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調性引力論 ❸ カーネルについて

ソの性質

ソ
傾性 弱い
安定性 安定
役割 高揚感や力強さ
半音関係 なし

ドから離れた位置で安定的な二本目の“大黒柱”として機能するのが、ドに次ぐ安定音であるソです。カーウェンがGRANDでBRIGHTと表現したとおり、力強く明朗な表現をするのに適しています。

サビの最高音に使うと?

同じ安定音であるミを最高音にした曲と比べるとさらに高さがあり、快活さがあるということで、そのような高揚感の演出にはぴったりです。

『Chernobyl 2017』『MONTAGEM HIKARI』はどちらもTiktokで人気になったトラック。どちらも「やりらふぃー」「光 Ah」と一気に跳躍上行する箇所が最高音となるソの音で、跳躍によってサビを一発で印象づけています。『ファッションモンスター』は「モン」のところがソですね。これらがまさに元気で快活といった表現でのソの活用例です。

『You’re Beautiful』と『今、話したい誰かがいる』はフレーズ始まりにソが多用されている例です。どちらの曲もソのカーネルを清らかさや決然とした心情の演出に昇華させており、また歌詞のテーマもそこにマッチしています。

ラの性質

ラ
傾性 中くらい(下行)
安定性 不安定
役割 ソに向かう傾性音 / 短調ではボス役
半音関係 なし

メジャーキーではソに向かう中傾性音であるラ。ただしマイナーキーでは中心を担うボス役ということで、傾性は生じません。キーの長短によって最も役割が変わる音です。したがってその使い方も、どちらのキーに寄っているかによって変わってきます。

サビの最高音に使うと?

マイナーキー系ではボス役として、ドに代わって「中心に到達した達成感」を演出します。一方メジャーキー系での定番パターンの一つは、ソが最高音かと見せかけて「もうひと押し」ということで「ラソ」と短く挿入される形です。これは「レド」や「ファミ」の動きと同じ意味合いで、安定音に対し上方からアプローチすることで「揺さぶり役」として使うのです。

『兵、走る』『ultra soul』と『千本桜』はサビのラストで、『Adventure〜』は中間の折り返し地点で、ラを着地点として活用しています。いずれもここぞという場所で用いることで、到達感を際立たせています。

『ないものねだり』『ソラニン』は比較的メジャーキーよりの曲調で、どちらも「ラ→ソ」の傾性解決を最高音で行うことでサビのフックとしています。

シの性質

シ
傾性 強い(上行)
安定性 不安定
役割 不安定さの演出
半音関係 上にド

前の「傾性」の時にだいぶ特集したので、記憶に残っているかと思います。トーナル・センターに唯一半音で解決する大切な存在であると共に、あえて解決しない「シ伸ばし」も、割り切れない大人な雰囲気を演出するのに使えるということでした。上の音源は、その「シ伸ばし」をずっと行なっているため、かなり落ち着かない感じがしますね。

サビの最高音に使うと?

この音が最高音になるということは、このシが引力に沿ってドへとゴールせずに落ちるか、さもなくばシで伸ばして終わるということなので、どちらにしてもあまり多用される類のものではないかと思います。ひとつ定番形としてあり得るのは、マイナーキーにおいてリーダーのラに対する揺さぶりとして上からアプローチしていく形です。

こちら、サビ始めが「シ→ラ」の動きになっています。「シ→ド」と上行終止するパターンと比べると、明らかにダークな雰囲気が漂います。

またドへとあえて到達しないことが曲想に大きく貢献しているケースもあります。

NewJeansの『Bubble Gum』のサビはメジャーキーともマイナーキーとも言い切れないアンニュイな空気を漂わせていますが、最高音シの使い方がなかなか特徴的です。”away”のところで「レ⤴︎シ-ソ-ソ-ミ」というふうに大きく跳躍してシへ進み、そこからドへ上がるでもラに落ち着くでもなく、ソへと再跳躍します。この塩梅が絶妙で、傾性音が順行で解決しない不安定な動きは、この曲の儚げなテーマ性をよく表現しています。
“fly away”や”far away”と歌詞では言いつつも、メロディはドへと到達せずに落ちていく。ちょっと浮力の足りない風船のような弱々しさがこの曲の強烈な魅力になっていますね。

他ちょっとしたところでは、「四抜き音階」の節回しの一つとして、短めに「ラ-シ-ラ-ソ」というラインを辿ることがしばしばあります。

こちらの3曲はいずれもサビが「四抜き音階」で、耳を引くフックとして「ラ-シ-ラ-ソ」が現れ、それがサビの最高音となっています。『TOKYO GIRL』は「メリーゴー(ランド)」、『恋する〜』は「も良くし(よう)」、『Life in〜』は「(Won’t you) take me where the」の部分ですね。

これらはみな、該当箇所の手前にはちょうど先ほど紹介した「ラ-ソ」の傾性解決ラインが含まれているという共通項もあります。
「ラ-ソ」のカードを切ってしまっているので、その一段階上の盛り上がりを行くラインとして、「ラ-ソ」を装飾したような存在として「ラ-シ-ラ-ソ」を使うといった配分感覚でしょうか。


3. カーネルの重み

さて、実際の曲例をたくさん参照することで、「カーネル」への理解が深まったとともに、名曲たちのメロディがいかに巧みに構成されているかも分かりました。彼らがメロディ各音の役割を理論的に計算して配置しているかといったら、きっとそうではないでしょう。やはり各音の質感というのを経験から体得していて、気持ちいいメロディラインの“ビジョン”が自ずと浮かんでくるのでしょう。でもそれは、理論が無意味ということではありません。まずこうやってカーネルの存在をハッキリ知覚したことで、体得への道はグッと近づいたはずです。

なお今回説明のしやすさから歌詞のある歌モノのメロディを題材に選びましたが、音の安定性や位置の高低からくる高揚感といった性質は、他の楽器のメロディにおいても何ら変わるものではありません。むしろ歌詞という明快な表現媒体のない楽器でこそ、こういったカーネルによる表現力というのはより一層重要になるでしょう。

また見ていって分かったとおり、7音のうちどれが優れているということはなく、どれかが“正解”ということもなく、あくまでも表現したい内容や演出したい雰囲気にピッタリなものはどれかという点からメロディを評価をしていくことになります。
逆に言うと、特に表現/演出するものが決まっていなかったら何が良いかも定まらないわけで、それがいわゆる「理論だけでは名曲は作れない」といった手の話ですね。理論とは表現したいものを損なうことなく形にするためのサポート役、感性を形にするための理性であるわけです。

今回解説した「カーネル」は、ここまでの内容を総括する重要な知識です。体得できるのはまだ先かもしれませんが、分析にはすぐ活用することができます。自分の好きなメロディを分析してみれば、きっと発見があるでしょう。

まとめ

  • 調の中で各音は固有の性質や役割を持ち、これを自由派音楽理論では「カーネル」と呼びます。
  • それぞれの性質を曲調や歌詞などと合わせてうまく生かすことが重要になります。
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