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今回は「新しい音階を知る」回です。
前回に引き続き、「教会旋法」を学びます。ここで学ぶ「ミクソリディア旋法」は、前回のドリア旋法とは異なり、明るいタイプの旋法です。ポップスやロックにおいて活用されているユニークな旋法を知ることができます。
今回紹介するのは、ドリア旋法と同様、ポピュラー音楽で頻繁に活用されている、「ミクソリディア旋法」です。
1. ミクソリディアの構造
まずは前回同様、似ている音階と比較して、構造の違いを確認します。ミクソリディア旋法は、どちらかというと長音階に近いので、「Gメジャースケール」と比較します。
見比べると、7番目の音が異なっています。「メジャースケールのシの音を半音下げたもの」がミクソリディア旋法ということです。
この変化はいったいどんな曲想を生み出すでしょうか? これまでの知識から、推測してみてください。
2. ミクソリディアの曲想
I章のカーネル論を思い出すと、シは「導音」と呼ばれる音。主音へのなめらかな解決を生み出し、メロディに終止感をもたらしてくれる大事な音でした。マイナースケールはそのためにわざわざ人工的にソをシャープさせてまで導音を作ったんでした。
ミクソリディア旋法は、その貴重な半音関係を自ら捨てている旋法です。半音関係が全音関係に変わるのですから、野生みや力強さを印象付けるのに適した音階となります。場合によっては、アッケラカンとした明朗さを想起させることも。それでは、実際の音楽をみてみましょう。
ポップ風の活用
こちらは、ミクソリディア旋法の「明朗さ」を活かした典型的な例です。普通のメジャースケールでは出せない奇妙な明るさを醸し出しているのがわかると思います。
メジャースケールに戻したものも、聴いてみましょうか。
ちょっとなんだか、クラシカルすぎますね。単調で面白くない。逆に言えば、ドリア旋法やミクソリディア旋法といった教会旋法には、シンプルでもきちんと聴かせられるだけの魅力を備えているということです。
実際の曲例
この「明朗さ」は、明るいポップスやゲーム音楽でよく活用されます。
いずれも、クラシック時代にはない雰囲気の明るさを作り出していますが、それはミクソリディア旋法のパワーなのです。
ロック風の活用
上ではポップ風な活用でしたが、「シがシ♭になることによる全音段差の力強さ」が特徴ということで、豪快なロック系音楽とも相性ぴったりです。
こういったギターリフで活用されます。トーナル・センターのすぐ下が全音になったおかげで、大胆で力強く勇猛な雰囲気が生まれました。こちらも比較実験として、普通のメジャースケールに戻したバージョンも聴いてみましょう。
途端に大人しく、ポップな感じになってしまいました。サウンドとうまく合致していません。聴き比べてみると、ミクソリディア旋法の独特なサウンドがよくわかります。
実際の曲例
やはり、普通のメジャースケールでは作り出せないレベルの「大胆さ」が感じられますね。とりわけロックでは、「シ♭→ド」のモーションをベースが担当することで底から力強さを演出し、一方でメロディではド-ミ-ソの明るいメジャーな雰囲気を出すというような役割分担も見られます。
3. ミクソリディアの用法
さて、ここからは前回と同様、曲中でミクソリディア旋法を適切に用いるために必要な知識を入れていきます。まずは話を分かりやすくするために、中心音をC音に移してもう一度ミクソリディアの並びを見てみましょう。
「第vii音を半音下げる」ですから、こういうことになります。この「フラットした第vii音」が、ミクソリディア旋法とメジャースケールの違いを決定づけるものですから、これを「特性音」と呼ぶんでしたよね。一応楽譜でも確認すると、こうです。
♭がひとつということは、何の調と同じだか覚えていますか? 思い出せなければ、「五度圏」を確認してみてください。
Fメジャーキーですね! ですからまた「C音を中心にさせたいメロディと、勝手にF音を中心にしちゃうコードたち」という争いが起きるのかと思いきや、意外とそうでもありません。よっぽど変なコード使いをしない限りは、きちんとC音を中心に感じさせることが可能です。この点に関してミクソリディアは、ドリアよりも利用がかんたんです。
マイナースケールとの類似性
ミクソリディア旋法の使用においては、むしろマイナースケールとの親近性を意識することが重要です。
こうやって見比べると確かに、シ♭音というのは「Cマイナーらしさ」を司る音のひとつであるとも言えます。ちょっとさっきのロック音源を、ミクソリディア旋法からマイナースケールに変えたヤツも用意して、もう一回並べてみますね。
上から順に、メジャー、ミクソリディア、マイナー。なるほど確かに、「大胆さ」「力強さ」という観点でいえば、マイナーとミクソリディアには共通するものを感じます。もちろんミとラの♭があるぶんコッチの方がかなり憂鬱に感じられますけど。
もっと言うと、ミ・ラの音を全く鳴らさなかったら、「ミクソリディア」と「マイナー」は区別がつかないということになりますね。
こちらは実際にそれをやってみた例。マイナーほど暗くはなく、確かにミクソリディアほどアッケラカンともしていない、「ただただ大胆」という感じに仕上がっていますね。非常にロックらしさがあり、これはこれでよい。まあそのような前提認識をふまえたうえで、具体的な作曲法を見ていくことにします。
コード使いの配慮
ドリア旋法と同様、とにかく大事なのはIの和音をたくさん使うこと。それによって、キー・トニックの位置をしっかり認識してもらいます。また、この時ミの音をきちんと鳴らし、「マイナーとは違うんだぞ」とアピールしてあげることが、ミクソリディアらしさを出すには重要なことです。
ただもちろん、ついさっきの音源みたくロックさを出したいのであれば、あえて鳴らさずメジャーとマイナーの間に行くというのも大いに結構ですけどね。