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ここまででドリア・ミクソリディア・フリジアの3つを紹介しました。これで残すところは「リディア旋法」「ロクリア旋法」なのですが……どちらも響きがかなり特殊です。ポピュラー音楽の世界での活用法が他3つと比べるとだいぶ限られてくるので、この記事内でまとめて紹介します。

1. リディア旋法

リディア旋法は、メジャー系の明るい旋法です。まずは、メジャースケールとの違いを決定づける「特性音」の確認をしましょう。

リディアンの特性音

メジャースケールの第iv音をシャープさせたものががリディアンスケールとなります。これは強傾性音の消失という点ではドリア旋法と似ています。ファ-ミの解決ラインがなくなり、ちょっと浮ついた感じが生まれる。

シャープが1つ増えますから、シャープが1個多いキーと混同されないように死守する必要があります。Cメジャーキーだったら、Gメジャーキーに聴こえてしまう危険があるということですね。

リディア旋法の困難さ

リディア旋法の難しいところは、旋法音楽にとって大事である「中心音の強調」と「特性音の強調」を同時に行なった時にド-ファというトライトーンが形成されてしまう点にあります。

ド-ファは厄介です。というのも西洋音楽のスキームでは、このようなトライトーンは半音ずつ移動して「シ-ソ」になって解決するというパターンが強固に存在しているからです。

もしこう動いてしまったら、これはもうすっかりGメジャーキーの調性が生まれてしまいますよね。仮にここまで露骨に解決しなかったとしても、このド-ファはドミナントの機能を思わせる匂いを常に放っています。ですので、これまで紹介した旋法と比べるとかなり調性が脅かされた状態での作曲を要求されるようなところがあります。

例えばこれまでの方法論で考えたら、ベースをCで固定して、ファを含むような「特性コード」…例えばDメジャーなんかをふんだんに盛り込めば旋法の雰囲気が出るはずですが……

CD/Cの繰り返し

これだけやってもまだ、CIというよりもIVに感じてしまうところはあります。ド-ファが形成されるD/Cがドミナントを思わせるというのもあるし、私たちがトニックに解決せずにIVVを繰り返すような音楽にすっかり慣れ親しんでしまっているせいもあります。

こういうポピュラー音楽に慣れきった私たちの耳にリディアをリディアらしく聴かせるには、コード進行に加えて旋律の作り方でもだいぶサポートしてあげないといけません。

リディア旋法のコツ

ゲーム『ヨッシーストーリー』のステージ1-1のBGM『ヨッシーのうた』の冒頭部分は、リディア旋法がうまく形になった一曲です。構造に一切のムダがなく、冒頭のベースはまずド-ソの反復でドの中心性をアピールします。一方メロディはのっけからファの音を鳴らしていて、ベースとの「ド-ファ」の構築は危険ではないか!?と思うところですが、すぐミへと下行することで、このファがソへの導音ではないことを強調しています。
ここが本当にうまくて、メジャースケールでお馴染みの「ファ-ミ」の解決ラインが変形して「ファ-ミ」になったのだという“感じ”が演出されています。

傾性論の基本原則から言えば、ファは半音差であるソへと進むのがなめらかです。しかしそれをしてしまうとソが中心性を増してしまう。あえてミへ進むことで「ミが安定音である」という感覚が芽生え、それによって中心がソではなくドであるという認識が強固になっていく……といったところでしょう。

ただやはりこれくらいケアをしてあげないと成立させられないため、色々なパターンを見せて展開を作っていくのは大変です。そこでこの曲ではその先でミクソリディア旋法を使ったり、通常のメジャーキー音楽に移ったりして曲を展開させています。

2. ロクリア旋法

残るロクリア旋法は、マイナー系の旋法。フリジアンと似た重苦しさがあるので、ちょっと並べて比較します。

比較

ご覧のとおり、マイナースケールが一段階暗くなるとフリジアン、そこからさらにもうひとつ暗くなるとロクリアンということになります。フリジアンと比べると、第5音がフラットしています。この音が、ロクリアンの特性音です。

ロクリア旋法の困難さ

スケールの5番目の音が変化しているため、ロクリアンにおいては主音から”お団子がさね”で和音を作ると、普通のマイナーコードが出来上がりません。マイナーフラットファイブという、コード編III章で紹介される特殊なコードになってしまいます。

ロクリア旋法の主和音

だから他の旋法と違って、「とにかく主和音を鳴らしていれば中心性を主張できる!」という“黄金の方程式”が成り立ちません。主和音を鳴らしていても、調性感がしっかりと確立されません。この点において、ロクリア旋法は他よりも特異で難しい存在なのです。

ロクリア旋法のコツ

そのためロクリア旋法で一曲を成立させるには、「3度堆積のコードとその進行」というクラシカルなシステムを使用せず、フレーズの重ね合いや反復で曲を形作っていくことになるでしょう。

このようにひたすらモーダル・トニックを中心にしたフレーズを重ねていけば、狙いどおりの位置をリスナーに中心だと感じさせることができます。フリジアンよりもさらに重苦しい、宗教めいたようなサウンドが生まれます。少し日本古来の音階に似たところがあって、日本人にとってはやや親しみやすいかもしれません。

旋律を作る際のポイントは、マイナースケールと共通していてなおかつフレーズに絡めやすい、3・4・7番目の音を上手く使ってあげることです。

トーナル・センターの安定化

この3つの音を主和音とうまく絡めれば、モーダル・トニックがトーナル・センターであると、リスナーに感じさせることができます。

こちらはEDMでのロクリア旋法の使用例。難しい減5度の音を、「ブルーノート」的なワルい感じ、ダークな感じにうまく繋げていますね。

こちらはメタルでの使用例。ギターソロの方は主に通常のマイナースケールを中心に弾いている感じですが、サイドでリフを弾くパワーコードがロクリアンになっています。主音と特性音が作るトライトーンの音程は「音楽の悪魔(Diabolus in Musica)」とも呼ばれますが、その悪魔的なサウンドもメタルとは相性ぴったりです。


さて、これで教会旋法はひととおり説明し終えました。ただ、ドリア・ミクソリディア・フリジアには、まだ紹介できていない別の使い方がそれぞれあります。ですからここからは、ここ数回の総括ということで3つのモードの特徴を復習しながら、同時にその「残りの部分」を紹介いたします。

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