目次
今回は、音楽理論を本格的に進めていくに当たって重要になる概念を紹介します。それが「度数」です。
1. 度数とは
突然ですが、ここに「ドとミ」がありますね。
もちろんこの世界には「ドとソ」もあります。
それでは問題です。「ドからミ」と、「ドからソ」。2つの音の距離がより離れているのはどちらでしょうか?
・・・こんなの考えるまでもなく、「ドとソ」の方ですよね。
それでは第二問です。「ド」と「ソ」は、どれくらい離れているのでしょうか?
そう、こんな簡単なことひとつとっても、名前をちゃんとつけていなかったことに気づきます。音楽とは、音の重なり。それを説明していくためには、こういう「音の距離」を表す単位が必要なのです。
もちろん、音の距離を測るのにセンチメートルとか使うわけはないですし、周波数を示すHz(ヘルツ)とかを使うのもややこしい。どう数えるのがいいでしょうか? 選ばれたのは最も原始的で直感的な方法 ── 「ドレミの数」です。
「ドからミ」は、ド・レ・ミで3つの音を挟むので、距離は「3度」であるという風に表現します。「度」という単位を使う。そして、この単位のことを「度数degree」と言うのです。「ドとソ」だったら、ド・レ・ミ・ファ・ソだから「5度」です。
数え方に注意
念押ししておくと、スタート地点の「ド」もゴール地点の「ソ」も、数えるときに呼び忘れないというのが大事ですね。うっかり「ドからソの度数は・・・レ・ミ・ファ・ソで4度か!」という事案が発生しがちです。
度数の数え方は、カレンダーの日数の数え方と同じです。最初も最後も勘定に入れる。それさえ覚えておけば間違えません。
例えば8/8〜8/15までお休みだったら、これ7連休じゃなくて8連休なんですよね。いまだに一瞬、混乱する時があります…。度数も同じシステムです。
そうすると、「ドからド」という、要するに「距離ゼロ」の状態も、「ド」という1つの音を数えるので「1度」となります。そこも要注意です。
なぜ距離ゼロが1度?
なぜ数え方が0からではなく1からスタートするんでしょうか? 一説によると、ゼロの概念が発明されてヨーロッパに持ち込まれるよりも先にこの度数の測り方が浸透していたとか言われています。最初は違和感があるかもしれませんが、慣れたら何てことでもなくなりますよ。
2. 実際の用例
度数は、コード理論に限らず、音楽全般においての基礎単位です。例えば歌モノをやっている人だったら、「3度下でハモリを入れる」なんて言葉を、聴いたことはありませんか?ミスチルの曲にも、「だけど3度下を歌いたがった」なんて歌詞が登場します。
2:15〜のところですね。「3度下でハモる」とは、例えばメインメロディが「ドレミー」だったら、綺麗にその3度下、つまり「ラシドー」というコーラスでハモるという意味。
ハモリを歌うときは、「3度下」で歌うのが定番中の定番です。ちなみに、ハモリを「3度上」に変えるとこんな感じ。
「3度上」のハモリも、非常に一般的なハモり方のひとつです。
音階の話
他の用例としては、例えば前回話した「レラティヴなスケール」を説明するとき。「構成音が同じで、中心だけをずらした音階」がレラティヴなスケールでした。
これについてもこれまでは「Cメジャースケールの中心を2つ下にずらすと、Aマイナースケール」と説明しましたが、これも“度数”で言うと話が変わって、「Cメジャースケールの中心を3度下にずらすと、Aマイナースケール」と言うことになります。
またも距離ゼロに注意
この「3度上」とかいう言い方が本当にややこしくて、「ドの3度上」とか言われると、やっぱり「レ、ミ、ファ」と数えたくなるのが人情。でも違います。ドの3度上と言われたら、ミを指すのが慣習です。
これは数学的・算術的な感覚とは合致しないので注意してください。「ドの3度上の音」という言葉の意味するところは、「ドと3度の関係になる、上方の音」ということなんですね。
慣習として「3度上」という言い方になっていますが、「上の3度」と捉えた方が実情に近いです1。
ですからこの「度数」の世界では、「1度下」とか「1度上」と言う言葉が出てくることは基本的にありません。ドの1度下は(強いて言うなら)ドだし、ドの1度上もドだから、そんな回りくどい言い方をすることは現実的に無いわけです。
オクターブ以上離れている場合
もちろん1オクターブ以上離れても、数え方は同じ。だから「ドと、そのオクターブ上のミ」だったら、以下のようになります。
「10度」になります。ただのド〜ミと比べると、鍵盤を7つ多く跨いでいますから、3度だったのが10度になったのです。ここから考えて、「1オクターブ距離を広げる = 度数の数字は7増える」という公式が成り立ちますね。
3. 黒鍵を使う場合
たとえば「ミ♭」のように、フラットやシャープがついていたとしても、数え方は変わりません。「ミ♭〜ラ」だったら、ミ・ファ・ソ・ラで「4度」です。
ただ、「ミ♭」は位置的には「レ♯」と同じですよね。これを「異名同音」と言うのでした。実践の場面では、キーだとか前後関係からどちらで呼ぶべきなのが判別できます。もしコレの正体が「レ♯」だった場合には、レ・ミ・ファ・ソ・ラで「5度」ということになります。
なんだかややこしい気もしますが、「ミ♭」とみるべきか「レ♯」とみるべきかは、理論を学び実践する中で次第に見えてきます。
4. 正確な度数
しかしながら、実はこのままでは少し不完全な状態なのです。お気づきでしょうか? この方式では、「ド〜ミ」も「ド〜ミ♭」も同じ「3度」になってしまいます。
こちらもやっぱりド・レ・ミで3つぶんですから。このままでは細かい話をする時に困ってしまいます。
ですから、正確を期すための「もっと細かい名付け」が存在するのですが・・・その命名規則はなかなかややこしくて、理論を学ぶうえの壁のひとつでもあります。正直メロディについて論じるくらいであれば、数字だけの度数でもだいぶ成り立ちます。ですから、「準備編」である今回では、ここまでにしておこうと思います。
一方で、コード理論を論ずるのであれば、詳しい命名も少し必要になってきますから、「コード編」の方では詳細な度数について取り上げます。自由派音楽理論では、今回学んだカンタンな数え方を「簡易度数」、後にコード編で学ぶ正確な数え方を「詳細度数」と呼び分けることにします。
5. 音程と音高
さて、ここまでずっと「音の距離」という言い方をしてきましたが、この2つの音の相対的な距離のことを、音楽理論では「音程Interval/インターバル」といいます。
一般に「音程」と言えば、それは音の高さのこと。歌を歌うときなんかに、「音程がズレてる」って言いますよね。しかしあれは厳密にいうと誤用で、そういった音の高さについては「音高Pitch/ピッチ」という言葉があります。「ボーカルにピッチ補正をかける」って言いますよね。あの「ピッチ」は「音高」。音程は「二音間の距離」なのです。
- 音程 (インターバル)
- 二つの音の高さのへだたり。「度数」という特有の単位で表現するのが通例。
- 音高 (ピッチ)
- 音の高さのこと。
- 「A4」「B♭1」のようにアルファベット音名と数字で表す方式がある。さもなくば、周波数で表す。
- 度数 (ディグリー)
- 二つの音の高さのへだたりを測る際に用いる単位。
- ドレミを跨いだ数で測る。
「音程」という言葉は、現在ではすっかり元とは違う意味で広まっています。そのためこのサイトでは、誤解を生みうる「音程」という表現はなるべく使わず、どちらかというと「度数」という言葉を使っていきたいと思います。音の距離は「音程」で、それを測る単位が「度数」ですから、「音程を調べる」と「度数を調べる」はほとんど同じ意味になりますのでね。
まとめ
- 2つの音の間の距離を鍵盤の数で測った数値、あるいはそのような数え方を、度数といいます。
- 音の距離は、端的に言えば「ドレミの数」で測ります。その際、最初の音を勘定に入れることを忘れないでください。