目次
今回は「新しいコードネームを知る」回です。セブンスコードにさらに音を追加して音響をより複雑化させます。I章でやった「テンションの活用」の続きです。ここでは最も汎用性の高い9thの付加を紹介します。
1. テンションコードをもう一度
I章の「セブンスやテンションの活用」で、音を付加して濁りを加えることを学びました。
この時にはまだ、「7度付加」すら言葉のない状態でした。今ではセブンスコードを知り、シックスコードを知り、sus4やaugといった新しいタイプの濁りも知りました。ここでそろそろ、音を付加することについてしっかりと理論化する時が来ています。
III章前半でやったこととの違い
I章でテンションコードを学んで以来自分で様々な「濁り」をトライしていた人は、このIII章前半で似た響きのコードに出会ったかもしれません。しかし前半でやった変化系和音は、テンションコードとは考え方が異なります。あれらは元のコード・トーンが変化して新しい音になっていたので、元のコード・トーンのうち誰かがいなくなっていました。
例えばsus2は、「3rdを鳴らさないことで緊張をもたらし、3rdが鳴らされると解決する」というような使い方が想定されていて、バンドで「ここはsus2で」なんて話になったら、そこには「タメを作りたいから3rdを鳴らさないでね」というニュアンスを自動的に含むことになります。
でも当然そうではなくって、単に「メジャーコードに2度の音を足して濁りを加えたい」という時だってあるわけですよね。
今回説明するのは、音を「ずらす」のではなく「足す」方法論です。トライアドからセブンスコードに進化した時と同じことを、もう一度するのです。この違いを意識したうえで読み進めていってください。
2. ナインスコードとは
さて、2度を足す。これはクラシックの理論にもある伝統的な考え方です。ただし、彼らは「2度」を足すとは考えませんでした。1・3・5度の三和音、それに7度を加えたセブンスコード、そのさらにもうひとつ上に音を積んで、「9度」を足すと考えたのです。
そして、7度まで積んだコード群を「セブンスコード」と総称するように、9度まで積んだコード群をナインスコードNinth Chordと総称しました。
オクターブは関係なし
たとえ“お団子がさね”の配置でなくルートのすぐ上の「2度」の位置に音を置いたとしても、これまた同様に「ナインスコード」と呼ばれます。
これは、Cメジャーコードのドミソがどんな高さに配置されてもコードネームには影響しないのと同じですね。オクターブの違いは無視するのがコードシンボルのシステムです。
11度、13度
ちなみにそのまま「お団子がさね」を繰り返すと、4度は「11度」として、6度は「13度」として登場することになります。
こうした音は、ポピュラー音楽でも活用されています。ただ、11度、13度の理論はかなりのややこしさを孕んでいます。類似したものとしてsus4やシックスコードを学んだばかりなので、ここに、今回は9度の和音だけを取り扱いますね。
11度、13度のコードはIV章の後半で扱います。それまでは引き続き「セブンスやテンションの活用」の記事を参考にしながら、コードネーム抜きで色々と試してもらえればと思います。
3. ナインスコード群のコードネーム
音階に沿って9度を乗せた場合、多くは「長9度」の音程、つまりはルートの全音上の音になることが多いです。そのためコードネームの命名においても、「長9度」を乗せた時のコードネームがシンプルになるような命名規則になっています。
ルールはシンプルで、「セブンスコードに長9度を乗せた場合、数字の7を9に書き換える」というものです。
メジャーセブンスコードをベースにしているならば、「Δ7」から「Δ9」になり、マイナーセブンスコードをベースにしているならば、「m7」から「m9」となります。
ですのでここでひとつ注意なのは、「C9」といういかにも普通そうなコードネームが、実は黒鍵を伴うものであるということですね。ただこれはまあ、CΔ7とC7の区別の時に、もう乗り越えてきた壁のはずです。
「短9度」を乗せた場合については少し上級なコードとなるので、今回は扱わず、IV章に進んでから紹介することにします。
ドミナント・ナインス
ちなみに「9」のコードについては、セブンスコードのときと同様にドミナント・ナインスDominant Ninthという別名があります。これはやはり、総称としての「ナインスコード」と区別するためです。
基調和音と9thコード
六つの基調和音に「長9度」を足す場合には、IIImのコードだけは臨時記号が必要になります。
ミの全音上は、ファじゃなくファ♯ですからね。なのでナインスコードの中ではIIImだけは特別で、使うならば調性から逸脱することに注意が必要です。当然メロディラインがナチュラルのファを使っている時には、この音は足さない方が良いですね。
IIIm9の注意点
ある音が、キー本来の音階に沿った音であることを、キーに対してダイアトニックDiatonic to the Keyであるというのでした。IIImにおける9thの音は、キーに対してダイアトニックではない。メロディラインや伴奏のトップノート(一番高い音)で使ってしまうと、転調しようとしているのか何なのか微妙な状態にもなりかねないので、伴奏の内側に混ぜ込んで目立たなくさせる方法がよく用いられます。
コードネームに反映されない部分ですけど、重要なことです。こういった和音の配置のことは、「ヴォイシング」と言うんでした。本来キーにない音であっても、巧い混ぜ込み方をすることでこれまでにない魅力的なサウンドを得ることができます。
4. ナインスコード群のサウンド
セブンスコードとナインスコードでどんな風に響きが変わるか、聴き比べてみましょう。
- IVΔ7IIm7VIm7IΔ7IIIm7
こちらはおなじみセブンスコード。トライアドに比べて深みがあるのは間違いないですが、II章からずっとこれなので、だんだん物足りなさも感じてきました。そこで、ナインスコードの登場です。
- IVΔ9IIm9VIm9IΔ9IIIm9
トライアドからセブンスコードほどの躍進ではないですが、濁らせ役が7thと9thのの2音に増えたことでさらに複雑なサウンドを獲得しました。特に最後のIIIm9は臨時記号も付いていますから、ただならぬ雰囲気を放っています。
基調外和音と9th
基調和音以外だと、I7VI7のような二次ドミナント、それからIVmVmVIIのようなパラレルマイナーコードでも9thはよくはまります。特にジャズ風の曲調では、9thまで積んだ時の濁ったサウンドがぴったりです。
- IIm9IIIm9VIm9Vm9I9
定番のコード進行ですが、9thを積むことでさらに大人っぽくなります。7thのサウンドがメロウだったのに比べると、9thの方は若干の「鋭さ」や「浮遊感」があるかなという印象です。
5. add9
これまで見てのとおり、9thコードというのは“五段重ね”のてっぺん。「Δ9」とか「m9」というコードネームを用いると、自動的にセブンスの音も付いてくることになります。これは、クラシック時代から続いてきた伝統的な制度です。
ですので、もし7th抜きで9thの音だけを足したい場合にはまた別の表記があって、「add9」というコードネームを使います。もしくはカッコを使って(9)という書き方も一応あって、特にシックスコードの時なんかはその表記が採られたりもします。
sus2,9,M9,add9。この4つは見分けがややこしいところですね。
ここで9thをマスターしたら、IV章では11th,13thの領域に入っていきます。
まとめ
- セブンスコードの上にさらに長9度の音を重ねたコードを、「ナインスコード」といいます。
- コードネームはセブンスコードの状態を基準にして、そのまま7を9に変えればよいです。
- IIIm9のようにキーに対してダイアトニックでない音を使いこなすには、音の細かい配置が重要になってきます。