ポリリズム

#1 リズムの合成

「ポリ(poly)」は英語で「多くの、複合した」という意味を持つ接頭語です。ポリリズムとは、
拍子(あるいはアクセント)の違う複数のリズムが同時に存在する状態を指す言葉です。

複数のリズムが重なるため聞こえ方はフクザツになりますが、上手く絡みあえば単一のリズムでは作れない面白いものが生まれるわけです。

ポリじゃないリズム

普通の編曲では、演奏者全員が同じリズムの枠組みを共有しているのが普通。

ポリリズムじゃない例

こちらは、4拍子ということで全員「4」が基調のリズムで演奏しています。エレキギターは、「シドソド」というフレーズの繰り返し。そうすると、あまりに単調で面白くないですよね。 そこで、ギターのフレーズを「シドソド」という4音ではなく「シドソ」の3音に変えてみます

ポリリズム
ポリリズムの例

するとどうでしょう! ご覧のとおり、コードとギターラインの関連性が複雑になり、飽きの来づらい演奏になりました。

最終的な私たちの認知は変わらず「4拍子」ですけども、ギターはこの場合「3拍」を1つのブロックにして演奏をしています。複数の拍子が合体しているこの状態が、「ポリリズム」です。 コード進行は8拍でワンセット、ギターは3拍でワンセット。そうすると、最小公倍数である24拍(=6小節)という長さの間は、常にコードとギターの絡み方が移ろっていくことになりますね。複雑性が増すのは当然のことだ。

ループの周期は長くなりますが、でも各パートの行っていることは極めてシンプル。このようにポリリズムは「シンプルだけど複雑」という二律背反を成す音楽構造なのです。


#2 ポリリズムの導入

ポリリズムを大胆に曲中に取り入れた典型例としては、おなじみPerfumeの「ポリリズム」があります。タイトルからしてそうですね!
1:37〜の間奏で「ポリリズム」という単語を絶え間なく繰り返しますが、この単語は5文字なので4拍子にはぴったりハマりません。4と5のポリリズムが生じているということです。また、シンセサイザーの音も4拍子の感覚が希薄なフレーズを繰り返していて、ここもポリリズムと言えます。 そのあと「リズム」や「ループ」といった3文字の単語を繰り返しますが、こちらも同様にして3と4のポリリズム。4拍子にぴったりハマらないので不思議な感じに仕上がっています。後半からはリズム自体も3を基調にしていて、拍子がかなり危うくなりますが、尺自体はきちんと4拍子のままなのです。

この曲はかなり目立つ使い方をしていますが、実際にはギターのフレーズなどメロディ以外で使うことで、控えめに用いるのが定番です。

実際の導入例

こちらは砂漠をテーマにした曲なのですが、メインリフのギターとストリングスにご注目。「タカタっ」というリズムは3拍ですが、それを4拍子のリズム上でずっと繰り返しています。周期が長くなることで、広大な砂漠の感じがどことなくイメージされますね。

2番Aメロのギターに注目。こちらも3/8拍子のフレーズを繰り返しています。フレーズ自体はずっと全く同じなのに、4拍子のリズムと変わっていくコードの中でそれぞれ違った様相を見せます。このようなやり方が自然に曲に組み込むのに最も適した形でしょう。かなり実践的な例と言えます。

もっと過激なやつも見てみましょうか。

出ましたプログレッシブロック界の王様キング・クリムゾン。ベース・ドラムが入る0:14のところからです! 4拍子の曲ですが、右側のギターがクセモノで、なんだか不規則に奇妙なフレーズを弾いているように聞こえますよね。でも実はコイツ、規則正しく7/8拍子のフレーズを弾いているだけなのです
こんな感じのフレーズを、ひたすらリピートしているだけ。

周期は7と8の最小公倍数、56拍になりますから、もうとんでもなく複雑な絡み合いになるのです。
こちらはLIVEバージョンですが、CDバージョンはベース・ドラムが入る前にギター2本だけでコレをやっていて、相当カオスです。

多少分かりやすい感じで弾いてみたのがこちら。わけの分からないリズムだったのが、ベースとドラムの登場でようやく「あっ4拍子だったんだ」と分かるカタルシスのようなものがあります。面白いですよ! この中毒性のあるループが、ポリリズムの魅力です。

実はこの「Thela Hun Genjeet」でもまだ可愛い方。もっとメチャクチャなやつ、いっちゃいますよ!

またもやキング・クリムゾンの、「Sex, Sleep, Eat, Drink, Dream」という曲です。この曲はドラムが2人いるという特殊なバンド編成をしていて、そのため尋常でないポリリズムが可能となっているのです。14:57からの暴れるゾーンを聴いてください。

ビル・ブラフォード(向かって右側のドラム)がメチャクチャやっている気がしてしまうのですが、そんなことはない。ちゃんと規則正しいリズムを叩いているのです。右ドラムのフレーズだけ取り出すと、こんなことをやっています。

曲のテンポはどこいった! って感じですね。加えてギターボーカルのエイドリアン・ブリューもギャーンギャーンと関係ないリズムで弾き続けているため、完全なカオスが生まれています。コレもまあ、複数のリズムが混在しているという意味では、ポリリズムです。

まあ、かなり極端なタイプの紹介に走ってしまいましたが、「ルキンフォー」や「カシミール」のような控えめの使い方は本当に便利なので、テクニックとして覚えておくとよいです。

#3 周期のずれないポリリズム

ポリリズムは、ここまで説明してきたように「フレーズ周期のずれ」を利用して、シンプルなフレーズを複雑にふくらませるのが基本です。しかしそうした周期のずれを感じさせない形のポリリズムのパターンというのも存在しています。

ひとつはラヴェルのボレロのような3連符の大々的な導入。

http://www.youtube.com/watch?v=PQb9x6H3TlE

おなじみのスネアのフレーズですが、これは3連符を多用していますね。スネアだけを抽出したら6/8拍子に聞こえます。この3分割リズムに他の楽器は4分割で重なっていくわけですから、これは紛れもなくポリリズムの一種です。

3拍子系同士の混合

もうひとつは、3/4拍子と6/8拍子を重ねる方法です。この2つの拍子は、同じ長さ・周期の中に収めることができますね。しかし「拍子は全部合わせて幾つかではなく、1小節のリズムがどう区切られるかが大事」です。3/4と6/8はアクセントが違うので別の拍子だとも説明しました。 アクセントの違う複数のリズムが同時に存在する状態がポリリズムですから、3/4と6/8を一緒に鳴らせばそれもやはりポリリズムの一種といえるでしょう。

http://www.youtube.com/watch?v=LYWU6sWSXLc

ゲーム「聖剣伝説3」のBGMのひとつ「Can You Fly Sister?」にて、このタイプのポリリズム用いられています。全体をとおして使われていますが、1:20からの部分がわかりやすいですね。高音でゆったりと鳴っている笛のメロディが3/4拍子、連続した8分音符で絶えまなく鳴っているフレーズが6/8拍子です。

メインパートのドラムは、「6/8拍子」というよりも、ズンチャズンチャしている「シャッフルビート」に近い使い方です。コレに対して、1:20からの笛の音は完全なる「3/4拍子」です。
それぞれ独立して聴くと全然違うリズムに聴こえますが、この2つは同じ枠の中に収まることが出来る親近性を持っているのです。

ですからメインパートはシャッフルで“飛行系乗り物”のワクワク感・推進力を表現しつつも、中盤ではワルツを思わす3拍子でファンタジー感を盛り込んでいるわけです。単なる技巧のための技巧ではなく、表現すべきテーマに合わせて使われているという点で、非常に理想的な活用例と言えます。

他にもたとえば5/4拍子の曲で「12/8拍子から2拍引いたリズム」と「4/4に1拍足したリズム」を複合したりなど、応用的なやり方は数多く存在するはずです。ポリリズムの肝は「シンプルなのに複雑」に聞かせられること。「ノリはいいけど奇妙」とか「キャッチーだけど不思議」とか、なかなか達成しがたい目標があるときには使ってみるといいかもしれません。

この節のまとめ
  • 拍子(アクセント)の違う複数のリズムが同時に存在する状態を「ポリリズム」といいます。
  • 基本的にはそれぞれのリズムが分かりやすいフレーズを反復し、その周期のずれによる規則的かつ不規則な曲想の変化を楽しむためのものです。
  • 周期をずらさずリズムの分割数やアクセントの違いでポリリズムを作るパターンも存在します。
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