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「シェル」という概念を知ることで、ハーモニーとメロディとの関係性というのが分かってきました。ここでそろそろ、メロディを補強する「ハモリ」の付け方を、理論的に理解していきたいと思います。
メインメロディに対するハモリの乗せ方というのは、「合いの手を入れる」とか「ロングトーンを伸ばす」とかもありますが、今回はポピュラー音楽で最も一般的な、「メロディにぴったりリズムや歌詞を揃えて、音程だけ変える」タイプを扱います。
1. シェルの偶奇とハモリ
ハモリを論じるにあたってカギになってくるのが、「シェル」です。シェルの概念を取得したことで、ハモリ論は非常に分かりやすくなります。
2章前半では、奇数度のシェルは傾性を下げ、偶数度のシェルは傾性を高めることを確認しました。「7度は他の奇数シェルと比べるとちょっと濁りはある」というのもポイントでしたね。
ハモリとて「副旋律」ですから、この理論は当然あてはまります。
メインメロがそうであるように、長く伸ばす音、小節頭の音といった目立つ音については、シェルの偶奇をきちんと注意してあげることが望ましい。メインメロディとハモリの偶奇状況の組み合わせは、4とおり考えられます。
表でまとめると、以下のようになります。
パターン | 主・副 | 使いやすさ | 説明 |
---|---|---|---|
① | 奇・奇 | ◎ | 両者ともに安定状態 |
② | 奇・偶 | × | メロの安定をハモリが崩す形 |
③ | 偶・奇 | ◯ | メロの不安定をハモリが支える形 |
④ | 偶・偶 | △ | 両者そろって不安定 |
簡単に言ってしまえば、大事な箇所のハモリは奇数シェルにしておくのが安心という一言に集約できます。④のような「ダブルで不安定」はまだ曲想表現として活用できますが、②のように「メロは落ち着いているのにハモリがかき乱している」という状態はマイナスに働く可能性もあって、その効果をよく理解する必要があります1。
まずハモリ単体について、メロディと同様の偶奇意識を持つこと。これがスタートラインです。
カーネルも大事
もちろんシェルだけでなく、カーネルの存在も忘れてはいけません。メロディ理論でやってきたこととは全て、「副旋律」であるハモリにもあてはまります。ですから例えば強傾性音であるファ・シには多少プラスで注意を要するときがありますね。これについてはもう少し後の方で確認しましょう。
2. 度数関係のクラス分け
ハモリの単体としての安定感とは別に、ハモリならではのポイントとなるのが、もちろんメインメロディとの距離関係です。
ハモリは基本的に、メロディの上下移動に合わせて寄り添う、つまりは等間隔を保って移動するのが基本です。
もし「ハモリの音はコードの構成音から選ばないといけない」と思っているようであれば、それは違います。確かに目立つところではコードトーンを使うのが安心ですけども、どちらかというと優先事項は、メロディラインの動き、その輪郭を補強してあげることにありますので、上譜のように、コードとの兼ね合いよりもメロディに寄り添うことを優先するのが基本になります。
もちろんサウンドの関係から一時的に間隔をずらしたりもしますが、「基盤とする距離」というものがあって、それをどうするかがまず最大のポイントとなるわけです。
3つのクラス
この距離については、まず大別すればたったの3クラスに分けることができます。
2°上下・3°上下・4°上下の3つです。それぞれ、周波数比率の関係から次のような音響的特徴を持ちます。
クラス | 特徴 |
---|---|
2° | 濁っている |
3° | 柔らかく、彩り豊か |
4° | 硬く、澄んでいる |
ハーモニーが持つ質感については、このようにしばしば「柔らかい・硬い」という形容が用いられます2。 微妙なニュアンスの捉え方は人それぞれですけどね。
5°以上との対応関係
5°以上の音程については、既に上で紹介された音をオクターブ移動することでこれが得られます。
7°は2°の、6°は3°の、5°は4°の親戚と捉えると理解がスムーズに運びます。もちろん周波数比率は変化しますので、サウンドの意味には多少の違いが生じます。ですけども、まずは「大きく分けたら3クラス」という形で覚えることで、見通しをよくしてからスタートしようということです。
例えば最初は「3度上」でハモろうとしたけど、高すぎて歌えなかった。そうしたら1オクターブ下げてみようと。そうすると度数関係は「6度」に変わるわけですが、単にオクターブ下げただけなのですから、そこには“柔らかい”という度数の質感がいくらか共通した形で現れるということです。
トライトーン
ただし、4度や5度といっても、それが「ファとシ」のペア(6半音)だった場合、それは「トライトーン」と呼ばれる非常に強い濁りをもった音程です3。
このハーモニーはもちろん「硬く澄んでいる」などと言えるものではなく、注意して使う必要のある「特別枠」として認識してください。この記事でいう4度・5度は、このトライトーンではないノーマルな4度・5度を指します。
また「クオリティ・チェンジ」などで臨時記号がついた場合には「ファ-シ」以外でもこの「トライトーン」が発生しうるので、そこは随時要注意ということになります。