接続系理論 ❶ コントロール・ファクター

注意事項

ここから実に10回に渡って続くのは、自由派音楽理論の中核を成す概念である「接続系理論」です。平たく言えば、基調和音のコード進行が作る様々な曲想を解説する内容になっています。

自由派音楽理論が「自由派」を名乗る最大の核心であり、非常に重要で有益な知識なのですが、たくさんのコード進行を紹介することになるため、情報量が非常に多大です

「簡易度数」と「TDS」がしっかり頭に入っていて、いくらか作曲経験を積んでいないと、理解することは難しいでしょう。IVImまでのコードが頭でイメージできないと、情報を処理しきれずに混乱してしまう可能性は大いにあります。ひとまずトライしてみて、まだ頭が情報でパンクしてしまうようであれば、制作の期間を置きながら少しずつ読んでいくのがよいと思います。

それほど複雑な内容をあえて「I章」という早期に紹介する理由は、第一にこの理論が全ジャンルにとって有意義な理論であるから。第二に、基調和音だけでもこれだけの奥深さがあるということを早い段階で知っておいて頂きたいからです。

#1.三十種類の接続パターン

さて、以前述べたとおり、コードは基本的にT・D・Sに分類されますから、その進行法は以下の6つに分別されます。

  • T S
  • T D
  • S T
  • S D
  • D S
  • D T

しかし、同じ「ドミナントトニック」だとしても、VIIIImIではサウンドが全然違います。ですので、TDSでコードの全てが語れると思ったら大間違い。本当のところは、もう少し細かく見ていかないとわからないのです。

2つのコードの連結は、基調和音の組み合わせでいえば 6×5=30とおりです。その30種類の進行が、いったいどんな曲想をもたらすのか? それは知っておいた方が、もちろん得です。曲想にぴったりあったコード進行を作れることは、重要なセンスであり、スキルでありますからね。

たった30パターンくらい、記憶力の発達した我々人類ならば誰だって覚えられます。というか、ココをほったらかしにして先へなんて進むなんておかしいのです。ありえないのです。

IVVImIVIIm

こちらは序論で紹介した、「ジャズやクラシックに言わせれば禁則だらけだけど、現代ではむしろトレンドになっているコード進行」の例です。

見解の相違

現行の音楽理論書に、こうした最新のコード進行の魅力や、なぜ禁則とされた進行が現代では愛用されているのかについて書かれたものはひとつとしてありません。みんなこうした現代の基礎コード進行には完全ノータッチでサッサと御自慢の高等テクニックへ進んでいくのです。ありえない話だ。

だから、ちゃんとそれぞれのコード進行が持つ個性を全て把握しよう。そのためにある理論が、「接続系理論」なのです。

30人の自己紹介

暗記といってももちろん、この記事を読み終わった瞬間に30個を暗記していろという話ではありません。今日は始業式です。初めて30人のクラスメイトがあなたに自己紹介をします。あなたはこれから時間をかけて、一人ずつ顔と名前を覚えていくのです。

私たちは、クラスメイト全員を覚えるまで、どれくらいかかったでしょうか? 思い出せないですけど、まずは自分が親しくなった人から覚えますよね。それから、「コイツは何かヤバそうだから関わらないでおこう」って人も記憶に残ります。

好き嫌い

そうして気づかないうちに、大して交流もないクラスメイトであっても、名前と性格くらいは自然と覚えていたはずです。
コード進行の暗記も、クラスメイトと全く同じ。

「気に入ったコードの動き」と、「使い方が難しいとされている動き」だけをまず覚えて、あとはじっくりでよいのです。
そう、従来の音楽理論は、たいてい勝手に「型」が決まっていて、まずそれを覚えさせられます。200年前のクラシックの型だったり、100年前のジャズの型だったりね。でもそんなものは必要ない。あなたの気に入ったコード進行が、あなたの表現にとって重要なコード進行です

そんな曖昧な考え方でいいのかと心配になるかもしれませんが、大丈夫。むしろそうじゃなきゃダメなんです。ジャズをよく聴いていれば自ずとジャズ的な進行に親しみを感じるし、ロックをよく聴いていれば自ずとロック的な進行に親しみを感じる。そしてそれに従ってこそ、そのジャンルに最適な曲が生まれます

これは序論で紹介した、「クラシックの型に沿って作った電子音楽」です。オニくそダサいですよね。一般的な音楽理論が教える「型」なんて、しょせんローカルルールにすぎない。

現実に即していない「型」を覚えたところで、得られるものは「自分は偉人たちが作ったルールに従っている」という“かりそめの安心”だけ。だから、21世紀の音楽は「型」ではやっていけない。自分の「好き」を大切にしなくてはいけないのです。

「接続系理論」とは

Nexus System

接続系理論(Nexus System)は、2つのコードの接続の際に生じる曲想を分析する理論です。何かと単体で語られることの多いコード理論ですが、実際にはコードから次のコードへ移った時の“変化”が極めて重要です。その変化について論じる理論が、接続形理論というわけです。

・・・とは言っても、突然どこからか湧いて出てきた理論ではありません。古典派理論にも細かいコード進行の分類はあるし、バークリー系の理論やシェーンベルクの理論でもそのあたりは充実していて、実際に30種類全ての解説をしている書籍もあります。特にバークリーの理論書には、こんなロマンチックな言葉も書かれていますよ。

These combinations of chords are like amino acid groups in DNA. They create small units of harmonic motion that can be strung together to create larger units — harmonic phrases.

(コードの組み合わせはDNAの中のアミノ酸のようなもの。彼らは和音進行の小さなユニットを作り、それらは共に連なり、より大きなユニット、つまりハーモニーのフレーズとなる。)

The Berklee Book of Jazz Harmony, p13より 著:Joe Mulholland & Tom Hojnacki

2コードの連結について深く理解することは、まさに音楽のDNAに触れることなのです。

でも、こうした理論はそのままでは古くって使い勝手がイマイチよろしくない。なぜならいずれも「禁則」としたものについて一切説明してくれないからです。

旧

古典派理論・一般音楽理論の説明はホントにこんな具合で、現実を無視して「禁則だ」と説明することに、何の疑問も抱いていません。彼らはもう感覚が狂っちゃってて、理論と現実が食い違ってるのが日常茶飯事なのです。
ジャズ理論も、「禁則」とまでは言わないですが、結局「この進行はめったに使われない」「弱い進行である」くらいの説明しかなくって、それじゃあ実質禁則って言われてるのと何も変わらないじゃんって話です。

そこで、こうした既存の理論をベースにしつつも、「禁則破り」の事例をもっと詳しく説明することで、それこそが「新しい技法」であり「尊重すべき現代の音楽性」であるとしてシステムに組みこんだのが、接続系理論なのです。

新

この「接続系理論」をマスターすることは、21世紀までの音楽の自由化の歴史を体得することに等しいです。
だから接続系理論を把握すれば、自分のさじ加減で「伝統的」な方にも「先進的」な方にも自由に曲想を転がせます。そして、たった6つのコードの組み合わせだけでいかに豊かな曲想を作り出せるかということが理解できる!

接続系のおかげで、クラシックやジャズの定型を「これが音楽の基本です」と信じこまされてつまらない曲を作る必要も無くなります。自由派はいつでも自由。

「接続」とは

「接続」という言葉も、接続系理論独自の言い回しです。ふつうコードの進みは「コード進行」と呼ばれますが、これは3つ以上のコードのまとまりを指すときにも使われる言葉です。今回は「2つのコードの連結」だけに着目しますし、新規の理論であることを示す意味でも新しい言葉があった方が良いと考え、ここではそれを「接続(Nexus)」と呼ぶことにしました。

「コード進行」という言葉が、どちらかというと並べるコードそのものに着目するのに対し、「接続」という言葉には2コードの間の相対的な変化を重視して着目するような意味合いを込めています。

#2.コントロール・ファクター

さて、それでは2つのコードを繋げた時に生まれる曲想は、どのような尺度で分析してあげればよいでしょうか? その「ものさし」は、古典派から今まで変わらず同じ、3つの要素から成り立ちます。

TDS機能
コードの長短
ルートの変化

TDS機能の変化、コードクオリティ(長・短)の変化、ルートの度数の変化。
長短が曲想に影響を与えるのは言うまでもなく、TDSが与える影響も以前すでに確認しましたね。ですから接続系理論で特にポイントになってくるのは、「ルートの度数変化」です。
ルートの位置が上がるのか下がるのか、大きく移動するのか、すぐ隣に移動するのか。ルートの動き方は、進行がもつエネルギーのようなものの大きさに影響するのです。だからコード進行をよく分析するには、このルートの変化に着目してあげる必要があります。

そういった「進行のエネルギー」を使いこなすことは、狙ったとおりの曲想を表現する技術に直結するわけです。この三要素のことを、ここでは「コントロール・ファクター(Control Factor)」と呼ぶことにします。

  • 接続(Nexus)
    2コードの連結のこと。特にその相対的な変化に着目する。
  • コントロール・ファクター
    コード接続がもたらすサウンドの決定要素となる3つの要素のこと。

ちょっと簡単に、幾つか例を示しましょう。

IV→Vの接続

IV-V

たとえばIVVの場合。コントロール・ファクターを見ていくと、以下のようになっています。

TDS SD 定番で変化量の少ない動きなので、自然に感じます。
長短 🌞長🌞長 明るいテクスチャが続くので、穏やかに感じます。
度数 2度上昇1 変化が少ないので、穏やかに感じます。

この三要素が合わさった結果、IVVという接続は「非常に自然で穏やかな流れ」を生むという結論に至るわけです。

IV-Vの動き

じゃあ、もうひとつのSD進行であるIImVの方も見てみましょうか。

IIm→Vの接続

IIm-V

TDSが同じであっても、他が違いますよね。

TDS SD 定番で変化量の少ない動きなので、自然に感じます。
長短 🌚短🌞長 テクスチャに変化があり、開放感を感じます。
度数 4度上昇 変化が大きいので、ダイナミックに感じます。

全体として変化している量が大きいです。結果として生み出される響きは、「自然な流れであると同時に強い展開性があり、しかも開放感がある」といった感じ。

IIm-Vの動き

・・・ね。こんな風に見てみると、IImVの方が圧倒的に強さのある接続であることがわかります。
だから、自然に流したいときはIVVを使い、それでは豪華さが足りないなと感じた時には、IImVに変えてみるとイイわけですね。「エネルギー量をコントロールする」とは、そういうことです。こんな風に考えていけば、自分が求める曲想にどのコード進行がふさわしいのかも、分かるようになってきます。

もうひとつくらい見てみましょうか。IVImとかがちょうどいいかな。

I→VImの接続

I-VIm

接続系理論ではこういう場合、「6度上がった」と考えず、距離が近い方で見て「3度下がった」と考えます。これといって区別するメリットが無いですからね。コントロール・ファクターを見てみると・・・

TDS TT 変化がなく、もっとも安定しています。
長短 🌞長🌚短 テクスチャの変化により、展開性を感じます。
度数 3度下降 変化量は中くらいで、安定感と展開性を両立しています。

ですから根本は非常に安定していて、その中でわずかな質感の変化があり、エネルギーは中くらいで、劇的でもなければ穏やかでもない。本当に「真ん中くらい」の接続と言えます。

I-VImの動き

例えばもし逆にVImIと進むとどうなるか? まず長短が「🌚短🌞長」になりますから、「開放感」のようなものが生まれます。度数については、同じ三度でも「3度下降」から「3度上昇」に変わりますから、当然ある種の「浮上感」のようなものが生まれます。
ですからコード進行における度数変化というのは、「方向」と「量」の2つを備えているのだとイメージしてください。


こんな風に、2つのコード間にある変化の特徴は、このコントロール・ファクターから分析することで明らかになっていきます。まずはこの基本概念を理解してください。当たり前のことですが、どれひとつとして同じパターンは存在せず、30通りの接続のいずれもがユニークな存在であることが分かりますね。

「代理の理論」は大雑把

以前やった「代理コード」では、IImIVを入れ替えても機能が同じだから破綻しにくいなんて話がありました。でもそれはあくまでも「破綻しにくい」という話であって、生まれてくる「曲想」は全然違います。だから実は「代理」というのは、音響的に言えばすごく大雑把で、曲想を無視した理論なのです。
一般的な音楽理論は、「代理できます」とまでしか教えてくれません。大事なのは、変えたら音響がどう変わるのか?ですよね。それを紐解くのが、接続系理論なのです。「曲想」にダイレクトに関わる理論だから、本当に大切なんです。

ですから、この「核」の部分さえ飲み込んでもらえれば、ある意味もう接続系理論をマスターしたも同然です。

マスターしたも同然

先に結論を言ってしまえば、30種類の接続全てに意味があり、現代の音楽において禁則進行はひとつもありません。だから自分の気持ち次第、センスでコード進行を組んでしまっても、全く問題はないのです。

IIImIIImIV

例えば上のIIImIIImIVというコードは、ゆるりと度数が上がっていきますし、トニックとサブドミナントが中心だから、かなり穏やかに感じる。Aメロにぴったりって感じ。

IImIIImIVV

同じ度数変化でも、IImIIImIVVだったら、サブドミから始まりドミナントへと上がっていく進行なので、かなり展開性を感じますよね。こういう進行は、サビ前に使ったら映えます。

IImIVVImI

そうじゃなくIImIVVImIなんていう風にしたら、1回の進行での上がり幅が大きめだから、より情緒的に感じます。でも、このパターンだとドミナントが一回も出てこないから、全体のトーンとしては抑えめ。

…とまあこのように、2つのコードの接続がもたらす曲想を理解していれば、表現したいとおりの音響世界を作ることができます。その感覚を磨くというのは、もはや理論というよりセンスの世界ですよね。理論的に概念を理解することは、表現力とセンスを向上させることに直結するのです。

とはいえ、どれが最近流行りのコード進行で、どれが伝統あるコード進行なのか。どのジャンルで好まれているのかといった歴史的背景は、弾いただけではわかりません。こればっかりは、知識として教えてもらった方が圧倒的に速い部分です。
またそれぞれどんな曲想をもたらすのかという音響的情報も、実際の曲と一緒に知れた方が、「プロの手法」を耳で聴いて学べるわけですから、ココで学んでおいた方が圧倒的にお得ではあります。

ですから次の回では、そうした分類や用法について解説を進めていきますが、「そこまで教わってしまうのは興ざめだ」という人は、ここでストップしてしまうのもよいでしょう。

総括
  • TDSという大雑把な三分類だけで音楽を論じることは実践的でなく、より本格的にコード進行を論じるのが「接続形理論」です。
  • コード進行には「エネルギー」と「テクスチャ」があり、それはTDS・長短・度数に影響されます。
  • TDSの変化は、以前確認したように「穏やかな高揚」「強力な着地」といった曲想を生みます。
  • 長短の変化は、さらに「開放感」のような「テクスチャの変化」を生みます。
  • 度数の変化は、コード進行のエネルギー量を司ります。変化が大きければパワフルな進行感を生み、上昇なのか下降なのかも曲想に影響します。
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