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1. パリティ(偶奇性)

前回「反行・斜行・並行」を学んだことで、メロとベースのシェル関係を観察することの面白さがにわかに見えてきました。

明日への手紙

そこでこの回では、コード編の「接続系理論」の知識を織り交ぜながら、ベースの動きとメロの動きのコンビネーションを観察していこうと思います。

それで、観察の際に特に重要になってくるのが、シェルが偶数か奇数かです。基本的には奇数シェルがルートに対してよく協和し、偶数シェルは緊張をもたらしますから、シェルの偶奇性はメロがコードに馴染むかどうかの最初の簡単な分岐点と言えますよね。

これ以降の記事では、「シェルの偶奇」という観点が極めて重要になってきますので、ここでちゃんと正式な用語を用意しておこうと思います。自由派音楽理論では、シェルの偶奇性のことをパリティParityと呼ぶことします。単純に、「偶奇性」を英訳したものですね。

まあ日本語の「偶奇性」のままでも良さそうですが、カタカナ語の方が文章の中できちんと分離して読みやすいだろうというのがひとつ。それから「偶奇」が音楽理論の様々な場面で使われるのに対し、この「パリティ」という言葉はシェルに対してしか用いないので、いちいち「シェルの」と言わなくて済むというメリットもあります。

  • パリティ
    シェルのクアンティティ(簡易度数)が偶数か奇数かを指す言葉。

V章ではこの「パリティ」がかなりキーワードになってくるので、シェルの偶数と奇数に対してのマークも用意しておきます。

パリティのマーク

さて、準備ができたところで、まずはメロを固定した状態でベースを動かす作業をしてみます。この作業が、リハーモナイズの基礎になりますからね。

2. 2°接続とシェル

移動量の少ない方が分かりやすいですから、まずは2°の接続におけるシェルの変化を観察します。…と言っても話はシンプルですね。順次進行で動くのだから、シェルの数字も1ずつ変わり、偶奇は当然反転します。

2度の接続

移動の際には原則的に必ずパリティが転換することになりますから、同音を連打したり伸ばしたりするのに、2°の接続はあまり向いていないと言えるかもしれませんね。もっとも、スラッシュコードを使ってリシェルしてあげれば十分に可能ですが。

3. 3°接続とシェル

続いて3°の接続です。この2つの型は、パリティが変化しないタイプの接続です。

3度のリシェル

もちろんオクターブの壁を越えるときには偶奇が転換しますが、3なら1-3-5-7、3なら逆に7-5-3-1と奇数を辿ることができます。前回紹介した「I Always Love You」では、この性質を利用してロングトーンの綺麗なリシェルを行っていましたね。

I always love you

4. 5°接続とシェル

5°の接続は原理的にはパリティが保たれるところですが、実際はその移動量の大きさゆえにオクターブを跨ぎ、偶奇が逆転するパターンの方が多数派になります。

5度

奇数シェルが連続するのは、「3rd→7th」か「Rt→5th」のパターン。特に前者はコードクオリティを決定する「ガイドトーン」を綺麗に辿っていくスタイルなので、魅力的ですね!

リハーモナイズと代理コード

この「メロを固定した状態のシェルの変化」は、リハーモナイズをするうえでの重要な指標になります。リハーモナイズをするなら、パリティは変わらないに越したことはないですね。パリティが転換すると、もともとはなかった緊張状態が発生して、メロディがよく聴こえなくなるリスクもあります。

同じフレーズをループする文化の強い電子音楽で3°の接続がよく用いられるのも、この「パリティ」が関係している可能性があります。

ラドミドを繰り返すフレーズ

マイナーキーの最主要メンバーであるラ・ド・ミを用いたフレーズは、電子音楽の定番です。この手のループにコードを付けていこうとなった時に、完全に奇数シェルで対応できるのがVImIV、その次にフィットするのがIImなんですよね。

IIm7IVΔ7VIm7V

ずっと奇数シェルが続くので、安定して聴き心地が良いわけです。II・IV・VIの3人で主に対応することになるから、必然的に3°接続の出現比率が増える…という仮説が立てられそうです。

今回、最後のコードはあえて普通はやらないようなVのコードにしてみました。そうするとここだけいきなり偶数シェルが大量発生していて、どうもやっぱり気持ちよくありません(かといってフレーズを変えてしまうのもまた、ループ音楽の流儀とは違うのです)。最後のコードは本当だったらVIm/IとかIVにするのが良かったところですね。

それから、電子音楽において最重要エフェクターの一角を担うのが、ディレイです。ディレイしたフレーズは当然コードチェンジ後も残りますから、そこまで考慮するとやっぱり、パリティ転換がない3°接続が使いやすいなという話になります。
考えてみれば、ディレイの影響を考慮したフレーズ作りやコード進行というのは、実践では当たり前でも、音楽理論ではまあ話題にもならないゾーンですよね。やっぱり音楽理論はあくまでも音楽を扱いやすい形にモデル化したものに過ぎないということは、忘れないようにしないといけません。

5. 奇数シェルを辿るモーション

そんなわけで、メロディを固定した状態で、パリティも簡単に固定できるのが3°型。では少し話の方向性を切り替えて、他のネクサスで奇数のシェルを綺麗に辿るにはどんなパターンがあるのでしょうか? それも観察してみます。

2°接続→順次反行の利用

2°接続の場合、メロディも滑らかに順次進行でベースと反行すればシェルの変化量が増えて、ちょうど奇数だけを辿っていけます。前回紹介した「14番目の月」はまさにその例でした。

14番目の月

スタートがRtの場合、R-3-5と進みますね。スタートのシェルを変えて「3-5-7」や「5-7-2」といった動きにすると、さらにカラフルで豪華絢爛な感じになります。

VImVIVで3-5-7 Shell
IVIIImIImで5-7-2 Shell

M2 Shellは偶数ですが、IImの場合カーネルが安定音のミですし、全く問題なく伸ばせます。どちらの例も、反行が持つダイナミックな美しさと、7thや2ndといったシェルのキラキラさが相まって、非常にエネルギッシュですね!

実際の例

合唱曲の定番ソング、「マイバラード」では、上の例にあるVImVIVでの3-5-7 Shell編成がそっくりそのまま登場します。

サビ冒頭の、「心燃える歌が」のところです。ここしかない!ここぞ!という場所にバチーンとこの「2°反行3-5-7」を当てはめているところが凄まじいですね。やっぱり心打つメロディには、何か理論的に観測できる特徴というのがあるものです。

5°接続→順次下行の利用

5°接続でも、順次進行を上手く使うことで魅力的なシェルの取り方をすることができます。

5の場合「3-7」のところがスタート地点としてはグッドなので、そこから「7-4」と偶数に行ってしまうところを、ちょっとずらしてしまえばよいのです。

7thから次に行くときに順次下行すれば、着地点を4thから3rdに変えられるというわけです。3-7-3-7…とガイドトーンだけが続いていくし、ベースも5°でズンズン進行するということで、かなり強力なパターン。II章で紹介した「Oblivion」も、この動きを原型にしたようなメロディラインを構築していました。

この曲の場合、次のコードの入りまで7thを保留して、あえて4thの濁りを一瞬作ってから3rdに解決という、本当に巧みな形になっています。ぜひこのサビの部分は、1音1音のシェルを分析してほしいなァと思うくらい、完璧です。

5は真逆の動きですから、逆に3rdから動くときに順次上行すれば、7thへ到達できますね。

6. スラッシュコードとパリティ

またベースとメロの位置を固定した状況であっても、スラッシュコードにリハーモナイズすれば(分子の)パリティを反転させることができます

パリティの反転

ベースとは依然として不安定な関係であるものの、総体的なコード感に対して協和するために音が伸ばしやすくなるという話でした。「パリティ」は音の伸ばしやすさをザックリ分別することを意義として存在している言葉なので、今後もスラッシュコードのパリティといったら分子を基準にすると思っていてください。シェルのパリティを調整したい時には、上のようにルートを変更する方法の他に、こうしてスラッシュコードを活用する方法もあるわけです。


今回の内容は、さして目新しいものではありません。むしろ実践の中でこういった定番のモーションは既に自力で発見している方が望ましいですね。今回で、「ベースの方を動かしてシェルを変える」というプロセスに、ちょっと頭が慣れたのではないかと思います。

まとめ

  • 「シェルの偶奇性」を表す言葉として、「パリティ」を使用します。
  • メロを固定した場合、3°接続ではパリティが原則キープされ、2°接続では原則転換します。5°接続はバラバラです。
  • 順次進行を利用すると、2°接続や5°接続でもなめらかな動きで奇数シェルを辿ることができます。
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