目次
ここまで4回に渡って「シェル」について解説してきたわけですが、ここでラストになります。最後は、7thシェルの紹介です。
1. 7thシェルの特質
7thは1,3,5と違って「濁り」を生み出す特別な存在です。大人っぽい雰囲気や、切なさを出すのにはぴったりの存在です。3rdと並んで活躍する選手と言えますが、濁りをプッシュするシェルなので、3rdよりは生きる場面が少しだけ限定されます。
Vのときには注意
やはりカーネルの影響というのは常にあるもので、IVやIImでは7thシェルとして乗るのが無傾性の音なので使いやすいですが、Vの時には7thシェルが「ファ」の音になるので、この強烈な不安定さはかなり使いどきを選びます。
V上のファはかなり強力な揺さぶりとして機能するので、使うときには心得て使う必要があります。「諸刃の剣」とも言えるこの7thシェルですが、特にIVIに乗せたときの美しさは代わりの効かないものがあります。
2. 7thシェルの実例
ここからはまた、実際の楽曲での使用例を見てみます。
Mr.Children – HANABI
1:39からのサビに注目。コードも日本人好みの進行で、メロも冒頭から7thの音を5連打しているという、まさにJ-Popの粋を集めたような曲です。ミスチルの桜井さんは意外にも理論派だそうで、彼と交流のあるスガシカオ氏が自身の著書の中で、「ルートに対して何度の音を気持ちよく聴かせるか、その好みがメロディを決定する」という旨の話を桜井さんから受けたと述べています1。
初恋の嵐 – 初恋に捧ぐ
サビ後半、「夢から」のところで、IV→Vと動く進行の両方で7thシェルを取っています。例の「V+7thシェル」で強烈なファが生じているわけですが、ここはその不安定さが完璧に活かされていて、心に訴えかけてくるメロディに仕上がっています。やはりポピュラー音楽の作曲というのは、歌詞やテーマに対していかに曲想を合わせていくかが重要。この曲は全体的に3rdと7thがよく使われていて、演奏は素朴ですがメロディはとてもカラフルです。
Piazzolla – Oblivion
アストル・ピアソラという20世紀のアルゼンチンの作曲家の作品です。ぜひ最初から聴いていただきたいですが、ともあれ1:36〜の盛り上がりの部分にご注目ください。心の奥を揺さぶられるような、ものすごい情感を持ったメロディが展開されます。「理屈抜きに素晴らしい!」と言いたいところですが、その陰にはやっぱりちゃんとした理屈があります。
上図のように、伸ばすところがみな綺麗に7度になっています。加えて、小節頭はほぼ3度で一貫しています。シェル編成が極めて美しく、それでいてメロディラインとしても情熱的な雰囲気を持っていて、理論的に組んだと感じさせないようなところがすごくて、まさに天衣無縫の境地といったところです。
3rdシェルで例に挙げた「サラバ、愛しき悲しみたちよ」 にしてもそうですが、シェルに統一性のあるラインは聴き手の耳にスッと入りやすく、理解しやすく覚えやすい。ひいては心に残りやすいメロディとなります。
この曲は、徹頭徹尾うつくしい流れで作られた素晴らしい曲です。こうして楽譜で「タネ明かし」みたいなことをすると、「3rdと7thを使えばこうできるのか〜」と思ってしまいますが、そうでもありません。当然これまでにやった「上昇・下降」や「跳躍・順行」「全音・半音」「終止・跳越」そして横のリズム等々も含めて完ぺきに動いてこそこの圧巻のメロディなのであり、知識・経験・感性の結晶とでも言うべき作品です。
3. シェルの気にしかた
さて、これでRt・3rd・5th・7thそれぞれのシェルが持つ特徴を確認できました! この「シェル」という概念は、メロディ作りにおいて極めて決定的な要素です。これまでの曲例を見ただけでも、シェル編成の巧さがメロディを魅力的にしているということは見えたかと思います。これもまた、世間一般では「センス」として片付けられてきた部分の正体のひとつなのです。
といってもこれは決して、曲作りにセンスなど関係なく理屈だけで良いものが作れるという話ではありません。結局シェルは表現したい内容をいかに音にするかという表現力に関する理論ですから、そこに明確な正解はなく、感覚的な判断も必ず要求されます。しかしそうだからこそ、理論的にこれを把握し、既存曲の分析を通じてシェルへの理解を深めることがセンスの向上に繋がる、才能と思われがちな部分を努力しだいで補えるということです。
作曲の際にシェルの構成を考えながらメロディを作るのが難しいという場合には、まず伴奏の方で、情緒豊かにしたいときは3rdと7thをトップに据え、シンプル・ストレートにしたいときはRtと5thを中心にするなど、活かせそうなところを見つけて意識するとよいでしょう。
そしてこういう度数感覚、和音感覚がよく馴染んでくれば、それは必ずメロディ作りのセンスに良い影響を与えます。習熟すれば、自分の出したい曲想にどんな度数が適しているのかが感覚で分かってくるようになるはずです。
まとめ
- 7thシェルはサウンドに濁りを与え、それが多くは「大人っぽさ」や「切なさ」に繋がります。
- 特にVのときに7thシェルを使うと、非常に不安定なサウンドになるので、使いどきを選びます。
- 表現内容に合わせて最適なシェルを選びながら、かつカーネルやモチーフの動きも自然で魅力的であることが、良いメロディの指標といえます。