目次
3. 接続系の発展応用
基調和音どうしの接続が自由だったのに対し、シャープファイブやフラットファイブといった特殊コードたちの進行はどうしてもやはり、効果的な使い方というのは限られてきます。そしてそれは、パターンとして暗記していくしかありません。
ただ場合によっては、コントロールファクターを頼りにコード進行を組み立てるという応用法も考えられます。例えば…
dim7どうしの接続
不気味なサウンドでおなじみのディミニッシュセブンスを連発する進行を作るという、ポップスの教科書にはないタイプの作り方をしたいというこちらのご相談。
色々なディミニッシュセブンスコードを、どう繋ぐのがよいか? 接続系理論を指針にしてコード進行を組んでみます。
①3▼の連発で作る
「o7」は「ディミニッシュセブンス」を意味する略記シンボルでした。こちらはC-A-F♯-E♭というルートの進行をしたもの。ディミニッシュセブンスの特徴は「コードトーンが全員みな短3度間隔」だったので、この進行形だとご覧のとおり、構成音のメンバーが全く変化しません1。
接続系理論から見るとこの進行の特徴は「3▼の連続で落ち着きがあり」「構成音の変化が全くないため、音楽が展開した感じは極めて薄い」という、かなり安定性重視のコード進行だと言えます。
②2▲2▼5▼で作る
一方こちらは2▲–5▼–2▼という繋ぎ方。dim7で2度の接続をすると、4人全員メンバー交替ですので、サウンド面で大きな変化があります。今回はそれが、どこか「緊張感が上乗せされた感じ」を演出していると思います。また5▼はクッキリと推進力のある接続でしたので、ここもやっぱり一歩前に進んだような情感があります。
聴き比べると先ほどの例はやはり、一箇所に停滞している感が強く、ストーリーが展開していないように受け取れると思います。ですから同じ「ホラーBGM」でも、①番目のパターンは「どこかにじっと隠れているような場面」、②番目のパターンは逆に「暗い通路をゆっくり歩いているような場面」にそれぞれよくフィットするでしょう……なんていう風に、曲想を理論的に考えることができます。
基調外和音と3度接続
ジャズやポップスではクッキリした進行が好まれますが、ジャンルによってはそうではない。実際テクノやダンスミュージックでは、抑揚の少ない3度進行が好まれるなんて話もありましたね。ほか映画音楽の世界では、3度進行で基調外和音と繋ぐパターンが定石のひとつになっています。
こんな具合で、CとEを交互に繋ぐ。それが基調和音のEmではなく、EだったりEmΔ7だったりするというのが面白いところ。やっていることはシンプルなのに、なかなか壮大な映画音楽っぽくなりました。
CEと来たらその次はAmなんかに進むのがポップスの定番ですけども、そんなエモーショナルな進行をしてしまうと、こういうBGMでは目立ちすぎですね。3▲3▼が作るゆったりとした動きが、音楽に宇宙的な広がりを与えています。
さらにセブンスコードを多めで複雑化させてみました。Cコード始まりなのに、3つめはCmΔ7という、パラレルマイナーの中でも「クセつよ」のヤツを入れてみました。最後のAmなんかも、Cメジャーキーの世界観で考えたらかなり異質ですね。このような「臨時記号ありのIII・VI系コード」達を総称して、クロマティック・ミディアントChromatic Mediantといいます。
こうした進行を考えるにおいても、「共通音が多いほど音響上の変化が少なく、繋がりがスムーズである」という接続系理論の基本的な原則は通じます。臨時記号のつく和音になっても、セブンスコードになっても、これは変わりません。例えばEΔ7からCmΔ7への進行は突拍子もないように見えて、実はB,D♯(=E♭)の2音がそのまま同音保持されています。上の例ではそれを利用することで二者をスムーズに接続しました。ですからある意味では、こういう基調外和音を含む特殊な進行でこそ接続系理論の考え方が役に立ってくるとも言えます。
型は色々
こんな「dim7を4連発」とか「好き勝手に基調外和音使いまくり」とかいった進行をやってみようという発想自体がなかったという人もいるかもしれません。でもI~II章でやってきた基調和音主体のシステムはあくまでも「聴きやすいポップスを作りやすくするレール」のようなものであって、違うタイプのモノが作りたければいつだってそのレールから逸れていいわけです。人間どうしても、知識が増えてくるとその知識の中で物事を考えがちになるので、常にその外側に広がっている“未開の地”の存在を忘れないでほしいと思います。