クラーヴェ

リズムの世界にはいくつかの「定番リズムパターン」というのが存在しますが、それを整理するにあたって、とても役立つのが、クラーヴェClaveの知識です。

クラーヴェは、キューバ・ラテンアメリカ系音楽で用いられる、リズムパターンの枠組みのようなもの。それらを取り入れることで、ラテン音楽のようなノリの良さを取り入れることができます。いくつか種類があるのですが、代表的なものが、「ソン・クラーヴェ(Son Clave)」です。

#1 フォワード・クラーヴェ (3&2)


1小節目に3回、2小節目に2回のアクセントがちょうどこのタイミングで来るリズムパターンを、「ソン・クラーヴェ」といいます。
自由派の参考文献のひとつである「The Jazz Theory」ではこれをフォワード・クラーヴェForward Claveと呼んでいて、このサイトでもこの呼称を推奨します。
こんなゆったりしたリズム、ポピュラー音楽とは関係が薄いと思いますか? しかし! これを倍のテンポにしたリズムを聞いたら、そんな考えも消え失せるでしょう。

これくらいのスピード感になると、何か聞き覚えがあるはずです。

実際の曲例

こんな感じだ! こちら、アクセントを叩く頻度は微妙に減っていますが、特徴的なリズムはきっちり引き継いでいます。

中島みゆきのヒットソング「地上の星」にもこのリズムがドラムで全面的に使われています。サビのメロディもこのリズムを前面に押し出すような構成になっていますね。重苦しい曲なのにどこか躍動感を感じるのは、このクラーヴェの効果もあります。


こちらもやっぱり、微妙に後ろの方を変えていますが、フォワード・クラーヴェから生まれた亜種と言えるでしょう。メロディもほとんどクラーヴェのリズムで歌っているので、ロマンチックさの中にも情熱的なノリが感じられるのです。


ダンスミュージックでもこのリズムは使えます。アクセントの感じとしては「地上の星」と同じですが、サウンドが違うため、かなり印象は違って聞こえます。

ポイントは、サウンド次第では全然ラテンっぽさを感じない点です。やっぱりリズムというのは音楽の一番根底にあるので、上にどうカブせていくかで全く聞こえ方が違うんですね。普通に、「ポップス王道リズムのひとつ」と呼ぶにふさわしい地位を確立しています。

#2 リヴァース・クラーヴェ (2&3)

先ほどのフォワード・クラーヴェの1小節目と2小節目をひっくり返したパターンもおなじみです。


パターンがひっくり返っているので、こちらはリヴァース・クラーヴェReverse Claveと名付けられています。こちらはちょっと大人びておしゃれな気がしますね。

実際の曲例

こちらはドラムがはっきりと2:3のリズムを奏でている典型例です。可愛いサウンドとセットにすることで、陽気でファニーな雰囲気を演出しています。

こちらは右側のピアノが弾いているフレーズにご注目。やっぱり微妙にアクセントを変えたりしていますが、概ねリヴァース・クラーヴェのリズムを意識しています。切ない感じの曲調の内側に、ラテン風な熱情が潜んでいるのです。

クラーヴェの魅力

クラーヴェは、適度にシンコペーション(裏拍のリズム)が交えられていることにより、軽快さを生み出しています。この状態よりもさらに裏拍のアクセントを増やせば、より複雑なノリへ変えていくことができるでしょう。

#3 Tresillo

ソンクラーヴェの、「3」の方だけを取ってきたリズムには、「Tresillo(トレシーロ)」と呼ばれます。日本語では、全然広まっていない名称ですね。由来はスペイン語の「3連符」という意味の単語からで、発音もスペインに寄せるなら「トレシーヨ」となります。


クラーヴェの特徴的なところだけ抜き取ったものであり、よりキャッチーに聞こえます。

実際の曲例



2曲とも、スネアがきちんとこのアクセントを叩いているので、リズムが非常にわかりやすい。

主にベースが、Tresilloのリズムを押しています。これくらいささやかな使い方もあるんですね。
またこれまでと同じように、テンポを倍にしたものもメロディラインによく使われます。

こちらもやっぱり、露骨なノリの良さの演出に繋がります。特に、歌モノのメロディで活用されることが多い。

実際の曲例


1:13〜のサビで、メロディがこのリズムを繰り返しています。ゆったりなテンポながらも躍動感があるのは、Tresilloの力と言ってもよいでしょう。

やはりサビのメロディがTresilloを連発している例です。やっぱりリズミカルで、魅力的です。

メロディ編ではこの曲がABサビでずっと同じリズムを繰り返していることを説明しましたが、そのメロディモチーフの基盤になっているリズムがTresilloです。

先ほどのスタンドバイミー同様、ベースがささやかにTresilloのリズムをしている例です。こういういかにもラテン風なベース、よく耳にしますよね。実はクラップ(手拍子)も2:3のクラーヴェを叩いていて、ラテンリズムの合わせ技になっています。

EDMとTresillo

また、このノリの良さはダンスミュージック、特に昨今のEDMで非常に頻繁に使われています。


こんな感じのリズム、なんだかどこかで聞いたことありませんか? その場合、1拍目のパーカッションは抜け落ちることが多い。それは、キックをズシンと聴かせるためでしょう。


ソン・クラーヴェよりもさらに裏拍が多いため、もっと急き立てるようなリズム感に繋がっています。その曲想が、EDMとよく合うんですね。このダンス系のリズムは、「夏っぽいリズム」として紹介されたりもします。

擬似三連符

このTresilloのリズムは、拍を三分割する「三連符」と似ています。


上がTresilloで、改めて確認しますと時間の分割比は「3:3:2」です。下は純粋な三連符で、時間の分割比は「1:1:1」です。似ていますね。
ですから、Open Music Theoryでは、このTresilloを擬似三連符Fake Tripletsと呼ぶのがよいのではと述べています。確かに、イメージしやすい名前です。
また、クラーヴェの1小節目だけを取ってきたということで、「One Bar Clave」と呼ぶ人もいます。

#4 Tresilloの拡張

ここからはもう、クラーヴェとは関係なくなってきます。「擬似三連符」の特徴的なリズムをさらに拡張させたリズムパターンが、ポピュラー音楽ではよく使われます。



こんな風に、ロック系の曲でスネアを使ってアクセントを表現するのが一般的。
これを倍テンポにしたパターンは、さらに汎用性が高く、実に様々なジャンルで用いられています。

ソン・クラーヴェとちょっとアクセントが似ていますが、微妙に違います。こちらは特にシンセサイザー系音楽との相性ばつぐん! 聞いてみましょう。

実際の曲例




こういった定番のリズムのいいところは、なんといっても聴き馴染みがあるということ。それは「心地よさ」に直結しますからね。メロディに活用するもよし、伴奏に活用するもよし。いろいろ試してみてください。

この節のまとめ
  • キューバ・ラテン系音楽で使われる基本のリズムパターンを「クラーヴェ」といいます。
  • クラーヴェの中には、ポップスでよく使われるリズムがいくつかあります。
  • クラーヴェから派生して生まれたような定番リズムがいくつもあります。自分でアクセントを変えてアレンジしてみるとよいでしょう。

Continue