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今回は「新しいコードネームを知る」回です。
メジャーコードを変化させて新しいコードを作ります。今回は臨時記号(♯・♭)を使うコードで、かなり独特な響きがします。聴きやすいコードを中心に使うダンスミュージック等の電子音楽ではあまり使われませんが、ポップスではスパイスとして持っていると武器になります。
さて、それでは手始めに、メジャーコードの5thを上下に半音ずらすところから始めてみましょう!
Cメジャーキーで言うところの黒鍵を使うことになるので、臨時記号が付くということ。なかなか面白いサウンドになりそうです…。
1. ♯5と♭5
新しいコードの表記はカンタンです。5thを半音上にずらしたものには「♯5」、半音下にずらしたものには「♭5」という記号を、コードシンボルの右上にカッコでくくって付加します。
まさに名は体を表す。右肩に数字が乗ったコードネームは一見すると難しそうですが、きちんと度数とかコードの積み方の原理が分かっていれば、コードネームの意味を汲み取ることができます。メジャーコードを変形させたこの2つのうちでは、「シャープファイブ」の方が利用上の重要性が高く、様々な場面で用いられますので、解説もそちらを重点的に扱います。
2. サウンドを聴いてみる
早速そのサウンドを聴いてみましょう。これらは存在自体が特殊なコードなので、簡単には使えません。あくまでも刺激物として曲中に組み込みます。特定のディグリーにおける用法がいくつか定番になっているので、それを少しずつ吸収していくとよいです。
Iの♯5/♭5
フラットファイブもシャープファイブも特殊な響きなので、これを本来「安定」役であるIで使うとなかなか強烈です。
- II(♯5)I(♭5)I
イントロや間奏のスパイス的な位置に使うといいですね。
こちらの曲のイントロギターで、まさに先ほどのサンプルコード進行が象徴的に用いられています。典型的な導入例と言えるでしょう。
こちらはサビ前のブレイクとしてI(♯5)の構成音を順番に鳴らしています。シャープファイブが持つ奇妙さを、パートのインパクトへと昇華している好例です。
Vの♯5
Iのほかには、Vのシャープファイブ化も定番。
V(♯5)は、増大した音程が独特のおどけたような雰囲気を演出します。特に後続にIのようにミを構成音に含むコードを置くと、レ♯→ミという美しい半音の流れを構成できます。
- IIVVV(♯5)I…
こんな風に、明るめの曲調の中で使うとよく活きるコードです。
ヨルシカの『ブレーメン』では冒頭パートの終わり、「この夜の」ところでメロディが不思議な音をとりますね。ここがまさに、V(♯5)のコードの臨時で変化したレ♯の音をメロディが歌っていて、それによってすごく耳を引くような刺激がこの箇所に発生しています。
III、VIの♯5
ほか、クオリティチェンジで持ち込んだIIIとVIのコードも、シャープファイブにする演出は定番です。
どちらもクオリティチェンジで一段階上の盛り上がりを演出するようなコードなので、そこにさらに一味加えるといったところ。この2コードは、5thを半音上げてもそこに関して臨時記号が生じません。シがドに、ミがファに変わるだけ。だから使いやすいんですね1。
- IVΔ7IIIVIm7VI
これが単なるクオリティチェンジのみの状態。今となってはこれも、普通のコードに思えてきますね。そこでIIIとVIの5thを半音上げてみます。
- IVΔ7III(♯5)VIm7VI(♯5)
このとおり、響きが複雑化されて、より大人っぽくなりました! 今回のジャズ調の音源では、こちらの方がよく似合っています。
3. セブンスコード化する
ココまではトライアドが基準でしたが、II章で述べたセブンスコードを基にしてシャープファイブのコードを作ることも当然可能です。それぞれのコードの5thを半音上げればいいんですからね。
複雑なコードネームも、こうやって基本形とのつながりで考えてあげれば、混乱しにくいです。セブンスコードにすることで、より複雑・リッチなサウンドを得ることができます。
- IVΔ7III7(♯5)VIm7VI7(♯5)
上の音源と比較すると、本当に微妙な差ではあるのですが、こちらの方が深みがあって今回の曲風に合っています。ジャズなど大人びた雰囲気の音楽では大概このセブンスコードの方が好まれますね。
逆に、先ほどのスピッツのようなロックな使い方においては、シンプルなトライアドの方が良いということも全然あり得ます。どちらにするかは、これまでの他のコードと全く同じです。サウンドをシンプルにしたいか、複雑にしたいかです。
キーに対してダイアトニック
今回で分かった地味に大事なこと。ドレミファソラシドは全音半音が不ぞろいなので、特定のコードでは「ずらしても臨時記号がつかない」という現象が起きます。
IIIのコードでは5thがたまたまシだったから、半音上げてもドになるだけ。VIではミがファになるだけ。このように、ある音がその時のキー本来の音に由来しているとき、つまり臨時記号を必要としない音であるとき、その音はキーに対してダイアトニックDiatonic to the Keyであるといいます。そして、「IIIやVIは5thを半音上げてもキーに対してダイアトニックな音になるから使いやすい」といったふうに表現ができます。より省略して「ダイアトニックな音」などと表現しても、まあおおよそは伝わるかと思います。
この「キーに対してダイアトニック」という言葉は、今後コードを難しくしていくにあたっての重要な判断基準になるので、わざわざ用語が用意されているということを頭の隅に置いておいてください。
こんな感じでIII章では、メジャーコード・マイナーコード以外のコードについての知識を広げていきます!
まとめ
- 5thを半音上げ下げすると、コードネームにもそれぞれ(♯5)、(♭5)という修飾が付きます。
- 特にメジャーのシャープファイブは重要で、音の間隔が広がったことによるユニークなサウンドを持っています。
- セブンスコードにして使うと、よりリッチなサウンドを得ることができます。