、そのサウンドを生かす道が往々にしてあるものです。これは接続系理論と似た話ですね。前回は慣習的なアヴォイドの話をしましたが、あくまで実際の制作は自由だということを忘れないでいただきたいと思います。
二次ドミナント
テンションの自由度が高いドミナントセブンスも軽く触れておきます。
- IVΔ7V6IIIm7VI7IIm7V7IΔ7
今度はおなじみ4-5-3-6-2-5-1の進行を3周。そしてVIのところでテンション比較をしてみました。
- 1回目は9th付加で、やっぱり鋭さをちょこっと足した、薄味のテンションです。
- 2回目は-9th付加、先ほどもやったシ♭の音です。ノンダイアトニックで、Dマイナーキーの香りを強めた形になるため、沈み込んだ感じが増しています。
- 3回目は9th13th付加。シとファ♯の付加です。これは逆にDメジャーキーに近寄るため、転調しかかっているような高揚感があります。ファ♯を自然に聞かせるため、この周だけはIIIm7の時にもファ♯を付加しました。
パラレルマイナーコードや二次ドミナントの場合、こうやってノンダイアトニック音の交ぜ具合で転調の度合いをコントロールすることができます。「この音を入れることは、どんな意味を持つのだろうか?」と考えることがいつだって大切です。「たとえ同じドミナントセブンスコードであっても、進行先のコードが何であるかによってふさわしいテンションが異なる」という風にも言えますね。
テンションの個性
テンションの運用においては、音の持つ意味を考えることが大切です。「テンション/アヴォイド」の分類を覚えることが理論習得のゴールではありません。むしろそれはスタートでしかない。テンションだとしたら、それはどんなサウンドをもたらすテンションなのか? アヴォイドだとしても、それはどんな風にサウンドを濁らせる音なのか? +11thとか-9thとかいうのは、それを管理するための「識別番号」に過ぎないということを忘れないでください。
それこそ、「コードネームを読む」「コードネームに起こす」という作業が必要でない環境であれば、数字は必ずしも覚えなくてはならないものじゃないですからね。
カーネル目線も大事
上の2例だけでも少し体感できたかと思いますが、テンションを分析するにあたっては、コード内における位置と同じくらいキー内での位置が大切です。つまり、シェル目線だけでなくカーネル目線でも見た方がいいということ。キーに対してダイアトニックかどうかという情報も、言ってみればカーネル情報の一部ですよね。一見難しそうに見えるコードネームでも、結果的にその音が何であるかというのを見ると、その音が意図していることは自ずと判ってくるものです。
例えばIの+11th、IIIの9th、VIの13thは結局全員「ファ♯の音を足す」ということです。音から先に入ればこういうことは自明ですが、数字から先に入ってしまうとこういう点を見逃しがちで、知識体系が繋がらなくなってしまうので、注意してください。
さて、長々とテンション・アヴォイドについて紹介してきました。ただもう一度はじめの前提を確認しておくと、これはアドリブ・セッションのために生まれたマナーとしての分類法にすぎません。
メロディ編では、IV章の「偶数シェル」に関する理論でテンションに相当する内容をかなり深く学びます。そこではアヴォイドをメロディで使用したい場合にどうするかを、メロディ優先の視点で紹介しています。そうした多角的な解説を通じて、より自由な音楽観を手に入れるというわけです!
まとめ
- アヴェイラブルであるテンションを暗記していること以上に、その中から曲想にあったものを選びとる能力が重要になります。
- キーに対してダイアトニックかどうかがまず使い勝手の重要な判断基準になります。
- ドミナントセブンスコード上では、より濁った音使いも許容される傾向にあります。
- コードネームでの分類以外に、カーネル目線でテンションを分類する意識も並行して持っておくとよいです。