目次
さて、いよいよコードの本論に入っていきます。
コードとは和音、「複数の音を同時に鳴らしたもの」ですから、まずはコードの種類や名前がどうだという前に、音を重ねるという行為の根本をガシッと掴んでおきます。
1. 距離に固有の質感
まず最初に知るべき最も重要なことは、和音の響きというのは音どうしの相対的な距離感によって定まるということです。
こちらはドとソを重ねた和音。音どうしの距離というのは、半音の数で測れます。この場合は、「半音7つぶん」と考える。
「半音7つぶん」となる音のペアは当然他にもたくさんあって、 黒鍵ならミ♭とシ♭なんかもそうです。
ミ♭-シ♭の和音は、先ほど聞いたド-ソの和音と、“質感”として同一のものを有しています。音の高さこそ異なるがために別の和音として聴こえてはきますが、質感自体は同じです。
とはいえサウンドの“質感”といってもなかなか判別しづらいところがあります。これについては、他のものと聴き比べるとより分かりやすくなるでしょう。
こちらは「半音6つぶん」の距離にある2音が作る“質感”です。距離をチョッピリ縮めただけですが、ずいぶん不穏な濁りを持ったサウンドが生まれました。距離と質感が結びついているのです。
質感差を比べる①
一回音を鳴らすだけの比較ではまだ分かりづらいかもしれませんね。[7半音]のハーモニーだけ使った音源と、[6半音]だけの音源とを聴き比べてみましょう。
- [7半音]のハーモニー
- [6半音]のハーモニー
メロディに対しそれぞれ[7半音]、[6半音]の距離をひたすら維持してハーモニーを構築し、小曲にしました。
距離が半音違うだけで、生み出される雰囲気に明らかな差があることが分かるかと思います。どう違うか表現しろと言われると難しいですが、[6半音]の音源はどこか不気味で張り詰めていて、落ち着かないような感じがするかと思います。それと比べたら[7半音]の音源はハーモニーが澄んでいます。
音の高さは基本的に関係なく、距離(半音数)が同じであれば同系統のサウンドを演出する1。これはコード理論の基礎となる重要な概念です。
質感差を比べる②
もうひとつくらい比較をしてみましょう。
- [4半音]の質感
- [3半音]の質感
今度もたった半音差ですが、演出される曲想は全く別物になりました。[4半音]の音源の方は希望が差しているような明るさがあり、対する[3半音]の音源の方がダークで不穏な雰囲気を醸しています。例えばヒーロー映画のBGMとしてどちらか片方を「魔王の出現」、もう片方を「ヒーローの帰還」のシーンに使うとして、どちらをどちらにあてがうか?と映画音楽家に訊いたら、まあ十中八九[4半音]の方がヒーロー、[3半音]の方が魔王という回答になると思います2。
もちろん実際には楽器やテンポ、展開やフレーズなどで印象は変動するため、「この距離の2音なら必ずこの印象を生み出す」と決まっているものではありません。ただ何にせよ、各距離がそれぞれ“固有の質感”を有していて、それによって得意な表現の傾向が異なってくるという点がポイントになります。
2. 詳細度数
そんなわけで、ハーモニーを論じるにあたっては「2音間の距離」というのが決定的要因、論の根幹となります。そういえば、距離の話だったら準備編でも1回ありましたね。ドレミをまたいだ数を数えて、「度数」という単位で表すんでした。
ここまで[4半音][3半音]などと呼んできましたが、正式には「○○度」という言葉を使って説明をするものです。
簡易度数と詳細度数
しかしこの度数は「ドレミの数で測る」というざっくり測量でしたから、[4半音]である「ド〜ミ」も、[3半音]である「ド〜ミ♭」も、計測結果は共に「3度」となってしまいます。
だからこの測り方は「簡易度数」と呼ぶもので、コード理論を論じるときにはもうちょっと精密な「詳細度数」を用いますという“予告”までを準備編では終えていました。
詳細度数
では「詳細度数」だとどんな呼び方になるかと言うと、「ド〜ミ」の方は距離が長い(4半音)ので長3度Major 3rd、逆に「ド〜ミ♭」の方は短い(3半音)ので短3度Minor 3rdと呼び分けます。
言わばこれで苗字と名前が揃ったフルネームという感じです。
暗記を先延ばししよう
「詳細度数」に使われる名前は「長・短」だけでなく、他に「完全・増・減」という名を冠することもあります。音は12個ですから、2音の組み合わせは12×11=132個。そのひとつひとつに“フルネーム”の詳細度数が存在します3。
だからまずはコレをスラスラ言えるようになるまで暗記して、そしたら次の話へ進みましょう! ……なんていうカリキュラムは、ハッキリ言ってとてもやってられません。
それは「大変である」という以前に、非効率的です。喩えるならこれは、料理が上手になりたい、いろんな料理のテクニックを知りたいというときに、まずスパイスを132種も暗記させるようなもの。そうじゃなくて、よく使うものから順々に自然な流れで覚えていけるように、ここは教える側が工夫・配慮すべきところです。
暗記しなくても先へ進める
実際問題、これから読み進めるのに必要なのは「同じ3度といっても、よくよく数えると距離が違う。それによってサウンドが変わる」という認識そのもの、その概念さえあれば十分です。
例えばメジャースケールの話の際に、「全全半全全全半」という段差を説明しました。これを知らずに先へは進めません。でも結局「五度圏」のおかげで、いちいち段差を数える必要はなくなりましたね。
それと同じで、五度圏などを活用すれば、暗記をしなくても理論学習や実践をかなり進めていけます。「“苗字”が一緒でも“フルネーム”は違う奴らがいるんだな」と言うことだけ覚えておいて、次回からさっそく実践に活きる知識を入れていきましょう。
まとめ
- 二音を重ねた時、その距離しだいで様々な質感が現れます。
- 同じ3度であっても半音の数によってさらに「長3度」「短3度」と枝分かれし、それぞれの質感は異なります。
- ただ、詳細度数に関するもろもろの暗記は、Ⅰ章の間は必要ありません。