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1. メロディ編の歩み

前回「オーダー」という言葉を定義し、作曲においてはメロディ・オーダーとコード・オーダーが頻繁に入れ替わることを確認しました。ではメロディ編のこれまでの歩みは、どんなオーダーを想定して構成されていたのでしょうか? まずはそれを確認します。

メロディ編のこれまで

II章・IV章の「シェル」の理論は、実はコード・オーダー形式の理論とも言えます。コード進行が先にあり、使いたいシェルがあり、コードチェンジ頭がそのシェルになるようにメロディラインの方を調整していくような発想法ですからね。

コードからシェル構築

やはり初期の作曲段階では「コード進行にメロを乗せる」という形も多いと思いますし、それこそループフレーズを利用した作曲ではコード・オーダーでやるしかありません。そうでなかったとしても、シェルが持つ共通的性質を理解したり、綺麗にシェルを組んだときのメロディの響きを体得するという点で「コードからメロディ」の構築練習は、メロディセンスを会得するために重要な課程といえます。

メロディ編のこれから

一方このV章では、「リハーモナイズ」や「ソプラノ課題」に相当する方法論、つまりメロディ・オーダーで曲を構築する能力を強化していきます。コード編で学んだコードの知識を活かして、メロディが引き立つように柔軟にコードを変えることを考えていくのです。

シェルからコード

こちらはド(主音)に対してコードをあてたいと思ったときの、主な候補となるコードたちです。まさに上下正反対の思考法になりますが、IV章でやった「m6シェルの傾性を、スラッシュコード化することで解消する」なんていうのはこのV章の先取りとも言えます。

比較

「この上から下」向きの思考をバシバシ鍛えていくわけです。

2. リハーモナイズの実例

メロディを保ったまま、コードを変更する。この種の技能は、実際の作曲でめちゃくちゃ使います。実例を見てみましょう。

こちらは「魔女の宅急便」のテーマソング。0:14からメインテーマ部分がはじまって、同じようなメロディラインを4周するわけですけど、1・3周目と2・4周目はコード進行が違います

1・3周目はメロディに沿ってベースが下行して、おなじみ3rdシェル中心の構成。

1・3周目のコード進行

“久石譲おなじみの”とでも言うべき進行とシェル編成です。しかし2・4周目のベースは逆に上行して、色とりどりのシェルを構築していくのです!

2・4周目のコード進行

非常に古典派クラシックに忠実な転回形(スラッシュコード)の使い方で、コード進行自体も綺麗だし、シェルの変化も鮮やか。「ソプラノ課題」を山ほどこなしてきた人ならば、こうしたリハーモナイズもお手の物というわけです。

歌物とリハーモナイズ

ポップスの歌物でも、この“リハモ”の技能は大活躍します。

こちら、通常のサビと、ラストのサビの前の静かなサビ、いわゆる「落ちサビ」とでコード進行を変えているという例。通常サビがシンプルな4-5-1-6であるのに対し、3:28からの「落ちサビ」では、二次ドミナントのIII7や、J-Popの必殺技であるVImからのベースライン・クリシェを使ってエモーショナルさを増大させています。メロは同じだけど、コードが違う。それにより、J-Popに必要な分かりやすさを保ちながらも、表現に広がりを作っているのです。

3. シェル付けとリシェル

改めて述べると、ここから中心的に解説していくのは、メロディに何度のシェルを着せるかを決めて、それに合わせたコードを付けていくという作業です。コードがあって、そこからひとつのシェルを選んでメロディを組むというメソッドとは、オーダーが逆です。

この「メロディに何度のシェルを与えるかを考え、それにあったベース音をつける」行為を、シェル付けShelling/シェリングと呼ぶことにします1

シェリング

メロディがそこに生まれたと同時に、まずカーネルが発生する。そこにベース音を置くと、シェルが構築される。最後に内側の音で肉付けをしていく作業がヴォイシングであり、そこでコードが確定する2

メロディ・オーダーの作曲を、このような3プロセスで捉えます。

リシェル

もしシェリング後のヴォイシング段階で「ここはやっぱりスラッシュコードにしよう」となれば、シェルが変わります。あるいはベース音を置き直しても、もちろんシェルが変わります。そのようにメロディのシェルを変更することは、「リシェルReshellする」と呼ぶことにします。

「リシェル」は「リハーモナイズ」と似ていますが、指すところが微妙に異なります。例えば曲の流れの中でひとつのフレーズをリピートしながらコードだけ入れ替えていくような行為も「リシェル」という言葉の範疇に含めるものとします。

VImIV6VIIm7

こういうやつですね。そしてリハモがどちらかというとコード進行を面白くすることに焦点が当てられているのに対し、リシェルはあくまでもメロディの聴かせ方を変えるのが目的です。それから状況によっては、リハモをしてもシェルが変わらないということもありますね。

Reharmonize without Reshelling

特にこの「リシェルのないリハモ」という行為は、シェル関係を崩さずにサウンドの彩りを変えるということですから、テクニックとしても重要です。そういったところを意識する意味でも、「リハモ」とは別に「リシェル」という言葉を持っておくことは都合がよいでしょう。


さて、前回と今回はまだV章のイントロ、導入ですね。「オーダー」「シェル付け」「リシェル」といった用語を整理したことで、ハーモナイズを論じる準備が整ってきました。次回からいよいよ、本論に突入します。

まとめ

  • ハーモナイズに精通すると、ひとつのメロディに対して複数のコード進行を効果的にあてられるようになり、リピート構造を保ったまま楽曲に展開をもたらせるようになります。
  • ハーモナイズの作業を大別すると、ベースをつける「シェリング」と、内部の音を肉付けする「ヴォイシング」の2段階に分かれます。
  • あるメロディについて、ベース音を変えるか、もしくはスラッシュコードに読み替えると、シェルが変わります。このことを、「リシェル」と呼びます。
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