Skip to main content

3. 実例で比較

それではこの「C・O・P」が与える印象の違いを、実際の楽曲で見てみましょう。

反行の例①

こちらユーミンの名曲。サビ頭の「次の」の部分が、メロはドレミの順次上行、ベースはドシラの順次下行という風に綺麗に反行しているという分かりやすい例。この場合、シェルはRt-3-5という風にウマイこと落ち着いた奇数シェルをたどっています。

14番目の月

ルートからスタートするとこうなるわけですね。やはり、起きている現象が複雑。理論的視点がレベルアップしたように思います。メロとベースの距離が広がり、シェルも次々と変わっていく。それがとても華やかに感じられるわけです。

ちなみにこの曲、その次の「欠ける」のところは一転して並行が続きます。

14番目の月(2)

3rd、3rdという安定の動き方でやや大人しくなっていて、先ほどの反行とのコントラストが際立つ。こんな小さなところにも、センスが光っているんですね。

反行の例②

反行はシェルの変化が複雑なので、もうひとつくらい見ておきましょう。

動画冒頭のサビ部分。ベースはIから順に下がっていく定番の動き。それに対しメロディは大きく広がっていきます。

明日への手紙

部分的には斜行も含まれますが、全体的に見るとかなり反行を活かした部類と言えます。奇数シェルを黒、偶数シェルを灰色で表してみましたが、こうして見るとやっぱり美しく奇数シェルを辿っていることが分かります。しかも、IやVのようなパワーのあるコードでは5th、対してIV,VIm,VIIøといった切ない系のコードでは3rdや7thを取っていて、その辺りも完璧な配分としか言いようがありません。

斜行の例

斜行の場合は動くのが片方なので、シェル変化の分析はしやすいです。

エンダーーーのフレーズでおなじみのこの曲。サビのメロディは主音で伸ばしている場面がとても多いですね。伸ばしている間にコードがドンドン変わっていくので、メロ・ベース感で斜行のモーションが生まれます。

I always love you

今回はベースが3を続けるので、シェルも1-3-5とこれまた綺麗に奇数を辿って変化していきます。やはり偶数シェルは何かと扱いに難しいところがあるので、ロングトーンと合わせるなら奇数シェルがいい。反行でも斜行でも、どんな動き方をした場合に奇数シェルを辿れるのか・・・なんていうパターン研究も、奥深いものがあります。

並行の例

並行の中でも今回は特に、「等度平行」のパターンを取り上げたいと思います。

こちらおそらく、等度平行のサウンドが世界一分かりやすい例ではないかという、スピッツの「ガーベラ」。サビの間じゅう、コードはシンプルに4-5-6。メロは少しずつ順次進行というユニークな構成になっています。
まず最初の「ハロー ハロー ハロー 」ではずっと3rd Shell。

ガーベラ (1)

メロもベースも順次上行なので、シェルの変わらない等度平行になります。その次の「ありのまま」では、5th。

ガーベラ (2)

“無色透明”のP5th、パワーコードみを感じさせるこの部分は、先ほどの3rd Shellの時よりも心なしか力強く感じられます。“感情的訴え”の表現に長けるミの音に至っているという、カーネル的な側面もありますね。

3回目は7thということになります.

ガーベラ (3)

7thがこうやって3度も続くのは珍しいパターンかなと思います。特に、V7の時に生じたファのメロディは、半音下行すれば落ち着くところを、あえて上に突き抜けてソに行くというところ、そこの「掟破り感」は曲想によく貢献してますね。
先ほど「等度平行はモノトーン」という話がありましたが、今回のような薄暗さのある曲ではそれがしっかりプラスに働いています。

「彩り豊かで華やか」な反行の動き、「穏やかで上品」な斜行の動きと比べると、並行は「ストレートでパワーがある」という風に言えるかもしれません。むろん、何のシェルで並行するかによっても変わりますが。

コントラストを活かす

最後に少しユニークな例として、反行と並行のコントラストを活かした曲を紹介します。

こちら、テレビの料理コーナーなんかでよく聞く「Chopsticks(The Celebrated Chop Waltz)」という童謡。この編曲は最もシンプルなバージョンで、「ピアノをチョップ🙅‍♂️するだけで弾ける」ことが曲名の由来だとか。
見てのとおり、前半は冒頭の斜行を除いてすべて反行、後半はすべて3rd Shellの等度平行になっています。
前半はメロがシンプルな代わりに反行の広がりで演出、後半は流れるようなメロディを殺さないよう並行でという、こんな小さな曲の中にもきちんとメリハリが構成されていて、それが世界で愛される所以のひとつかもしれませんね。

4. 編曲に活かす

音同士の距離感が、「広がり」や「華やかさ」「統一感」といった印象の変化に繋がるというのは新しい発見でしたね。便宜上「メロディ編」で扱ってはいるものの、この知識は「編曲」の技術にも大いに関わってきます。せっかくだから少し寄り道して、編曲におけるCOPのポイントについても解説させてください。

たとえばバッキングを考える時、ベースに対して反行を多くすればそのぶん華やかで目立つサウンドに、並行を多くすればより一体感があって溶け込むサウンドに出来ます。つまり、音色ではなくフレーズからその音の目立ち方をコントロールできるのです。

並行の編曲

こちらはベース、リード、パッド、パーカスの4パートで成り立つシンプルなEDMですが、パッドに注目してください。この編曲の場合、パッドが徹底してベースと等度平行し、P5 Shellを保っています。“無色透明”のP5ですから、もうベースに溶け込んで一体化するような心づもりのアレンジですね。

反行の編曲

対してこちらはパッドがベースと反行になるように音をとっていった編曲。結果的に1・3・5・7全てのシェルを使うことになりました。

比べてみて、どうでしょうか? 今回の場合、「並行の編曲」の方が良いアレンジであると思います。ここはリードがソロを取って全体を引っ張っていく場面。「反行」の方は、パッドが目立ちすぎて変に気が散ってしまいます。いわゆる「悪目立ち」というやつです。パッドだけを聴けば魅力的に聞こえるかもしれませんが、実際のアンサンブルで言うと、リードとパッドのどっちを推したいのかよく分からない、ゴチャゴチャした音楽になってしまっています。

特に終盤で2-3-4-5と上がっていく場面、「並行の編曲」はリード・パッド・ベース全員が並行になるので、グワッと上がっていく感じをしっかりと演出できています。「反行」はその場面でもパッドが下行しているので、その高揚感が相殺されてしまっている。そういった微妙な違いが生じています。

別の例も見てみますね。

並行の編曲

今度はよくあるポップス系の間奏で、エレキギターがソロを取っている時としましょう。今回比較したいのは、ストリングスの編曲です。上の場合は、並行。Iから下がっていくカノンのコード進行なので、ストリングスもそれに従って下がっていきます。

反行の編曲

こちらは反行。3rd Shellから始まり、ずっと上がっていくことになるので、最終的にはかなり高い位置まで行きました。

今回は、「反行の編曲」の方が良いアレンジであると思います。「並行」の方は、出だしこそ高らかで良いですが、そのあとベースにくっついてどんどん下がっていくので、結果として最後の方の盛り上がりが欠けてしまうというのがまず一点。対する「反行」の方は、最後のトゥー・ファイヴのところで“おいしい”音域に突入するので、とてもドラマティックで良い流れです。

そして今回はリードのギターがゆったりとあまり動かないフレーズを選んでいるので、むしろストリングスが上行で盛り上がりを演出してくれた方が、アンサンブルとしてもバランスが良いというのが、前回とは違うところ。それからサウンド的にも後ろに引っ込んでいるので、上行していってもさっきのシンセのような「悪目立ち」はしていません。

そもそもジャンルごとの慣習的なフレーズ差というのもあって、アルペジエイター、シーケンサー、コードスタブ、5度ユニゾンといったシンセ・テクノロジーを用いる電子音楽系は必然的に並行のフレージングが生まれやすいし、リスナーもそれに聞き慣れているという事情があります。パワーコードやバレーコード、オクターブ奏法などを愛用するロックも、並行に対する受容度が高いですね。それに対してクラシック系は、並行より反行を好む文化があります。

だからシンセがやたら優雅に反行をしていたり、ストリングスが愚直に並行していたりすると、「聞き慣れない」という違和感が発生しやすいバックグラウンドがあることは否めません。ここは接続系理論の話と似ていて、記憶と認知がサウンドの受容に大きく関わってくるのです。

Check Point

C.O.Pの移動種別を使いこなせば、編曲の際の各パートの目立ち方、聴かせ方をコントロールすることができる。どのような動き方が好ましいかは、状況によって大きく異なる。
どの動きが自然に感じられるかについてはジャンルによる違いも大きく、あるジャンルでは自然と捉えられるフレーズが、別のジャンルではそうでなかったりする。ひとつの理論を鵜呑みにするのではく、実態をきちんと理解することが必要である。

もしこれまでバッキングのフレーズどりを何となくやっていたなら、今後はぜひ、トップノート(一番高い音)のシェルと、その移り変わり。ここを意識するとずいぶんサウンドの説得力が変わってくるはずです。

他には、ベースがI-Vのようにドンと跳躍するとき、上がるのか下がるのか。それによって全体の並行/反行が変わってきますよね。今までベースのオクターブ判断というと、だいたい音の鳴りで判断していたと思います。もちろんそれが第一基準ですが、加えてアンサンブルの音域幅を広げるのか狭めるのか。あるいはメロが決まっているなら、メロに対して並行なのか反行なのか。そういう観点を今後はプラスで考えてもらえたらと思います。

まとめ

  • 2つのパートの動きの関係性を、ピッチの移動方向を基にして反行・斜行・並行の3つに分類できます。
  • 自由派ではさらに、度数のQuantityが変わらない並行を「等度平行」と呼びます。
  • 反行は華やか、斜行は穏やか、並行は一体感があるといった傾向が見られます。
  • C.O.P.を編曲の際に意識することで、音の目立ち方をある程度コントロールすることができます。
  • ジャンルによって、C.O.P.の好みや頻度、リスナーの受容度には差があります。
Continue

1 2