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以前、「表拍」と「裏拍」について説明しました。リズムを刻む「拍」を二分割したとき、その前半と後半をそれぞれ「表拍」「裏拍」と表現するんでしたね。
それと似ているようでちょっと違う概念が存在しており、それが「強拍」と「弱拍」です。
1. 強拍と弱拍
「強拍と弱拍」はちょっと言葉として紛らわしいところがあって、最初に断っておくと、実際に鳴らす音の強い弱いとは関係のない言葉です。
強拍・弱拍というのは非常に観念的なもので、流れていく時間を区切って「4拍子」「3拍子」のような拍子のまとまりを作るときに、より重要となる区切りが「強拍」、重要でない区切りが「弱拍」と呼ばれます。
4拍子と拍の重み
例えばもし仮に、4拍子の曲の1小節の中で1回しかリズムを刻めないとしたら、どこで刻むかというのを考えます。
もしあなたがオーケストラの指揮者で、1小節に1回だけしか指揮棒を振り下ろせないとしたら、どこで振るか? それはやっぱり、各小節の「頭」だと思います。
この1拍目こそが1小節という箱を作る一番根本の屋台骨ですからね。「拍として重要である」というその重みを評して、「強拍」と呼ぶのです。
そしてじゃあもう1回だけプラスで指揮棒を振っていいとしたら、次はやっぱり、この1小節を半分に分ける3拍目をしっかり押さえておこうと考えるはずです。
だから4拍子では、3拍目が「中くらいに強い」ということ。それで、4回振っていいよと言われてようやく、スキマの2・4拍目を埋めるはずです。
もちろん、“実際の演奏の”アクセントは曲によって異なります。ただそうではなく、時間を分割してまとまりを作る拍子という概念、拍子という箱を形作る“骨組み”の、一本一本の“骨”の太さを評するのが、この強拍・弱拍という概念なのです。
そんなわけで四拍子なら1拍目が「強拍」、3拍目は「中強拍」、残った2・4拍目は「弱拍」と呼ばれます。
3拍子と拍の重み
3拍子だと、2拍目・3拍目がともに「1/3」に分割する点となるので、「強・弱・弱」という並びのサイクルになりますね。
この「強拍・弱拍」というのは基本的にクラシック時代のコンセプトで、モーツァルトのような古典的音楽の時代には、強拍にきちんとアクセントが来るようなフレーズ作りが見受けられます。
どちらもちゃんと「1」と「3」のところにフレーズのアクセントがありますね。それこそオーケストラだと指揮者にあわせてみんなが演奏しますから、そういった様式上の都合からも、強拍にアクセントが来る曲になりやすかったという文化的側面もあると思います。
これは日本の音楽でも同じで、童謡のような分かりやすい音楽では強拍にアクセントが来ることが多い。
「紅葉」とか本当に分かりやすくて、「あーきの」で2拍、「ゆーうー」で2拍という風に、2拍ごとのフレーズになっているので、1・3拍目が押し出されることになります。
2. バックビート
ただこれが現代のポピュラー音楽におけるドラムのリズムパターンを見てみると、むしろ目立つスネアの音で2・4拍の弱拍を強調するのがスタンダードです。
上はロックの、下はジャズの典型的なリズムパターンです。ここに乗るメロディに関してはまた話が別ですが、ドラムに関しては2・4拍を目立たせるのが基本。クラシックや童謡とはノリが正反対なんですね。
このように2・4拍目を強調した現代のビートのことを、バックビートBack Beatと言います。だから「強拍=強く音を出す箇所」みたいに誤解してしまうと、「なんで2・4拍目が“弱拍”なの?スネア叩いて目立ってるじゃん」と混乱を招きます。「強拍・弱拍」は、あくまでも先ほど述べたような、演奏以前に拍子というかたまりを構成するうえでの最も根幹的な概念だということ、そしてクラシックの時代に生まれた言葉であることを忘れないでいてください。
この「バックビート」は、以前やった「ダウンビート」とはまたちょっと違う話ですね。
ロックは基本的にみんなスネアが2,4拍目に入る「バックビート」ですが、さらにハイハットが表拍を出すか裏拍を出すかはまた別で、それは曲によって違うというのが以前のお話。だから「バックビートでアップビート」もあるし、「バックビートでダウンビート」もあるということですね。ちょっとややこしい。
ワンドロップ
ただロックもジャズも、キックをちゃんと1拍目に鳴らしているという点では、ちゃんと強拍にも重さを置いていると言えるかもしれませんね。
レゲエでは、さらにバックビートの比重を高めるため、1拍目のキックを鳴らさない「ワンドロップ」というリズムパターンが定番になっています。
1拍目にキックを鳴らさないというのは珍しくて、レゲエ以外のジャンルではあまりお目にかかりません。また裏拍をギターで強調するのもレゲエの特徴ですね。この南国風というか、妙に軽快なリズムの秘訣がワンドロップにあります。
ちなみに、レゲエと同様に陽気なイメージのあるサンバでは、逆にずっしりと強拍にキックを鳴らします。
念のため歴史的側面を補足すると、レゲエはだいたい1960年代後半にジャマイカで生まれた音楽。対するサンバは1800年代末にブラジルで生まれた音楽。
登場順としてはクラシック→サンバ→ジャズ→ロック→レゲエの順で並ぶことになりますから、ジャズよりも先輩であるサンバにバックビートの文化が無いことは頷けますし、後発であるレゲエが変わったリズムを生み出したのも納得です。
だからリズムというのは本当に大事で、思った以上に曲想へ直結するものなのです。またジャンルによって様式が全く違うという点もポイント。そのジャンルの持つリズムの特徴を押さえないと、どうも“にわか”っぽく感じられてしまうと言う可能性もあります。