目次
3. 基本は3°クラスから
3つのクラスは、使いやすさに大きな差があります。圧倒的に使いやすいのが、「柔らかさ」を持っている3°クラスです。
使い勝手に関して本当に圧倒的な差があります。コード理論にそこまで詳しくない現段階では、「常にこの3°クラスをメインとし、先述のシェルの偶奇関係で問題が発生したときには、ずらして4°を使う」という方法論さえ持っていれば、それで十分基本的なハモリは完成させられます。まずはこの「柔の配置」を使ってハモリのシステムを見ていきましょう。
「柔の配置」4種を聴き比べる
はじめに簡単に、4種の「柔の配置」を聴き比べます。
- ハモリなし
- 3度下のハモリ
- 3度上のハモリ
- 6度下のハモリ
- 6度上のハモリ
聴くとハッキリ分かりますが、「6度上」はメインメロディよりも圧倒的に高い位置で歌うことになるので、どうしても目立つし、何よりサビなんかではもう音域が足りないということで、実際に使われることは稀であるはずです。今回の例だとこれで成立しているとは言い難い。男女でのデュエットなんかでは、このようなパターンもありえるかもしれませんね。
こちらは実際に男女デュエットで6度ハモリをしている例。男声の方を主ととれば「6度上ハモリ」と言えますが……パワーの均等なデュエットなので、どちらが主とも言い難いですね。
ですから「柔の配置」の中でも実際には「3度下」「3度上」「6度下」、この3つだけがメインウェポンということになります。
上下について
ハモリの位置どりは「上下」と「遠近」という価値観を元に2×2の4とおりに分かれるわけですが、まず「上下」についてはそれぞれ次のような特徴を持ちます。
下の配置 | 下からメロディをそっと支える形。控えめでメロディを邪魔しない |
---|---|
上の配置 | 上に花を添える形。きらびやかだがメロディを邪魔しうる |
どちらかというと多用されているのは下の配置、いわゆる「下ハモ」の方だと思います。「上ハモ」は華やかさが魅力なのですが、一方で主の旋律を食ってしまう可能性があるので、音量のバランスに気をつける必要があります。
遠近について
「遠近」については、“ボーカル隊”がどれくらいの音域を占有するかを意味しますから、メロディラインの輪郭、その広さのようなものを決定づける要素だと考えてください。
近の配置 | メロディに密度を与えてラインをクッキリ見せる |
---|---|
遠の配置 | メロディに広がりを与えてラインをリッチに見せる |
どちらもラインが“太く”なるわけですが、「密集した太さ」と「広がった太さ」という違いがあるわけです。
少し感覚的な表現になりましたが仕方ない。基本的にはメロディラインをハッキリ聞かせるために「近の配置」が取られることが多く、「遠の配置」の方が変化球になるかと思います。
配置の人気度
「柔の配置」となる4人の特徴をまとめると、次のようになります。
度数 | 配置 | 特徴 | 使いやすさ |
---|---|---|---|
3°↓ | 下・近 | 控えめで密度がある | ◎ |
3°↑ | 上・近 | 華やかで密度がある | ◯ |
6°↓ | 下・遠 | 控えめで広がりがある | ◯ |
6°↑ | 上・遠 | 華やかで広がりがある | × |
これを指針にして、あとはカーネル/シェルの面から調整をしていくというのが基本コースという感じですね。
強傾性音の取り扱い
3度さえ保っていれば基本OKという話になりますが、一方で一時的に3度から外れた方が音響的に良い結果を得られる場合もあります。ひとつはカーネルの目線からで、強傾性音のファやシによってハモリが目立ちすぎることを避けることが考えられます。
左のようにドが3度上からかぶさる分には、安定音ですから特に何の問題もありません。しかし右のようにファが3度上からかぶさってくると、「ファ特有の揺さぶり」をハモリの方が発揮する、メインメロディの上でそれをやるということですから、その情感が邪魔になる可能性があるということです。
こちらが実際にありそうなパターン。メロがレで伸ばしているところに、ファがかぶさる。かなり強い情緒ですよね。あるいはこれはシェル目線で見て、ハモリが7thを取るのは濁りが強すぎるのだという言い方もできるでしょう。どちらにせよ、これが悪目立ちして嫌だなというときには、4°に変えて回避するという対策を打ちます。
過度な情緒が消えて聴きやすくなりました。この「レ-ソ」の4度のハーモニーから「硬さ」のようなものをぜひ感じてもらいたいところです。しかしここだけ配置が変わって硬くなるという“不揃いさ”もあって、必ずしもこちらが良いとも言い切れない。そうなると、もう最初から「上ハモ」じゃなく「下ハモ」にしとけば丸くおさまったのかなとも思います。
これもアリですよね。カーネルも含めた多角的な視点から、どのハモリがふさわしいか決めていくわけです。
オクターブ移動で配置変更
あるいは別の方策として、3度上のハモリをそのままオクターブ下げれば、6度下のハモリへと早変わりします。
単にオクターブ下げただけですから、カーネル/シェル等の関係性は「3度上」のときと完全に同一です。だから今回だと最後は強傾性音のファで伸ばしているわけですが、やっぱり下にいるぶんそれが目立ちにくいですね。
つまり、「3度上」のカーネル/シェルを気に入ったんだけど、目立ちすぎてどうしよう…というときの代替案としてこの「6度下」があると覚えておくとよいです。
ファ回避の実例
“I Don’t Want To Miss A Thing”はファを避けて通るハモリが見られる典型例です。 サビの直前(1:07- “treasure”)とサビの始まり(“don’t want to close my eyes”)のメロディに注目してください。どちらもコードはVで、メインメロディは「ミ→レ」と動きます。これに対し3度上を基調とするハモリは「ソ→ファ」と動きそうなところを、「ソ→ソ」と同音を維持しています。
どちらの場面も盛り上げを作っていきたい場面なので、強傾性音でありVにおける7thという濁りの度数でもあるファによってパワフルさが減じられてしまうことを忌避し、代わりに安定音でありまたVのコードに対して最も何も着色をしないRtであるソの音を維持することが選ばれています。