目次
前回は5度“下行”の解説でしたが、今回は逆向きである5度“上行”、5▲の接続を見ていきます。
V→IImの進行だけはかつて禁則とされていたので、後で個別の詳細説明を設けます。
1. 5度上行の特徴
前回も説明したとおり、5度進行はルートの移動が大きく、構成音も2音変化するという点でパワフルさがあります。そのうえで5▼と5▲の違いを考えると、端的にはTSDの巡り方が反対だという点が大きいです。
5▼の接続がT→S→D→Tと順に進む基本サイクルを形成するのに対し、5▲はT→D、D→S、S→Tという個性の強い動き方をします。そのためポピュラー音楽の中でもジャンルによって好みが分かれてきて、その最たる例がクラシックで禁則とされたV→IImの接続だといったところです。
ではこれも、定番コード進行のサンプルを聴いてみましょう!
6-3-4-1
6-3-4-1の動きは、すごく感情を揺さぶるような曲想をもたらす、バラードの定番コード進行です。前回やった「6-2-5-1」や「6-4-5-1」と、似ているけど性質は全然ちがいます。
「6-2-5-1」系列はまさに「起承転結」で、3つ目のVにピークがある。それに対し「6-3-4-1」は2つ目のIIImがいきなりピークで、そのあと少しずつ落ち着きを取り戻すような展開になります。
特に「蝶々結び」や「月光」のように、スローかつ激情的なバラードにおいてはこの進行がぴったり。「Emoji」はEDMのビルドとドロップにこの進行が使われている、ちょっと珍しいケースですね。
(※「SUNRISE」や「Desperado」では、2周目は違うコードになっていて、単純な6-3-4-1のループではありません。)
バリエーションの作り方
なかなか強烈な進行であるので、やはり2周目はバリエーションをつけてソフトな方に切り替えたりといったテクニックもしばしばとられます。
例えばIIImをVに換えれば、これは2度の穏やかな接続が連続することになる。またIV→Iがちょっとパワー不足と感じたら、そこの枠にキュッとIVVを詰めることで、S–D–Tの強力な着地を演出できます。「月光」や「キセキ」ではこの技が使われていますね。それからラストのIをVに変えれば、「着地」がなくなって「高揚」になるわけなので、かなり展開性が違ってきます。
6-4-1-5
こちらは6-4-1-5、5▲を2連発する活発なコード進行。やはり移動量が大きいぶんダイナミックさがありますね。特にロック音楽にぴったりで、定番進行のひとつです。
前回紹介した王道の「6-4-5-1」と比べると、5と1をひっくり返しただけですね。それによってまずV→Iという定番の解決が消失し、代わりにIV→Iの終止形を構成するので、少し脱クラシック/脱ジャズ的なテイストが生まれます。また起承転結の流れも変わって、進行のラストがVになるので、次の周回へ繋がる際の盛り上がりがあります。
このように5▲はI→V、VIm→IIImというT–Dの進行が生む急激な盛り上げ、そしてIV→I、IIm→VImというS–Tの進行が生む穏やかな着地を曲想表現に役立てることができます。
そして残る最後のひとつが、V→IImの接続です。