目次
まず最初に扱うのは、リズム理論の根本をなすコンセプトである「拍子」です。詳細まで話し出すとややこしくなるところなのですが、難しいところはII章でやるとして、今回は基本だけを押さえていきたいと思います。
1. 拍子
音楽は、一定のリズムを繰り返しながら形作られていきます。拍子Meterとは、その曲の根幹となるリズムがどんな形でまとまりを作っているか。それを指し示す言葉です。
これはもう、変に言葉で説明するより、聴いてしまった方が手っ取り早いでしょう。
四拍子のリズム
ポピュラー音楽の世界で圧倒的によく使われるのが、この「四拍子」と呼ばれるまとまりの作り方です。
我々はこうやってリズムを数えるとき、無限に数字を増やしてはいきませんね。「1,2,3,4」のように一定の長さをひとまとまりと認識し、あとはそれをループさせる。4カウントを1セットと捉えるリズムが、四拍子ということです。
三拍子のリズム
対するこちらが「三拍子」。こちらは「1,2,3」でひとまとまりになっています。あえて平易な擬音語で言うなら、「ズンチャッチャ」のリズムです。
ポップスの世界では本当に四拍子がほとんどで、まれに三拍子が使われる程度。そして他にも拍子は色々ありますが、この2つが圧倒的にポピュラーです。
三拍子は、ワルツという形式の音楽で使われていることでお馴染みですね。
いずれも「ズンチャッチャ」のリズムです。BGMなんかを作る時には、こういう穏やかな曲想を演出するための選択肢として持っておくとよいですね。
ポピュラー音楽と3拍子
一方ポップスでは、ワルツの優雅な印象が強いためかさほど用いられず、4拍子の曲の方がマジョリティです。
椎名林檎やくるりの曲は、「ワルツの様式をポップスに持ち込んだ」という感覚ですね。主だってはワルツのようにゆったりした雰囲気を演出したい時に選択肢として挙がってくるでしょう。
アクセントを変えた3拍子
こちらはプログレッシブ・ロックというジャンルの曲ですが、ロックには珍しく三拍子が使われていて、スリリングな雰囲気を演出している一風変わった例です。
カウントをとると、こんな感じ。普通のワルツ調よりもちょっとリズムを複雑な感じにしていて、それがカッコイイんですね。ですから同じ拍子であっても、テンポとアクセントしだいで印象はずいぶん変わってきます。
変拍子
ポピュラー音楽において最も使用頻度の多い拍子は間違いなく「四拍子」でしょう。次いで「三拍子」の系統。それ以外の拍子はなかなか前衛的で、非大衆的なリズムになります。
こちらは「七拍子」でフレーズを作ってみた例です。ちょっと特殊な感じがしますよね。四拍子・三拍子系以外の拍子を総称して変拍子Irregular Timeと呼びます。特にプログレッシブ・ロックやジャズなどの技巧的なジャンルで用いられるもので、なかなか応用レベルの技術なので、これについてはII章で取り扱うことになります。
ちなみに四拍子・三拍子は略称であり、正式な名前はそれぞれ「4/4拍子」「3/4拍子」といいます。もともとは分数表記のところを、普段は略して分子の方だけ読んでいるんですね。平常時は略称で十分通じますので、こうした本格的なところについても、II章に進んでから確認していきたいと思います。
小節
こんな風に、音楽は4カウントや3カウントを1セットとしてその構造を築いていきます。このリズムの1セット、ひとまとまりのことを小節Bar/Measureといいます。
何をもって「ひとまとまり」とするかについては、やや慣習的な部分もあって、時には人によって見解が割れることもあります。
2. 拍
そしてこの「拍子」を作り出している、「1,2,3,4」の刻みひとつひとつのことを、拍Beatといいます。ですから、「4拍で1小節を成している曲は、四拍子である」などという風に表現するわけです。
あるいは「2拍目と4拍目にクラップ(手拍子)を入れよう」なんて話になったら、それは次のような演奏になります。
「拍」と「拍子」を理解することが、リズム理論の基本となります。
3. BPM
日常で「ビート」というとそれはドラムのフレーズを指したり、ヒップホップの世界ではバックトラック全体を指してそう呼んだりしますね。でも本来的な意味としては、ビートはこの「拍」という概念を指します。心臓の鼓動をHeartBeatと言うように、リズムの刻みひとつひとつがビートです。
そしてそこから生まれた用語が、BPM(Beats Per Minute)です。“Beats Per Minute”は「1分間に拍を何回刻むか」という意味ですね。拍を刻む回数が多い=テンポが速いということですから、BPMはテンポの速い遅いを表すモノサシとして使われているのです。
BPM=60
では実際にBPMの数値がいくつだったら、テンポはどれくらいの速さになるでしょうか?「1分」単位が基準になっていますから、最も分かりやすいのはBPM=60でしょう。1分間に60回カウントするのだから、1秒に1カウント。それがBPM=60の速さになります。
相当スロウですね。まあ時計の針のチクタクというのは音楽の感覚で言えばだいぶノンビリしていますから、それに合わせてカウントしたらこうなるのは当然の結果です。ゆったりなバラードでもここまで遅い曲はなかなか珍しいかと思います。
BPM=120
そこで、ポピュラー音楽の標準的テンポと言えるのが、これを倍にしたBPM=120です。1秒に2カウントする速さということですね。
ポップス、ロック、ダンス音楽などでよく聴くテンポ感になりました。中庸な速さで、かつ「2拍で1秒」という分かりやすさもあってか、多くのDAWでこのBPM=120がデフォルトのテンポとなっています。
BPM=180
これをさらに1.5倍すると、BPM=180となり、これはかなりのアップテンポに感じます。
実際に曲のスピード感がどう感じられるかはドラムのフレーズをどう叩くかによってもまた変わってくるのですが、まずこのBPMが曲のテンポの基本指標です。BPMの数値と時間の関係が分かっていると、曲の秒数を計算することができるようになるので、例えばCM曲やアニメのオープニング曲など時間が決まっている音楽制作でうまく計画を立てて時間調節をすることも可能になります。
東京事変の「能動的三分間」は3分のタイマーがカウントダウンするのを表示しながら3分ぴったりで演奏するパフォーマンスでお馴染みですが、この曲がBPM=120で作られているのは重要なポイントです。BPM=120なら1秒で2カウント、2秒で1小節と綺麗な数字になるので、180秒なら90小節の曲にすればピッタリ3分の長さにできる…という計算のもと作曲がなされているわけです。