目次
5. 機能の順行と逆行
コードのTDSを変化させていくことは、曲の流れ作りに大きく関わってきます。TDSの機能が異なるコードへ進んだ場合に起こる曲想を「着地・浮遊・緊張」という表現になぞらえてまとめると、下図のようになります。
自由派音楽理論では、この内回り(反時計回り)の動きを機能の順行Prograde Motion、外回り(時計回り)の動きを機能の逆行Retrograde Motionと呼ぶことにします1。
機能の順行
内回りを「順行」と呼ぶ理由は、このT→S→D→Tという向きのサイクルが、順当に「緊張」を積み重ねてから一気に「緩和」させるという、「緊張と緩和」のセオリーに則った典型的な動きだからです。
順行はそれゆえ自然で快いとされ、特にDからTへと進む結びつきは強いと言われます。先ほども述べたようにこの流れはクラシック時代からの定番であり、ジャズ理論でもこのS–D–Tという流れを土台にして理論をドンドン発展させていきます。
機能の逆行
仮に「順行」が自然な動きであるとしても、それは逆向きのT→D→S→Tのサイクルが音楽的に良くないなどということを全く意味しません。「逆行」のコード進行にもそれぞれ特徴的な面白さがあり、曲想を実に豊かにしてくれます。「順行」と「逆行」は表現において等しく重要な存在です。「逆行」という言葉の響きから何かネガティヴなイメージを持つことがないように注意してください。
6. 機能の変化を聴いてみる
それでは基調和音を組み合わせたコード進行を作って、その展開性を「機能」の観点から分析してみましょう。
機能の順行を活用したコード進行
- VImIImVI
音源は、このT–S–D–Tという完全な「順行」のみでコードを並べた一例です。少しずつ緊張の度合いを高めていき、最高潮から一気に着地するというような風合いになるので、聞いていて展開性が分かりやすく、「お約束どおり」という感じの快い進行になっています。
こちらはメロなどのメインリフでこの進行を使った実際の楽曲です。非常に聴きやすく、順当に前へ進んでいる感じがあります。
機能の逆行を活用したコード進行
- VImIIImIVI
まずT始まりのT終わりなので、ドッシリと落ち着いた感覚がある。そして急激に盛り上げるT→Dは激情的で、その後のS→Tは優しく穏やかな曲想を演出する——そんな風に分析ができます。正直まだ現段階では、T→SとT→Dの違いがそんなに分からないと思います。でも今回この概念を知ったことで、これからそういう違いにドンドン敏感になっていけるはずですよ。
こちらはサビの頭が6-3-4-1の進行。コード進行の情感とメロディの盛り上がりをうまくマッチさせているのが分かりますか? 激情的な前半でメロディも盛り上がり、穏やかな後半はメロディも穏やかに降りていきます。こういうところの相乗効果が、音楽のパワーを強力にするのです。
Tを使わないコード進行
そして当然、Tから始めないコードの動きも考えられます。
- IVVIVV
こんな動きをすれば、終始落ち着かないフワフワした感じを演出することができます。
こちらその実例。IVとVを繰り返して、たまにIIImが挟まる。決して着地しないコード進行は、“Don’t stop the dancing”という歌詞にぴったりですね。
こんな風にTDS機能分類は、曲の展開作りに関する大きな指標となると共に、いかに自分の表現したいテーマを曲に託すかという表現力にもつながる重要な知識なのです。
機能チャート
コード進行と機能のサイクルをチャートにしてまとめると、下図のようになります。
この図において「左から右」へ進む“機能の順行”は総じて聴き心地がよく、注意すべきは前回も述べたIIIm→Iのみです。それをリマインドする意味をこめて、この図ではそこだけラインを繋がないでおきました。
「右から左」の進行や、「同機能内での移動」に関しては、使いやすいもの/使いにくいものが入り混じっているのですが、とても長い説明が必要になるので、現状まだ解説はしないでおきます。