目次
3. ドリア旋法の復習
まず教会旋法で最も使い道の幅広いドリア旋法。
たまたまケルト音楽で使用される音階と合致しており、そのせいなのか異国情緒が漂う。それがドリア旋法でした。
お手軽に「民族っぽさ」を演出できて、しかも「アラビアの音階」みたく特定の民族を想起させることがないため、ゲーム音楽のBGMでは引っ張りだこなんでしたよね。
ドリア旋法とコード
主な使用コードもまとめておきましょう。
再確認すると、たとえ「共通コード」にまとめられているコードでも、実際の使用頻度には開きがあります。ドリア旋法では、IIImの使用頻度があまり高くありません。
Vのコードにカッコがついているのは、セブンスまで乗せたときに通常のAマイナーキーにはないメジャーセブンスのサウンドが出来てしまうからでした。トライアドとして使うぶんには、十分自然に導入できますし、実際の使用頻度も高いです。
ジャズやロックとドリア旋法
ではここからが、隠れた用法の紹介です。そんなドリア旋法、必ずしも民族調の演出だけに使われるわけではありません。ロックやジャズの即興演奏の際に、よく使われるのです。その場合、コードはVIm一発でそこにアドリブを乗せていくようなものがふつう。
こんな感じですね。ラドミの和音に半音上からかぶさるファがいなくなってファ♯になっているのでメロディラインがコードの邪魔をしにくく、それが即興演奏においてドリア旋法の好まれる理由のひとつでもあります。実際の曲例としては、マイルス・デイヴィスの「So What」、イエスの「Close to the Edge」など。
教会旋法はいずれも、ポピュラー音楽に取り入れられる中で、本来とは違った役割を得ています。面白い話ですね。
4. ミクソリディア旋法の復習
次はミクソリディア旋法をおさらいしましょう!
メロディ構成においてとても大事な傾性音である「導音」が半音下がり、トーナル・センターとの関係が「全音差」になる。そのため、半音進行の滑らかさが消失し、結果として「豪快」だったり「あっけらかんとした明るさ」が生まれる。それがミクソリディア旋法でした。
サウンドやメロディラインの選び方次第では、ポップな感じにもロックな感じにもなります。
「シ♭・ド・レ・ミ」の全音差4連発のラインを強調すればファニーな感じになり、「ファ・ソ・シ♭・ド」あたりを中心にするとロック風になるんでしたね。
ミクソリディア旋法とコード
ミクソリディア旋法とセットで使用する主なコードは以下。
IImとVImは暗くなってしまうので、実際の使用頻度は低め。補助コードを使いすぎるとドンドンCマイナーキーに寄っていくので、バランスが重要という話でした。
ドリア旋法の楽曲は割と多彩なコード進行で表現したりしますが、ミクソリディアとフリジアはシンプルな方が、旋法の魅力が出やすいです。
ブルースとミクソリディア
ミクソリディアの用法でまだ説明していなかったのは、ブルースでよく使われるということです。
ブルースは、Cの代わりにC7を使うことでお馴染みの、ちょっと音楽的には変わったジャンルです。それで、コードがC7の時にソロを弾こうとすると、自ずとそこにミクソリディアンスケールが生じることになります。
ブルース音楽が持っている独特の明るさは、この「導音の消失」による影響があるのです。シに♭というのは、「ブルーノート」でも登場しましたね。そこと通じるものが、ミクソリディアにもあるわけです。
5. フリジア旋法の復習
最後は、ついこないだやったフリジア旋法です。
本来は上方へと引っ張られるはずの「シ」の音がフラットすることにより、下方への傾性の方が強くなる。その結果、「大地にへばりつくような重さ」が生まれるのがフリジア旋法でした。ドリア・ミクソリディアと比べるとトーナル・センターを確立しにくいため、コード進行はかなりシンプルにしてあげるのが良いんでしたよね。
こうやってピアノ曲で使ったりすると、かなり淀んだ重たい雰囲気が出ます。そしてその重さゆえ、昨今のEDMととても相性がいい。
独特の重さを活かしてあげることが、フリジア旋法のポイントでした。
フリジア旋法とコード
フリジア旋法の主な使用コードは以下です。
そうは言っても、実際にはVImと♭VIIだけ使えば十分で、余計なことをするとドンドン調性感が揺らいでしまって、気持ち悪くなる危険があるという話でした。
スペイン音楽とフリジアン
「重たさ」が基本のフリジアンなのですが、このVImとVIIの反復を、ちょっと速めのテンポで演奏するとどうなるでしょうか?
なんだか、ちょっと毛色の違う感じがします。これは、何かを私たちに想起させる音色です・・・どこかで聞いたことがある・・・
そう、スペインあたりのダンス音楽の感じです!フラメンコ風になるってことですね。当然このコード上にソロを乗せる場合はフリジアン・スケールがピッタリになりますから、そうすると同じフリジアンでも生み出される雰囲気は全く変わってきます。
ギターの音色や激しいリズムのため、鬱々した雰囲気はやや影を潜めました。
スパニッシュ・スケール
やや余談になりますが、フリジアンスケールは実際にスペイン音楽の音階と類似性があり、フリジアンスケールにたった一音加えると「スパニッシュ・スケール」と呼ばれる音階になります。
1オクターブ中で8つの音を使うことになるので、これは「八音音階」です。それゆえ、このスケールは正式名称を「スパニッシュ・エイトノート・スケール」と言います。Eマイナーを作るG音と、Eメジャーを作るG♯音が混在する形になるので、非常にユニーク。クラシックやポップスにはない雰囲気が作り出されます。
こちらがスパニッシュ・エイトにしてみた例。やっぱりちょっとアラビアっぽい感じがしますが、これはスペイン音楽の音階。民族音楽というのは奥が深いですね。
6. 旋法同士の関係
Ⅲ章でやってきた旋法たちは、ドレミファ順に並べるのでなく、その音の違いに着目してあげるとその全体像が見えやすいです。メジャースケールに近いのかマイナースケールに近いのか、そこから音が浮き上がっているのか沈んでいるのか。そういった観点から、明るい順にスケールを並べていくと、以下のようになります。
そう、こうやって一音ずつずらしていくと、全ての旋法を網羅することになります。
トーナル・センターに対して長3度・完全5度の音を含んでいるのが明るいメジャーグループの音階たち3つ。「ミクソリディア」から3rdの音が下がって暗く転じると、「ドリア」になってマイナーグループに突入します。完全5度を失ったロクリアは、さらに不安定な構成になる。このようにして並べると、浮きすぎている「リディア」と沈みすぎている「ロクリア」が、最も曲を構成するにあたって難しい音階であることも頷けます。
この見方はいわば、CメジャースケールとCマイナースケールを比べる行為と同じで、「パラレルな視点」から旋法を並べたものです。まさしく、似ているけどちょっとだけ違う、”パラレルワールド”が7つ存在しているわけです。
長短と変化音でまとめる
あるいは、全てドを起点にまとめるのではなく、メジャー系/マイナー系で区分して、おなじみの「レラティヴな視点」でまとめても分かりやすいです。
「ロクリア」を仲間はずれにすれば、他の4人(ドリア、リディア、フリジア、ミクソリディア)はみなメジャー/マイナースケールからの一音変化しているだけ、しかも変わる音はファかシのどちらかです。
このようにしてみると、メジャースケール/マイナースケールが互いに互いをずらした存在であるのと同様に、リディア/ドリアのペア、ミクソリディア/フリジアのペアも、互いに起点をずらしただけの関係であることがわかります1。
上2つの表は、情報量は多いですけども、すごく大事な一覧表です。音の世界が互いに繋がっているような感覚を覚えますね。
広義のレラティヴ
メジャースケールとマイナースケールは、音階の構成音が同じで、中心の認知が違うだけ。これを「レラティヴ」の関係と呼ぶのでした。これまではメジャーとマイナーのペア関係を指す言葉として使っていましたが、七つの教会旋法もまた「音階の構成音が同じで、中心の認知が違うだけ」ですから、実は7人全員がレラティヴ関係ということになります。
- レラティヴ (Relative)
- ある2つの音階の、構成音が同じ(だが中心音が異なる)という関係性を指す言葉。
- 「七つの教会旋法」は全員がレラティヴの関係にある。
実は大家族(?)だったんですね。この7人はみな「全全半全全全半」をグルグルずらした関係にある。主音が定まることでどの旋法か決まるわけですが、主音がまだ定まっていない状態のものにも全音階Diatonic Scale/ダイアトニックスケールという特別な名前が与えられています2。
実践ではたいてい主音は定まるわけなので、これは実践とはあまり関係ない、概念上の用語です。
準備編のメジャースケール、マイナースケールから始まり、I章では「四七抜き・四抜き・二六抜き」。III章前半で「ブルーノート」に「ハーモニックマイナー」「メロディックマイナー」「ホールトーンスケール」を学び、後半では5つの教会旋法と「スパニッシュ・エイト」を手に入れました。これでもうなかなかの上級者です!
総括
- リディアン・ロクリアンは他の旋法と比べ使用に難しさがあり、かなりの工夫が要されます。
- 教会旋法は複数のジャンルで使われており、表現の仕方によって印象が変わります。
- 教会旋法は、主音を揃えて並べるとリディアからロクリアまで一音ずつ変化していくような関係性になっており、このような「パラレル」の視点を持つと各旋法の立ち位置やアイデンティティが理解しやすいです。