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接続系理論 ❺ 5度上行の用法

By 2022.3.42023.09.22接続系理論

前回は5度“下行”の解説でしたが、今回は逆向きである5度“上行”、5の接続を見ていきます。

5aの接続

VIImの進行だけはかつて禁則とされていたので、後で個別の詳細説明を設けます。

1. 5度上行の特徴

前回も説明したとおり、5度進行はルートの移動が大きく、構成音も2音変化するという点でパワフルさがあります。そのうえで55の違いを考えると、端的にはTSDの巡り方が反対だという点が大きいです。

機能環

5の接続がTSDTと順に進む基本サイクルを形成するのに対し、5TDDSSTという個性の強い動き方をします。そのためポピュラー音楽の中でもジャンルによって好みが分かれてきて、その最たる例がクラシックで禁則とされたVIImの接続だといったところです。

ではこれも、定番コード進行のサンプルを聴いてみましょう!

6-3-4-1

6-3-4-1の動きは、すごく感情を揺さぶるような曲想をもたらす、バラードの定番コード進行です。前回やった「6-2-5-1」や「6-4-5-1」と、似ているけど性質は全然ちがいます。
「6-2-5-1」系列はまさに「起承転結」で、3つ目のVにピークがある。それに対し「6-3-4-1」は2つ目のIIImがいきなりピークで、そのあと少しずつ落ち着きを取り戻すような展開になります。

特に「蝶々結び」や「月光」のように、スローかつ激情的なバラードにおいてはこの進行がぴったり。「Emoji」はEDMのビルドとドロップにこの進行が使われている、ちょっと珍しいケースですね。

(※「SUNRISE」や「Desperado」では、2周目は違うコードになっていて、単純な6-3-4-1のループではありません。)

バリエーションの作り方

なかなか強烈な進行であるので、やはり2周目はバリエーションをつけてソフトな方に切り替えたりといったテクニックもしばしばとられます。

6341のチャート

例えばIIImVに換えれば、これは2度の穏やかな接続が連続することになる。またIVIがちょっとパワー不足と感じたら、そこの枠にキュッとIVVを詰めることで、SDTの強力な着地を演出できます。「月光」や「キセキ」ではこの技が使われていますね。それからラストのIVに変えれば、「着地」がなくなって「高揚」になるわけなので、かなり展開性が違ってきます。

6-4-1-5

こちらは6-4-1-5、5を2連発する活発なコード進行。やはり移動量が大きいぶんダイナミックさがありますね。特にロック音楽にぴったりで、定番進行のひとつです。

前回紹介した王道の「6-4-5-1」と比べると、5と1をひっくり返しただけですね。それによってまずVIという定番の解決が消失し、代わりにIVIの終止形を構成するので、少し脱クラシック/脱ジャズ的なテイストが生まれます。また起承転結の流れも変わって、進行のラストがVになるので、次の周回へ繋がる際の盛り上がりがあります。

このように5IVVImIIImというTDの進行が生む急激な盛り上げ、そしてIVIIImVImというSTの進行が生む穏やかな着地を曲想表現に役立てることができます。

そして残る最後のひとつが、VIImの接続です。

2. V→IImの用法

5の中で唯一かつて禁則とみなされていたのがVIImの進行です。これはVIVが禁則だったのと全く同じ理由で、「VD機能のコード、緊張のピークなんだから、次進むならTが良い。Sに逆戻りするのは良くない」という考えから来ています。

5-2

VIVIIImIImは、逆行とはいってもルートが2度で動く穏やかな逆行でした。しかし今回はルートが5度で動く強烈な逆行ですので、こちらの方が使いこなすのに若干の難しさがあります。

またVIVがブルース、ロックンロール、レゲエなどのジャンルで定番の地位を確立しているのに対し、VIImにはそういった強固な“地盤”がありません。印象としては、比較的近年のロックやEDMでじわじわと使用例が増えてきている段階です。

とはいえそれは言い換えると、この進行は新しい現代風の曲想を演出できるということでもあります。使い方をしっかりと観察していきましょう。

V→IImの活用例

VIImの刺激を活かしたヒット曲といえば、2013年の映画「アナと雪の女王」の主題歌「Let It Go」のイントロでしょう。

エルサ (イディナ・メンゼル) – Let It Go

ちょっと該当部分を切り抜いて、詳しく掘り下げてみます。

さすがに天下のディズニー・カンパニーの曲をそのまま引用する勇気はなかったので、同じコード進行で、別のフレーズの曲を作りました。

このコード進行は、前回紹介した6-4-5-1という定番進行の、ラストをすげ替えたような進行です。ラストで着地せずDSの強烈な逆流を作る。起承転結の「結」をあえて奪ってしまうことでただならぬ雰囲気や落ち着かない感情を巧みに表現しているんですね。

ココにVIImがあるからこそ、「王国から逃げ出した主人公の悲しみ」といったテーマがよく伝わってきます。あえてクラシックの型にはまらないことで表現の幅を広げている模範的な例といえるでしょう。

試しにラストをIに変えて、王道パターンである6-4-5-1型に収めたものも聴いて比較してみます。

確かに自然な流れにはなりました。でも、だからなんだというのでしょう。雪山の白く冷たい情景、故郷を去る悲しみ、不吉な予感・・・そういった曲想が全部消えてただのノーマルなポップスになってしまいました。「表現したいものに相応しい音響」という点でいえば、これは大失敗です。
つまり、VIImの進行がクラシックやジャズから見てあまり慣習的でないことは事実です。しかしだからと言ってそれは、この進行が“間違い”であることを少しも意味しません。慣習的でない進行は、慣習的でない表現をしたい場面でかけがえのない存在になるわけです。

ASIAN KUNG-FU GENERATION - リライト

全く同じやり方で6-4-5-2を活用した大ヒット曲が日本にもあって、それがアジカンの代表曲『リライト』です。

使われているのは、まず冒頭ドラムが入る前のギターリフ。面白いのは、ドラムが入ってからはこっそり定番の6-4-5-1にシフトしている点です。バンドメンバーが入ってくる前の段階ではIに解決しないことで、ヒリヒリした緊張感というか、「これから何か始まるぞ」という雰囲気がうまく演出されています。

それからアウトロ終盤、3:35からまたリフに帰ってきたパートでもまたこの6-4-5-2が帰ってきて、この曲はII度のコードで終わるという大胆な構成になっています。2004年というリリース当時では(少なくとも日本では)斬新な手法だったのではと思います。

音楽理論を知らない一般的なリスナーも、「何か普通のポップスとは違う雰囲気で終わった」ということは何となくでも大なり小なり感じたはずです。こうしたコード進行の斬新さに惹かれたリスナーもいたことでしょう。

ウルフルズ - バンザイ

6-4-5-2以外の形もひとつ紹介します。

こちらはサビが、IVIImIIImIVVという進行になっています。「好きでよかった」のところで着地せずIImへ逃げて、Iに行き着くのは次の「バンザイ」の時です。Iへの解決を遅延して遠回りしているような進行だといえます。

これが普通のポップスだったら、1-5ときたら次はVImなんかに行きそうですね。

例えばこの1-5-6-3-4-1-4-5という、王道としておなじみ「パッヘルベルのカノンの進行」に乗せても、このメロディは違和感なく歌うことが出来ます。しかしこれだと、この曲が本来持っていた泥臭さや朴訥さといったものがなくなってしまって、曲の良さが台無しです。

ロックやEDMといったジャンルでこの接続が使われるのは、クラシックの規則どおりの進行ではどうにもお行儀よくなりすぎてしまうところからの適度な逸脱が好まれたというような事情はあるでしょう。

禁則はない

改めての念押しになりますが、一般的な理論書で「禁則」「弱い」「逆向き」「イレギュラー」などと説明される進行も、結局はそれを個性として逆に活かすことがポピュラー音楽ではできます

普通と違うことはいけないことではなく、それを魅力的に感じる人もいる。それはファッションや絵画の世界でも共通して言えることではないでしょうか。だから作曲時にこうした「かつての禁則」を解禁するか否かは、自分が作りたい音楽のジャンルや目的に合わせて決めていけばよいことです。

まとめ

  • 5の接続は、5度という大きな移動でTDS機能を逆行します。そのドラマチックさ、ダイナミックさが魅力です。
  • VIImは従来の理論では禁則扱いですが、その「裏切り」の効果を活かすことで、より奥深い曲想の表現が可能になります。
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