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ビートとサブディビジョン

4. 三連符

そんなわけで音楽におけるリズムグリッドは4、8、16…とドンドン2で割っていくのが基本形ですが、一方で奇数による分割ももちろん存在し、その中でも最も代表的なのが三分割です。

ドラムにおける三連符

こちらは本当に典型的なパターンで、偶数グリッドでビートを続けたあと、最後のフィルインで突然3分割のグリッドを用いる。リスナーがそれまで頭の中で構築していたリズムの枠組みからあえてズラすことでリズム・アンサンブルに揺らぎを生み、注意を惹きつける良き“スパイス”として働きます。

三分割のリズムで演奏される音符を、文字通り三連符Tripletsと呼びます。偶数グリッドを基調とした世界において、三連符は異物です。ハーモニーのアンサンブルにおいても、異物をあえて含ませることで「おや・・・?」という緊張感を生み、元の澄んだハーモニーに戻ることで安心させるという緊張-弛緩のテクニックがあります。三連符はリズム・アンサンブルの世界でそれに相当する技法だと言えるでしょう。

実際の楽曲での三連符の使われ方を覗いてみます。

『Good Times Bad Times』は、ハードロックバンドLed Zeppelinの代表曲のひとつで、キックを使った象徴的な3連符のフレーズで知られています。こちらの動画はそのドラミングを楽譜にしたもの。「3」のマークがついた音符が三連符で、ドラム譜に詳しくなくても「ここが三連符か!」というのは分かると思うので、ぜひ楽譜を追いながら聴いてみてください。三連符がスパイスとして音楽にいかに効果的な刺激を与える役割を果たしているのがよくわかります。

メロディにおける三連符

三連符は非常に耳に残りやすいため、リズム隊だけでなくメロディにアクセントをつける目的でも使用されます。

Maroon 5の『The Sun』では、サビ部分(0:48〜)で三連符が使われています。三連符のしつこい反復が、この曲の特徴となり、メロディを印象的なものにしています。

リトル・マーメイドの『パート・オブ・ユア・ワールド』も、三連符のアクセントを活用した素晴らしい一例です。例えばサビ(1:34-)の「歩いて 走って 日の光」の箇所、その直後の「自由に人間の世界で」の箇所で三連符が使われていて、地上への強い憧れや期待があふれるようなエネルギッシュさが、グリッドからあえて外れたリズムによって表現されています。

ラップフロウにおける三連符

ラップにおいても、三連符に基づくフロウは基本的な技法のひとつです。偶数グリッドから変化をつけたいときによく使用されるほか、ほとんど三連を基本としてラップを続けるような場合もあります。

特に2020年代では、3分割した3マスのうち最初の2マスだけ埋めて最後の1マスを空ける、「3連・後抜き」のフロウは定番のひとつになっています。上の30秒プレビューの中では『100』と『ありのまま』でそれが使われていますね。

3連・後抜きのフロウ。ワン・ハネ・ハネ・ハネと、3分割したグリッドのうち最初の2つだけ打点を残し、最後の1つを空ける。

あえて空白を設けて詰め込みすぎないことがかえってクールに感じられ、また空白があることで、完全にグリッドを1:1:1に分割せず打点をずらしてフロウに揺らぎを生むバリエーションも作りやすいといった特徴があります。

三連符を基調にする

時には三連符が単なる局所的なアクセントとしてではなく、むしろメロディの中心的なリズムとして採用されることもあります。

ドビュッシーの「アラベスク第1番」では、規則的な偶数グリッドと三連符グリッドが交錯し、美しいアンサンブルを生み出しています。特に6小節目からの、左手が偶数分割・右手が3分割になったところは異なるグリッドが混在していて面白いですね。

三分割グリッドのスタイルいろいろ

三分割を基本グリッドとするリズムスタイルは他にも存在します。アフリカやアイルランドの民謡、ブルース、ジャズ、ブーンバップ、EDMなど、さまざまなジャンルで見ることができます。

これらには「三連符」に由来するものもあれば、リズムのずれや揺れによって生まれたとされるものもあれば、三拍子と四拍子を合体したような構造になっているものもあり、実にさまざまです。こうしたスタイルについては、II章へ進んでから詳しく見ていくことになります。

三連符以外の連符

拍を3分割するのが三連符ですから、5分割なら五連符、7分割なら七連符と呼ばれる。そうしたものを総称して連符Tupletといいます。三連符以外の連符はリズムをとるのが難しく、ポピュラー音楽よりもジャズやフュージョンといった技巧的ジャンル、もしくは民族音楽といった方面で多く用いられる高度な技法です。ただ現代では打ち込みでいくらでも複雑なリズムが作れますから、それで面白いフレーズにチャレンジする人もいます。

一見シンプルなように見えて実は相当に奥深い世界が広がっているのがリズムという領域なのです。

まとめ

  • 拍をさらに均等に分割したもの、あるいは分割することをサブディビジョンと呼びます。
  • 1/8グリッドを基調にして作られるリズムは「8ビート」、1/16グリッドなら「16ビート」と呼ばれます。
  • リズムのサブディビジョンは、どの楽器によっても形作ることができます。主にハイハット、ライドシンバル、シェイカー、タンバリンなど高く軽い音で担われることが多いですが、これに限りません。
  • メインのリズムに比べて小さな音量で装飾的に演奏される音は、「ゴーストノート」と呼ばれ、リズムのアクセントをより繊細なものにします。
  • グリッドを三分割した音は、「三連符」と呼ばれ、偶数グリッド中心の楽曲内では注意を引く存在として機能します。
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