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パラレル・マイナー ❶

では、ここからはいよいよ、完全に新しいコードの紹介をしていきます!

3. フラット系ルートのコード

♭III♭VI♭VIIはルートにフラットが付くということで、本来のキーから離れる感覚が強いです。そのため、曲想をガラッと変化させる力を持っています。
基本的には、最後にまた基調和音に戻って来ることで平安を取り戻すわけですから、スッと自然に戻ってくるには、やはり進行先が限定されます。

VII : 浮遊感がある

フラット系ルートの3人の中で最もよく使われるのが♭VIIです。Cメジャーキーでいえば、B♭のコードです。実際に曲を聞いてみます。

IIm7IΔ7♭VIIΔ7V

今までになかったサウンドですね。フラット系ルートのコードは、クオリティチェンジによるメジャー/マイナーの転換のように明/暗の対照論で語れないのでその質感の言語化がなおさら難しいですが、♭VIIはどこかフワリと宙に浮いたような浮遊感があるように思います。

「翼をください」は、そのフワリ感を活かした典型例。「飛んで行きたい」のところの和音が♭VIIです。

このように後続にVを置く形は、♭VIIVに対する助走というか引き立て役として使う、ドミナントの高揚というゴールの手前で捻りを入れるスタイルです。一方で他の後続コードとしてよくあるのはIVVImなどで、こうしたコードに繋ぐ場合は♭VII自体が主役になりますね。

IVIIm♭VIIVIm

こちら、IVIImと進んで、一拍だけ♭VII、そのあとスッとVImに着地するという例です。基調和音だけでは出せないブルーな雰囲気を作り出しています。
♭VIIVImは半音でスルリと降りる形になりますから、非常に滑らかで美しいです。これまでルートが半音で移動するのはIIIとIVの間だけでしたから、こういったサウンドは新鮮に聴こえます。

VI : 妖しさがある

色々な表情を見せる代わり、曲想になんとも言えないクセがあり、微妙に使い勝手で劣るのが♭VIです。Cメジャーキーで言えば、A♭にあたりますね。

IΔ7IIIm7VIm♭VIVsus4V

3小節目に入ったとき、ガラッと雰囲気が変わったのがわかると思います。こんな風に、どこか妖しげな感じを醸すのが♭VIの典型的な使い方のひとつです。
♭VIIと比べるとキャラクターが濃いため、用法はやや限られていて、上例のようにVへなめらかに半音下行するのが定番です。

III : 滑らかなつなぎ役

♭IIIもまた曲想が様々で、使いどころの限定されてくるコードです。「IIImからIImへ降りるときのつなぎ」として使うのが、最も一般的ですね。そうすると、綺麗に半音ずつ落ちていく流れになりますから。

IVΔ7VIIIm7VImIIm7VI

もう聴き慣れてきたかもしれない、4536251という進行。このVIm♭IIIに変えてみます。

IVΔ7VIIIm7♭IIIΔ7IIm7VI

今回はセブンスコードにして使ってみました。普段なら落ち着いたVImが来るはずの“着地地点”に突然のノンダイアトニックコードが来るというところにまずドッキリ的な刺激があります。さらにIIImから♭IIIへのなめらかな半音下行というのも、パワフルな5度下行を形成するIIImVImとは対照的。そしてミとシという2つのキー外の音が調性をかき乱すことで音響的にもかなり独特なムードを生み出しています。

aikoの「初恋」のサビ冒頭では、IVIVmIIIm♭IIIという風に、同主調の和音が2つも組み込まれていて、それぞれ切なさと落ち着かなさを表現しています。ちょっとジャズっぽい雰囲気を出すときにも、同主調のコードたちは適していますね。

4. ロック風な使い方

短調からコードを借りることで、長短が曖昧になる。そういう意味では、「パワーコード」と通じるものがあるかもしれません。特に♭III♭VI♭VIIの3名は、ロック音楽のリフの中で非常によく使われます。ちょっといくつかコード進行のサンプルを紹介しますので、参考にしてください。

IV♭VIIIV

あっけらかんとしたパンク調のコード進行です。上記3名はみなメジャーコードですから、根が明るい。なのでパンクにはぴったりです。同主調の和音を取り入れることで、メジャー系コードだけでも様々なバリエーションを作れるんですね。

♭VIIIの反復→IV

I♭VIIを往復してるだけで、十分リフが成り立ちます。

I♭VII♭VIV

I♭VII♭VIという連続の全音下行は、メジャーコードの連続で、かつ全音の移動が連続するからかパワフルで雄大な印象があります。

I♭IIIIVV

♭IIIを使ったパターン。やはりこいつはクセがあって、他2つほどの汎用性はない印象です。前回は♭IIIは半音下行するのが基本と述べましたが、いま説明しているロック調の使い方となると、こうやってまた異なるパターンの可能性が現れます。

IVVIIVV♭VI♭VII

IVV♭VI♭VIIという2度上行を連続するの進行も、ロックの定番のひとつ。これまでの手持ちコードだったらVから上がるとVImに至り、そこで流れが落ち着いてしまいます。そこで♭VIに進むことで、着地感を与えることなくさらに上昇し続けることができる!というのがこの型の強みですね。

また今回、後続のパートではI♭VIIの繰り返しを使いました。


そんなわけで、♭III♭VI♭VIIの3つが新しく加わりました! 長短が変わるだけの「クオリティ・チェンジ」と違って、ルート自体に臨時記号が付いている彼らは、かなり劇的に曲想を変化させるパワーを持っています。最後に改めて、定番の進行パターンをまとめておきますね。

進行 典型的な曲想 典型的な使用場面
IVIVmI 切なく穏やか サビ終わり
IVIVmIIIm 切なく感情的 サビ始まり
IImIIImIVmV 切なさ&感情のたかぶり サビ直前
♭VIIV 浮遊感からの高揚 サビ直前
♭VIIIV 浮遊感からの着地 どこでも
♭VIV 妖しげ どこでも
IIIm♭IIIIIm (曲想は様々) サビの途中
♭VI♭VIII 豪快なロック風 サビの終わり

実に多彩で、多種多様ですね! 大事なのは、これらの曲想を理解し、表現したいものと適切に結びつけていくことです。むろん「曲想」については、これは言語化の一例にすぎず、実際には使われ方次第で実にさまざまな表情を見せます。

借りたものは返す

「二次ドミナント」の時にも説明しましたが、こうした和音は一時的に他のキー(ないしスケール)から“借用”したものです。それをすぐ“返却”することで、リスナーに転調したという印象を与えずに、適度なレベルで曲想を広げることができるというのがポイントです。

それゆえ上の定番進行たちを見ても、「♭VI♭VIII」を除いて他はみな、借用和音の後は基調和音に戻っているのが分かります。もちろん過激な使用をするのもそれはそれで面白いですが、スタンダードなポピュラー音楽を構築するうえでは「せいぜい1個か2個で戻るのが基本」だと考えるのがよいでしょう。

この「同主調からの借用和音」については、まだまだ補足することがたくさんあるので、ここで一旦記事を区切ることにします…。

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