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ビートとサブディビジョン

1. ビートの種類

ドラムキットを構成する「3点セット」のうち、ハイハットがいちばん細かくリズムを刻み、詳細なリズム感を決定するという話を前回いたしました。そのリズムには簡単な分類が存在しています。それを紹介するのが今回の内容です。

8ビート

こちらはよくあるビートパターン。ハイハットの刻み方をみると、1小節の中で8回のリズムを刻んでいることが分かります。少しDAW的な言い方をすると、1/8のグリッドがビートの基本となっています。
このように、1小節を「1/8」のグリッドで分割する刻みが基本単位となったリズムパターンを、8ビートといいます。8ビートは、ポップスの多くのジャンルで「基本形」とでもいうべき形です。

16ビート

でももちろん、ちょっと頑張ればハイハットを2倍の頻度で叩くこともできます。

こんな感じですね。刻みが細かくなるため、当然軽快なリズムが生まれます。ファンク系のジャンルで愛用されているほか、ロックでもよく使われます。このように、「1/16」のグリッドを基調にしたビートを、16ビートといいます。

テンポの遅いものから速いものまで取り揃えてみました。速い曲では疾走感の演出に16ビートがピッタリで、逆に遅い曲では、隙間を埋めてリズミカルにするような効果がありますね。

サブディビジョン

リズムの構造分析における“基本単位”と言えば、それは前回もあったように“拍”です。「1拍」という長さは、DAWでいうところの1/4グリッドに相当します。

1拍のグリッド…1小節を4分割しているので、1/4と言える

そうすると1/8グリッドは言うなれば「0.5拍」ぶん、1/16グリッドは「0.25拍」ぶんというように、小数レベルの世界に入っていますね。このように、1拍をさらに細かく等分していくグリッド分割のことを、サブディビジョンSubdivisionといいます。

11ビート?

先ほど、1/8を基本単位にしたとか、1/16を基調にしたとか、ちょっとボカした言い方をしました。このあたりちょっと曖昧な部分があって、理論書というよりミュージシャンの現場で広まっているような言葉ですから、厳密に定義されている類のワードではありません。現実では8ビートと16ビートのちょうど中間みたいな状態も発生しうるでしょう。

こちらの曲は1小節につきおおよそ11~12回ハイハットを叩いていて、1/8グリッドと1/16グリッドどっちを“基本”と取るべきか、実にどちらとも言い難い境界線上にあります。この場合は、まあ「装飾多めの8ビート」として捉えるかな…といったところですが、本当に微妙なところです。ただしいずれにせよ、「11回叩いてるから11ビート」とは絶対になりません。8ビートや16ビートは、あくまでもグリッドのサブディビジョンに基づいた名称です。

32ビート?

2010年台のヒップホップやベースミュージックで急激に台頭したトラップという音楽スタイルにおいては、16ビートよりもさらに刻みを細かくした、いうなれば“32ビート”や“64ビート”のリズムも頻繁に見られ、このジャンルの一つの特徴となっています。

トラップはキック・スネアが刻むリズムが遅いため、これだけのハイハットを詰め込むことが可能となっています。現在一般的な名称として浸透しているのは16ビートまでですが、理論上は32ビート、64ビートなどと呼んで差しつかえないでしょう。

例えばSkrillex & Diplo の『To Ü』では、1:56-や3:01-の箇所で実際に激烈高速なハットの刻みを聴くことができます。ハイハットが過激化した背景にはやはり電子ドラムとDAWという環境の影響が大きく、生のドラムでここまで激しくハイハットを刻むことはなかなか稀でしょう。

ただ人間の手であっても、時にはちょっとした技巧としてこれくらいの速さで刻むことはあります。

こんなふうにハイハットとスネアを組み合わせてリズムを刻んだりも。おしゃれですよね。こうした奏法は特にフュージョンのような技巧的なジャンルで見られます。

こちらのライブ演奏では、3分あたりからドラマーのJD BeckとパーカッショニストのNate Werthによる人力の“32ビート”を聴くことができます。

プロドラマーたちの演奏には、単にスパーンと鳴らすスネアとは別に、このような「装飾」としてのスネアが細かく紛れこんでいます。その「装飾」の巧さが、ドラマーとしてのスキルのひとつなのです。

2. ゴーストノート

たとえハイハットが8ビートを刻んでいても、スネアがごく装飾的に1/16や1/32グリッドの打点を加えることで、リズムのアクセントの曲線をより繊細で複雑に描くことができます。そのようなリズム隊の目立たない装飾的な音のことを、ゴーストノートGhost Noteといいます。

ちょっと、ゴーストありとなしでサウンドがどう変わるか聴き比べてみましょう。

ゴーストノートなしのドラム演奏
ゴーストノートありのドラム演奏

ささやかではありますが、非常に大きな違いです。前者は単にアクセントを表現しているだけで味気なく、対して後者は繊細にリズムの形が描き出されています。

ゴーストノートはドラムに限らず、ベースの演奏でも重要になってくるものです。

ゴーストノートなしのベース演奏
ゴーストノートありのベース演奏

ゴーストノートが微妙なリズミカルさを生み出しています。ほんのちょっとの違いですが、これが曲になった時、大きな印象の違いとなって現れてきます。
打ち込みでドラムパートを作るときなんかは、このゴーストノートを意識してあげると、一段階クオリティがあがります。手間はかかりますけどね。
エレキベースについても、このゴーストノートの音が収録されているものが有償製品だとよくあって、細かく作り込むことでリアルさを追求できるんですよ。

3. リズム・アンサンブル

サブディビジョンを形成する細かい「刻み」を担当する楽器は、決してハイハットに限りません。いくつか例を見てみましょう。

ハイハットとシェイカー

特にダンスミュージックでは、ハイハットが8ビートをやる傍らで、シェイカーが16ビートを重ねるようなリズムが定番のひとつとしてあります。

タム

ほかの選択肢として、ハイハットの代わりにタムを使う方法もあります。

高周波数域を中心にした軽やかさはなくなる代わりに重厚感にあふれていて、特にロックでは愛用されているスタイルですね。ロックバンドでは、タムと一緒にタンバリンやシェイカーを組み合わせて、低域と高域の両面からリズムセクションを設計するのも一般的です。

スネア

似たところで、タムではなくスネアを細かく刻んで演奏する方法を選ぶこともあります。特にカントリーミュージックでは、これが定番のスタイルのひとつです。

こうしたビートはトレインビートTrain Beatsと呼ばれています。たぶん、列車が線路を走る音に似ているからでしょう!🚂
カントリーミュージック以外でも、トラップスタイルのビートが登場して以降、細く繊細なスネアを使う手法はエレクトロニック系の楽曲でも一般的になりました。

New Jeansの「Ditto」では、スネア+クラップ+シェイカー/ハイハットを組み合わせて、緻密なリズム構造を作り上げています。

ベース

またテクノ、トランス、ガバなどのベースを主体としたジャンルでは、ときにベース(あるいはリード)が最も速い(細かい)フレーズを担当し、 ハイハットは8分音符の刻みだけだったり、そもそも省略されたりすることもあります。

もちろん他にもギターのカッティングやシンセサイザーのアルペジオなど、どんな楽器でも細かなサブディビジョンを表現することはできます。異なるアクセントが組み合わさっていくことで、リズム全体の形が作られていくのです。異なるピッチを組み合わせてハーモニーのアンサンブルを作るように、リズムの世界でも異なるアクセントやビートの分割を組み合わせて、リズムアンサンブルを築いていくわけです。

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