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調性引力論 ❸ カーネルについて

1. カーネル

各音の「傾性」についてしっかりと掘り下げたことで、だんだんメロディの仕組みがくっきりと見えてきました。ドレミファソラシドの7音は、ある調の中で「決まった役割」「固有の特質」を備えるという風に考えてしまってよいでしょう。

音階の例

コード編を学ぶと、コードにもそれぞれの役割があるということを知ることになります。
メロディも同じで、調の中でドにはリーダーとしての務めがあり、シはドに寄り添う引き立て役。ファはミへと流れる傾性音…。そのような、「音階の中の相対的な位置関係から生まれる、各音がもつ固有の特質」に対する感性を磨くことは、それすなわちメロディメイクのセンスを磨くということなのです。

名前をつける

しかし一般音楽理論では、このメロディの「役割」だとか「性質」を指す言葉というのが存在していません。やっぱり用語がないと、論を展開していくには不便です。そこで、「キーの中の相対的な位置関係から生まれる、各音がもつ固有の特質」のことを、原質Kernel/カーネルと呼ぶことにします。一応和名と英語名を用意しましたが、このサイトでは英語名の方を採用していきます。

カーネル (Kernel)
キー内の相対的な位置関係から生まれる、各音がもつ固有の特質。中心音からの距離、周囲との全音/半音関係や、これらに伴って生じる傾性、また音が持つサウンドの印象などもこれに含むものとする。

この「カーネル」という言葉が指す中身の代表が「傾性」ですが、そのほか音楽的性質を全てひっくるめたものを指す言葉だと思ってください。

歴史上の音個性論

音階の一音一音が固有のキャラクターを持っているという発想自体は、決して新奇なものではありません。例えば19世紀イギリスで階名システムの発展・普及に努めたジョン・カーウェン(1816–1880)は、ドレミの特徴を手で表すための手記号を考案しています。

カーウェンの手記号

安定音であるド・ミ・ソがみな横一直線であるのに対し、不安定音のレ・ファ・ラ・シはそれぞれの傾性方向に向かって指先が傾いている1ほか、カーウェンなりの音響イメージが手の形に反映されています。

また興味深いのは、ソは“GRAND(壮大)”、ファは“DESOLATE(寂しげ)”など、感覚の言語化を試みていることです。どんな形容詞がしっくり来るかは個人差がありますし、曲の使われ方によっても印象は変わってくるし、そもそも音を単語へぴったりと変換するということは本質的には不可能です。ただ一方で、おおよそのイメージを掴むために音を言語化することには実践上の助けになります。
そのためこの記事でも、多少踏み込んでメロディ各音の特徴を言語化します。ただここはどうしても主観性を免れないので、あくまで一つの見解として受け取ってください。なお今回はドを中心音とするメジャーキー環境を前提とした解説をし、マイナーキー環境で起こる変化の詳細についてはまたIII章で取り扱うことにします。

2. 各音のカーネルをチェック

さて、各音がどんなカーネルを備えているかは、もう既におおよそ分かっていると思いますが、ここまでの内容を踏まえ、改めて「傾性」「役割」と「周囲の音に半音関係があるかどうか」について復習していきます。

ただ、新しい知識が何も無いではつまらないので、「その音ばっかりを使ったメロディ」を聴いてカーネルへの感覚を養ってもらうと共に、「サビの最高音に使うとどうなるか」というワンポイント・レッスンを付け加えることにします。

ドの性質

ド
傾性 無し
安定性 安定
役割 調性の中心。着地・終止役
半音関係 下にシ

調の中心であり、全ての音の着地点として働くのがドで、7音の中で最も安定しています。

どんな場所から終止しても「解決感」を得ることができますが、半音関係のある「シ」から解決するのが一番なめらか。同じ順次進行でも、上から「レ→ド」と降りると全音差なのでもう少し快活な感じになります。

サビの最高音に使うと?

トーナル・センターへの解決は、メロディが完全に落ち着く終止の形です。その終止地点を最高音にするということで、到達感・達成感といった印象をリスナーに抱かせることが期待できます。

『アイデンティティ』や『バンザイ』はそれぞれ「どうして」「バンザイ」というフレーズの冒頭からいきなりドカンとドを用いて、そこにピークを持ってきています。

『ありふれたLove Story』は逆に滑らかな順次進行で「ドレミファソラシド」と上がっていってセンターに着地するようなパターン。センターに到達する満足感があるので、順次進行だけでも十分魅力的になります。

『両成敗〜』はキーフレーズである「止まらない」のところが「ド-ミ-シ-ド」となっていて、「ミ-シ」の跳躍、「シ-ド」の半音解決という2つの技が仕込まれている、ハイブリッド的構造になっています。

レの性質

レ
傾性 中くらい
安定性 不安定
役割 中心音のひとつ上としての浮遊感、高揚感の演出
半音関係 なし

上下隣は共に安定音で、かつどちらも全音差。そのため、上下どちらに進むかの期待度の差が最も少ない不安定音と言えます。全音下がってトーナル・センターに着地するとスッキリしますが、活用法は他にもたくさん。このフワフワを活かすスキルは表現者としてとても重要になります。

サビの最高音に使うと?

「不安定音」の一種であるので、伸ばして使うよりかは「ドが最高音だと落ち着きすぎるから、もうひと押しボルテージを高めたい」という時に、短めの音で挿し込まれることがどちらかというと多いかな?という印象です。

『You Raise Me Up』や『青い光』では、「レ-ド」という動きが複数回見られます。センターに対し上から降りてくることによる高揚感というのがあります。

『Wildstar』は逆に、後半の「La-la」とスキャットする部分で「ド-レ」という形で浮き上がって終わります。解決しないので、こちらはフワッと浮き上がったような余韻があります。

ミの性質

ミ
傾性 弱い
安定性 安定
役割 安定感があり、ドよりも情感が強い
半音関係 上にファ

ミは安定音のひとつ。上の音源も、全く違和感なく伸ばし続けられていますね。安定性という観点でいうとド・ソよりは劣って3番目であるとされます。2

「安定度が劣る」というのは決して悪い意味ではなく、ドが作る完全な安定性とは異なる質感を演出できることは武器です。相対的に中心音よりも上に位置していることからくる高揚の感覚と、その一方でレやファとは違い安定性があるということで、強い意志や感情をもって訴えるような表現などにはぴったりです。半音上にあるファとの連携プレイも含めて、曲の情感を形成するのに重要な音です。

サビの最高音に使うと?

最高音に使う場合は、安定音というポジションながらも、ドに比べると不安定で高さがあるという点からくる情緒の強さを生かすことになります。安定音であるため動かずにひたすら連打するとか、前後を跳躍させるといった選択がとりやすいのも特徴です。

『リライト』のサビは、最高音を何度も何度も歌いますが、それがミの音です。『スパイダー』は「だからっと」「奪って逃げ」などに最高音のミをあてています。ドの「終止感」とはまた違った感情の高ぶりがありますよね。

『天使にふれたよ』は、歌詞として重要なフレーズである「変わらないよ」の箇所が「レ-レ-ミ-レ-ド-ド」となっていて、これがサビ最高音です。ぜひ先ほどチェックした「レ-ド」の高揚と比べてほしくて、やはり「レ-ミ-レ-ド」とひとつ山が高いぶんエモーショナルさが際立ち、念押しをしているような情感に繋がっています。

ファの性質

ファ
傾性 強い
安定性 不安定
役割 不安定さの演出
半音関係 下にミ

既に何度も述べているとおり、ファは強傾性音です。この音源だけは、何箇所か聴いてて気持ち悪い場所がありますね。今回は仕方なく作りましたが、こんな風にファを連発するメロディはあまりオススメできません。
実はファというのは基本的なコードたちとぶつかることが多く、不協和を生みやすい位置に存在しています。この点において、同じ強傾性音のシと比べてファというのは単純な確率論としてより不安定なものとしてサウンドしがちです。コードとメロディの関わりを詳しく解説するのはII章以降になりますが、現段階でもファをより“危なっかしい”音だと認識しておくと実践上役立つでしょう。

その不協和はクラシックでもジャズでも重要な役割を果たしており、ファ→ミの解決が愛用されています。だからこそ逆に2000-2010年代にはこのファを抜いた「四抜き音階」がクールに感じられて流行したという話でした。

ファを無闇やたらに使ってしまうと、それは無駄に聴き手の不安を煽ることになりますので、どちらかというと曲想を“揺らす”意味のあるところに効果的に挿し込んであげる方が望ましいです。

サビの最高音に使うと?

この強傾性音を最高音に使うと、当然かなり強烈な「揺さぶり」を生みます。ですからその後は自然に半音下行して、スッキリ着地してあげる形が基本になります。

『旅立ちの唄』はファの効果的な使い方が最も分かりやすい、模範例です。サビの最後に「ファ-ミ」の動きが三連発されています。
『RPG』も似ていて、サビ終わり「僕らはもう ひとりじゃない」が「ミ-ファ-ミ-レ-ド」の繰り返しですね。ファ→ミの解決はとても柔らかい印象を与えます。

『キラーチューン』は、終わりじゃなく始まりにピークを持ってくるパターン。「空も・恋も・騙せ」の箇所が、「ファ-ミ-ミ」の三連打です。逆にサビ終わりはドレミだけのカラッとしたフレーズにすることで、明るくサビを終えていますね。

『明日への手紙』は少し毛色が違って、「(描)くことを」「温もり」の部分が「ミ-ファ-レ-ド」というラインで、ここが最高音となります。ファ→レと跳躍することで、ファは少しトゲのように飛び出た形になり、これがすごく切実で苦しい感じを生み出しているように思います。ですから、ファ→ミはあくまでも「基本の動き」であって、そうしないことにより生まれるサウンドもまた別の魅力を醸し出すという点は忘れないでください。

ソの性質

ソ
傾性 かなり弱い
安定性 安定
役割 高揚感や力強さ
半音関係 なし

ドから離れた位置で安定的な二本目の“大黒柱”として機能するのが、ドに次ぐ安定音であるソです。カーウェンがGRANDでBRIGHTと表現したとおり、力強く明朗な表現をするのに適しています。

サビの最高音に使うと?

同じ安定音であるミを最高音にした曲と比べるとさらに高さがあり、快活さがあるということで、そのような高揚感の演出にはぴったりです。

『Chernobyl 2017』はTikTokにて #やりらふぃー のタグで有名になったトラック。裏声で高くなる部分が最高音で、ソの音です。『ファッションモンスター』は「モン」のところがソですね。これらがまさに元気で快活といった表現でのソの活用例です。

『You’re Beautiful』と『今、話したい誰かがいる』はフレーズ始まりにソが多用されている例です。どちらの曲もソのカーネルを「清らかさ」や「決然とした心情」の演出に昇華させており、また歌詞のテーマもそこにマッチしています。

ラの性質

ラ
傾性 中くらい
安定性 不安定
役割 ソに向かう傾性音 / 短調ではボス役
半音関係 なし

メジャーキーではソに向かう中傾性音であるラ。ただしマイナーキーでは中心を担うボス役ということで、傾性は生じません。キーの長短によって最も役割が変わる音です。したがってその使い方も、どちらのキーに寄っているかによって変わってきます。

サビの最高音に使うと?

マイナーキー系ではボス役として、ドに代わって「中心に到達した達成感」を演出します。一方メジャーキー系での定番パターンの一つは、ソが最高音かと見せかけて「もうひと押し」ということで「ラソ」と短く挿入される形です。これは「レド」や「ファミ」の動きと同じ意味合いで、安定音に対し上方からアプローチすることで「揺さぶり役」として使うのです。

『兵、走る』『ultra soul』と『千本桜』はサビのラストで、『Adventure〜』は中間の折り返し地点で、ラを着地点として活用しています。いずれもここぞという場所で用いることで、到達感を際立たせています。

『ないものねだり』『ソラニン』は比較的メジャーキーよりの曲調で、どちらも「ラ→ソ」の傾性解決を最高音で行うことでサビのフックとしています。

シの性質

シ
傾性 強い
安定性 不安定
役割 不安定さの演出
半音関係 上にド

前の「傾性」の時にだいぶ特集したので、記憶に残っているかと思います。トーナル・センターに唯一半音で解決する大切な存在であると共に、あえて解決しない「シ伸ばし」も、割り切れない大人な雰囲気を演出するのに使えるということでした。上の音源は、その「シ伸ばし」をずっと行なっているため、かなり落ち着かない感じがしますね。

サビの最高音に使うと?

この音が最高音になるということは、このシが引力に沿ってドへとゴールせずに落ちるか、さもなくばシで伸ばして終わるということなので、どちらにしてもあまり多用される類のものではないかと思います。ひとつ定番形としてあり得るのは、マイナーキーにおいてリーダーのラに対する揺さぶりとして上からアプローチしていく形です。

こちら、サビ始めが「シ→ラ」の動きになっています。「シ→ド」と上行終止するパターンと比べると、明らかにダークな雰囲気が漂います。

他ちょっとしたところでは、「四抜き音階」の節回しの一つとして、短めに「ラ-シ-ラ-ソ」というラインを辿ることがしばしばあります。

こちらの3曲はいずれもサビが「四抜き音階」で、耳を引くフックとして「ラ-シ-ラ-ソ」が現れ、それがサビの最高音となっています。『TOKYO GIRL』は「メリーゴー(ランド)」、『恋する〜』は「も良くし(よう)」、『Life in〜』は「(Won’t you) take me where the」の部分ですね。

これらはみな、該当箇所の手前にはちょうど先ほど紹介した「ラ-ソ」の傾性解決ラインが含まれているという共通項もあります。
「ラ-ソ」のカードを切ってしまっているので、その一段階上の盛り上がりを行くラインとして、「ラ-ソ」を装飾したような存在として「ラ-シ-ラ-ソ」を使うといった配分感覚でしょうか。


3. カーネルの重み

さて、実際の曲例をたくさん参照することで、「カーネル」への理解が深まったとともに、名曲たちのメロディがいかに巧みに構成されているかも分かりました。。それから、多くの曲は歌詞との合わせ方が素晴らしかったですよね。やっぱり強いワード、大きいワードを最高音にあてることが多いようです。

彼らがメロディ各音の役割を理論的に計算して配置しているかといったら、きっとそうではないでしょう。やはり各音の質感というのを経験から体得していて、気持ちいいメロディラインの“ビジョン”が自ずと浮かんでくるのでしょう。でもそれは、理論が無意味ということではありません。まずこうやってカーネルの存在をハッキリ知覚したことで、体得への道はグッと近づいたはずです。

また見ていって分かったとおり、7音のうちどれが優れているということはなく、あくまでも表現したい内容に対してぴったりのものはどれかという観点があってこそ良し悪しの評価ができます。逆に言うと、特に表現するものが決まっていなかったら何が良いかも定まらないわけで、それがいわゆる「理論だけでは名曲は作れない」といった手の話ですね。理論とは表現したいものを損なうことなく形にするためのサポート役、感性を形にするための理性であるわけです。
メロディは、曲想に貢献しないような余計な音があればあるほど、まるで「摩擦」や「空気抵抗」が進むものの速度を妨げるかのように、説得力が弱まっていってしまいます。だから理論的に音の性質をを知ることで、そうした“抵抗”を削ぎ落とすことができ、それが心に刺さるパワーを持った曲を生み出すことに繋がります。

今回解説した「カーネル」は、ここまでの内容を総括する重要な知識です。体得できるのはまだ先かもしれませんが、分析にはすぐ活用することができます。自分の好きなメロディを分析してみれば、きっと発見があるでしょう。

まとめ

  • 調の中で各音は固有の性質や役割を持ち、これを自由派音楽理論では「カーネル」と呼びます。
  • それぞれの性質を曲調や歌詞などと合わせてうまく生かすことが重要になります。
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